Ⅴ
花が寝息を立てている。
表情からは嫌が消え、わずかに赤く染まった頬が愛らしい。
「イレモノ……だった」
夜月は花の頭をなでようとして、ためらった。
「いっそのこと、俺の魂を盗ればいいものを」
シニガミの少女は夜月の考えも知らず眠り続ける。その中にはいったいどれだけの魂が入っているのだろう。
(明日には目覚めるだろうか)
夜月は花の頬を指でなぞる。そっと彼女の輪郭を確かめるように。
花が目覚める気配はない。
部屋を出て、夜月は温室に向かった。長らく立ち入っていなかったそこは、花が時々手入れしていたようでさほど荒れていなかった。
(相変わらず甘ったるい)
昔はこの温室がお気に入りの場所だった。しかしいつからだろう、その無邪気な甘い香りを毛嫌いして近づかなくなってしまった。
夜月は温室の中央で一際甘い香りを立ち上らせている花をハサミで刈り取った。ザン、と重い音がして花が落ちた。
ひとつ、またひとつ。夜月は花を落としていく。
(儚い命だ……)
彼女もこのように刈り取られてしまった。
夜月のその手によって。
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