玄関の扉がわずかに開いていた。嫌いな雨に打たれて不機嫌な顔の夜月は少々乱暴にその扉を開け、家に入った。

  いつもならぱたぱたと聞こえてくるはずの足音がいつまで経ってもない。

  夜月は玄関口に置いてある傘がなくなっていることに気づいた。


「……花?」


  嫌な予感がした。家の中がやけに静かだ。


「花。花」


  広間。花の部屋。夜月の部屋。温室。客間。地下の書庫。

  どこも人気ひとけがなく、しんと静まり返っている。


「花……」


  何が起こっているのかをようやく理解した夜月は、とっさに家を飛び出した。

  雨の存在など忘れていた。予備の傘を持ち出している余裕はなかった。


  夜月の頭には彼女のことしかなかった。

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