「夜月……これ、いらない」


  花は目の前の皿を前に押し出した。


「お腹いっぱい」

「まだひとくちしか食べてないだろ」

「お腹いっぱい」

「花」

「お腹……いっぱい」


  いつもは素直に夜月の言うことを聞く花が、強情に言いはる。


「花?」


  花が座っていた椅子からずり落ちた。


「花!」


  慌てて夜月が抱きすくめると、花は真っ青な顔で薄く唇を開いた。


「気持ち……悪い」

「吐きそうか?」


  花は首を横に振った。


「花の中で……誰かが、叫んでる。助けて、助けてって……」

「………………」


  夜月はハッとした。


(誰かが、叫んで……)


  花の中で魂が暴れているのだ。まだ小さなこの身体に閉じ込められた消化しきれない魂が、花を侵そうとしている。

 

(所詮イレモノだ……いずれは収まる)


  それはわかっていた。花はまだ成長途中で、イレモノとしてまだ不完全なのだ。これから時間をかければ魂の消化も追いつくだろう。


  花は夜月の腕の中で気を失った。夜月は彼女を自分の部屋まで運んでベッドに寝かせた。

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