Ⅶ
食事の途中。
ザーッという音が聞こえた。
「ねえ夜月」
ほうれん草と茸の雑炊をぱくっと口に入れ、花は尋ねる。
「ザーッって音がする。この家、壊れちゃうの?」
夜月は耳を澄ます。
「いや……雨の音だ」
「あめ」
「上から水が降ってくる」
「あめ! あめ! じゃあ夜月、黒いバサバサ使うの?」
「バサバサ……傘のことか」
花はすっかりはしゃいで「あーめあーめバッサバサー」と妙なリズムで歌い出した。
夜月は思わず唇の端を持ち上げてしまった。
「お前も欲しいのか?」
「バサバサー!」
「お前は雨を知らないだろう。俺はできれば雨の日には出かけたくない」
「えーっ。夜月、あめ嫌いなの?」
「ああ」
食事を終え、夜月は出かける準備をした。花が玄関まで見送る。
「夜月! 行ってらっしゃい!」
傘を持って扉を開けた夜月に、花は大きく手を振る。
「……花」
そのまま行ってしまうかと思うと、夜月は扉を半開きにしたまま立ち止まった。首を傾げる花。
「夜月?」
「俺のいない間……いつもどうしてる」
夜月は花の方を向かずに尋ねた。
「えっと。お花にお水あげてるよ」
「……寂しくないか」
「……え?」
背後で花が動く気配を感じて夜月は振り返った。自分の腰にしがみついてくる花。夜月はおかしなことを尋ねてしまったと後悔する。
「花」
「花ね、寂しくなーい。夜月はちゃんと帰ってくるから、花、わかってるから。だから寂しくなーい」
夜月のシャツに顔をうずめて、花はふふっと笑った。
「……そうか」
花が夜月の腰を放し、夜月は扉を完全に開けた。いつの間にか、雨は止んでいた。
夜月の背中を見送り、花は小さく笑った。
「あーあ。夜月行っちゃった」
玄関に夜月が置いていった黒い傘に触れてみる。ざらざらしていて、花がいつも着ているふわふわしたワンピースとは素材が違うようだった。
「寂しい、なー……」
それは花が初めてついた嘘だった。
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