目が覚めても、そこは同じ場所だった。

  変わったのは“感覚”。侵されているいつもの不快感がすっかり失せ、自分の意識だけが心地よく存在している。


  夜月は身体を起こした。辺りを見回す。何も変わらない。

  変わりはしないが、以前より明確に見えるようになっただろうか。積み重なった魂の無惨な姿が。憐れなそのイレモノたちが。

 

  散らばったそれらの廃棄物ゴミを踏まないように気をつけながら立ち上がる。

  地に足をつけた夜月の目に、またひとつのイレモノが映った。髪の長い少女。彼女はイレモノではあったが廃棄物ゴミではない。まだ役目を終えきっていない言わば赤ん坊だ。


  いつもなら注意を払ったりはしなかった。しかし、夜月は気づいた。少女の中に有り得ないほどの魂が詰め込まれている。うごめいて、やがて力なく鎮圧されていく。

  少女には魂を消化する力があった。

 

  少女は地面に横たわり、夜月を見ていた。濡れたように真っ黒な瞳で何かを懇願するようにじっと夜月を見つめ……。

  夜月は悟った。自分は少女に救われたのだと。

  この解放感は少女に与えられたものなのだと。


「……お前」


  薄く開いた夜月の唇。その隙間から鋭い牙がのぞいた。


「お前を俺の人形イレモノにする」


  そう低い声で告げた。

  少女は何も抵抗しなかった。代わりに頬の筋肉がひきつるぐらいに口を大きく広げ、笑った。残酷なほど無邪気な笑顔だ。彼女は何も知らないのだろう。

  目の前で牙を見せる男の正体も、これから辿ることになる自分の運命も。


  夜月は無表情でうなずき、少女の身体を抱き抱えた。小さな身体だった。夜月の腰のあたりまでしかない身長に、中身のない人形を抱えているような軽さ。

  その通り、彼女は中身のない空っぽの人形である。

  入っているのは夜月が吐き出した喰うに堪えない憐れな魂だけ。


  魂の墓場で拾った少女の正体を夜月は知っていた。

  彼女は死を招く。

  シニガミ。


  夜月は少女を自分のイレモノとして拾った。魂を入れておくためのイレモノ。無邪気でおとなしい人形。


  彼はそれ・・に名前をつけた。

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