第15話 切り札

侵入者の姿が煙幕に隠れ、ジェイソは舌打ちをした。急に足元が揺れて、余計に苛立つ。そう言えば、このゴタゴタで忘れていたが、そろそろ出発の時間だ。

「操縦室に伝えろ! 新しい客人の用意ができるまで、出発は遅らせると!」

 召使が返事をして、通信機のスイッチを入れた。

 空へ飛んでしまえば、この船は密室になる。それは万一の時、逃げる事も、助けを呼ぶこともできなくなる、という事だ。まだこの船底が海面に着いているうちに、侵入者達を何とかしなければならない。

 ズン。ワンパンチを入れられたような振動が、ジェイソのみぞおちを揺さぶった。両肩がグッと重くなる。船体の軋みが床を伝わり、足裏をくすぐった。

 何度もこの船に乗っているジェイソには分かる。これは慌てて発進する時の振動だ。

「おい、操縦室!」

 立て続けのトラブルにガマンできなくなり、ジェイソは直接操縦室を繋ぐモニターのスイッチを入れた。

「一体、何やって……」

 ジェイソの小言を断ち切って、操縦士が蒼い顔で告げる。

「ジョイ・ジェム号、操縦不能です! 勝手に浮上をっ!」

 外部モニターを覗くと、映し出されたジョイ・ジェム号の船底が、ほんのわずか海面が離れていた。大きな船影の浮かぶ海面に滴り落ちる海水を見ながらマイニャは心の中で呟く。

(始った……)

 金属細胞が活動を開始したのだ。この船を沈めるために。

 通常の方法ではありえない荒っぽい上昇に船が傾いて、悲鳴が上がった。ホログラムのオーケストラに白いノイズのヒビが入る。並べられたテーブルから皿が落ち、料理が床にぶちまけられた。

 ジェイソがイーサリーザを引きよせ、抱きしめるようにしてかばう。

「仕方ない。兵達を客の誘導に回せ! サブのタラップも準備しろ!」

 部下達がそれぞれのイヤホンに指示を与えながら散って行く。だが、ほんの数分で船は空の高みへと登っていった。

『皆様。落ち着いて行動をしてください』

 ここまで来てしまったら、客に隠す事など不可能だった。鳴り始めた非常ブザーと冷静な船内アナウンスが、逆にパニックを煽る。

 床の上を走る客達の足音が、ドシャ降りの雨に似た音を立てた。

 巨人が歯軋りしながら重たい鋼鉄の扉を開くような音が船体を伝わった。その振動が体に伝わって、ジェイソは一瞬自分の背骨がへし折られたのではないかと錯覚した。

「何があった!」

 部下から渡された携帯端末には、外から見たジョイ・ジェム号の映像が映し出されていた。

かかとの反った靴に似た船体は、横腹から伸びたタラップで港に繋がれている。その黒い鉄製の橋は、溶けかけたチョコレートのように歪んでひん曲がっていた。黒と白の紙ふぶきのように、剥がれ落ちた金属板が海へと落ちてしぶきをあげる。

 ガラスを引っかくような軋みが、耳を貫く。冗談のように軽くぽっきりとタラップが折れた。少し遅れて、ズンと腹に響くような揺れ。

 画面が切り替わり、青ざめた操縦士が映し出された。

「当機、さらに高度を上げています! サブタラップ設置不可能!」

「うぬう、あの二人のシワザか! 上昇の速度は一定か?」

「はい。ある程度は」

 ジェイソは端末に指示を飛ばす。

「護衛艦、勇敢なる戦棍(ブレイブ・メイス)号へ命令を! 当艦と同じ速度で飛び、避難路をつなげ!」

 衝撃でやたらノイズの混じった船内放送がかかる。

『トラブルが起こりました。皆さん落ち着いて夜の間へ避難してください』

 いちいち言われなくても異常を感じていた客達は出口に殺到する。人の波に押されて誰かがうめき声をあげた。

 揺れは小さくなった物の、途切れることはなかった。

 心配そうにみつめてくる花嫁の肩にジェイソは手を乗せる。

「大丈夫、安心してくれ。とにかく、この部屋は物が多すぎて危険だ。ブレイブ・メイス号とランデブーするまで客を夜の間に!」

 キッとジェイソは顔を上げた。

「誰か、イーサリーザの世話を頼む。私は、あの二人を探し出す!」

 イーサリーザが侍女達に引かれて廊下へむかうのを確認して、ジェイソと部下達は部屋の外へ飛び出して行った。

「さあ、マイニャ様」

 ジェイソの部下がマイニャの体を支えようとする。

 その瞬間、視界の隅に銀色の光がきらめいた。シャンデリアの光を反射しているのは、ガウランディアの閉じ込められた氷だった。誰かに突き飛ばされたのか、ぐらりと傾き、人の波に見えなくなってしまう。周りの騒音で、倒れた音は聞こえなかった。

「大変! 踏み壊されちゃう!」

 差し出された手を押し返して、マイニャはかけだした。

 どこかで見た映画がマイニャの頭の中に浮かんだ。切っても焼いてもピンピンしている軟体動物の下等エイリアンを、低温ベッドで凍らせてやっつける話。主人公がつるはしで殴りつけると粉々になったっけ。氷と一緒に中身のガウランディアまで砕け散る想像を、慌てて振り払う。

「どいて、どいてください!」

 床に転がったハイヒールを踏みつけてしまい、くるぶしが傷ついた。それでもマイニャは出口にむかう人に逆らい、氷のほうへ近づこうとする。だが、海の波以上に人波はかき分けづらい。 

 ガウランディアの氷は何人かを引き倒しながら、部屋の隅まですべっていった。

「ああ!」

 追いかけようとしたマイニャだが、太ったコスウェンの男に突き飛ばされた、倒れそうになる所をなんとか踏み留まる。誰かの肘に目をつぶされそうになって、マイニャは顔をそむけた。

 おばあさんのように腰をかがめながらなんとか壁にたどり着く。後は壁づたいに角へといけばいい。

 また大きく揺れ、マイニャは窓に押し付けられた。外の景色がよく見えるように並んだ丸い窓は、一つ一つの直径がマイニャの身長よりも大きい。

 透明な板一枚隔てた外側は、当たり前だけれど誰もいなかった。ただ、白い霧のような雲が、帯になって風になびいている。横から見るとツタに見える船体の浮き彫りは、真上から見ると厚みしかわからず、狭い棚が途切れ途切れにくっついているようにしか見えない。そしてその下に見えるきらめく海と、色紙をちぎって巻いたような人の群れ。

マイニャはまるで本当に空へ放り出されたように錯覚した。

心臓が痛いくらいに早くなる。

「もう、嫌ぁ」

 小さくマイニャは叫んだ。そうすればこの船から安全な場所にワープできるというように。青いペンダントが重い。肌から離れれば体を吹き飛ばす爆弾が詰め込まれたペンダントが。

「こんな、どうして私がっ! 私はただ、お父様とお母様と、静かに暮らすことしか望んでいなかったのに!」

 ガシャンと鈍い音がして、氷漬けのガウランディアが目の前のテーブルの足に引っかかった。カプリシャス・ロードの中では堂々としていて誇り高かったガウランディアが、本当の彫刻のように無力に転がっている様子は、こっけいなくらいに悲しかった。

 知らないうちに切れていた指が、ぴりぴりといたんだ。どこに行っているのか、カシさんとダイキリさんは助けに来てくれない。

 突然、ダイキリの姿が浮かんだ。よりにもよって、お前が嫌いだと指を指されたときの。そして、バーコードの入れ墨。そして、ひび割れたカシのゴーグル。翼に誓って守るといってくれたガウランディアの記憶。

 四つんばいになりながら、ガウランディアの氷に近づいていく。

「待ってて、ガウランディアさん。今度は、私が」

 唇をかみしめて、しゃくり上げるのを押さえようとする。

 ガウランディアさんと自分の命を救うには、マイニャががんばるしかない。涙をぬぐって、そろそろ足を動かす。少しずつ、少しずつ、でも確実に目的地まで近づいていく。

 あと、ほんの二歩だ。マイニャは急ぎたくなるのを押さえる。また大きく船が揺れ、爆発にも似た音が炸裂する。部屋の中央にあったシャンデリア風の飾りが落下した。虹色のガラスが部屋の隅にまで飛び散った。

 マイニャはとっさに背中を壁に預けて両手で顔と頭をかばう。本能的に体を後へそらせた。冷たい窓ガラスがマイニャの体重を支えてくれた。

 とりあえず、ほんの一瞬だけは。

 金属細胞がシステムを壊したせいか、混乱のどさくさでロックのスイッチが押されたのか、丸い窓が開いた。  

 マイニャの体が傾く。部屋に吹き込む風に寄りかかろうとしたように、マイニャはあお向けで空へ放り出された。冷たい空気が全身を包む。なびいた自分の金髪が視界のすみに映った。窓の縁をつかもうと伸ばした指は、壁を触る事もなく空を引っかいただけで終った。

 

 ビスラはニヤつきながら足音を響かせていた。

 思ったより早く金属細胞が動き始めたが、まだ十分に逃げる時間はある。これから安全なところで酒でも飲むとしよう。モニターに映る大惨事をつまみにして。不愉快なはずの船の揺れも、今の彼にとっては心地よい。

 その気分を台無しにするようなせわしない足音が背後から響いた。

「ビスラ!」

 振り返るまでもなく、聞き覚えのある忌々しい声。

「ダイキリか!」

 いつの間にか男の格好に戻ったミラルジュの民が、赤い眼でこちらを睨みつけている。まるで視線でビスラを射殺そうとしているように。

「さっきの茶番劇からこの短時間でここまでたどり着くとは。あらかじめ船の地図ぐらい調べる頭はあるということか」

「そっちこそ、随分ゆっくりしていたな」

 電気回路のどこかが傷んだのだろう、音も立てず廊下の明かりが瞬いた。

「逃げる前に、何か仕込んでいたのか?」

 その通り。唇の端が吊り上がるのが、自分でもわかる。

 ビスラの横、飾り柱の影になった壁には、米粒ほどの黒い物が付いていた。それは、高性能の爆弾。

 ジェイソの部屋を出てから、ビスラは船内を歩き回りあちこちに同じ物をしかけていた。絶対の自信はある物の、金属細胞はまた試作品にすぎない。万一、上手く働かなかったら証拠隠滅の必要がある。技術は独占してこそ意味があるからだ。中途半端な事故を起こし、金属細胞の存在が公(おおやけ)になるよりは、原因が分からないくらい船を木っ端微塵にしてしまった方がいい。

 もっとも、この企みも、その目的もこのミラルジュ人に話す義理はないだろう。

 ダイキリは魔神の壷に手をかけた。香油壷から、濃厚な霧が立ち昇った。霧はダイキリの腕に絡みつく。鎌の形になっていく魔神の姿を見ながら、ビスラは笑みを浮かべた。

「今日、マイニャがどんな服装をしているか、知っているか?」

 ダイキリは不審気に眉をしかめた。生意気に、その動作は人間そっくりだ。

「かわいいぞ。俺が見立てたんだ」

「急ごう。互いに、時間がないんだろう?」

「まあ聞け。あいつは首飾りをつけている。どんなダイヤよりも良く輝く宝石だよ。なにせ、火の花が咲くのだからな」

「ム…… 爆弾か」

 ダイキリは、いつでも魔神に指示を与えられるように伸ばしていた手を、ゆっくりと下ろした。そして、忙しくビスラに視線を走らせる。

 起爆装置を探し出して奪えないか考えているのだろうが、無駄だ。起爆装置はボタン状の物とは限らない。分からないよう隠してあるし、例え目にしてもまずそれが起爆装置だとはわからない。

 同じことに気づいたのだろう。ダイキリは隊長を見送る兵士のように、護衛船へ続く道をあけた。

「ご苦労」

 芝居じみた動きでゆっくりとビスラは歩きだした。すれ違う瞬間、ビスラとダイキリはまるで申し合わせたかのように同時に互いへ手を伸ばした。

 起爆させる前にこっちの動きを封じ、脅して装置を奪う。ダイキリにそれしか手がないのはビスラも知っている。

 白い指が体にかかるより一瞬早く、ダイキリの喉をつかむ。そのままダイキリの体を壁に押し付けた。

「ぐ……」

 本能的に、ダイキリはビスラの手を引きはがそうとした。

「動くな! マイニャを吹き飛ばしたいか!」

 ビスラの声に、持ち上がりかけたダイキリの手はだらりと垂れる。

「確か、死んだ者は地の底の楽園に行くというのがミラルジュの民の宗教だったな。くだらないことを考える」

 ビスラは勝ち誇った笑みを浮かべた。


 悲鳴を上げることもできずに、マイニャは目を閉じて息を詰めた。

「くふっ」

 強く胸を押されて、肺の中の空気が漏れた。ゆっくり目を開けると視界が真っ白で、マイニャはもう少しで天国に来たんだと信じる所だった。

「白鳥に変身して飛んでいくつもりか、オデット姫。明るい間は人になれないはずだが、翼は今どこに?」

 ちょっと下手なセリフ回し。顔を見ないでもわかる。

「か、カシさん!」

 上階から垂れたロープにカシがぶら下がっていた。マイニャの手を、荒れた片手がしっかりとつかんでいる。

 ミルクのようだった雲の濃度が風で薄くなる。こっちをニヤニヤと見下ろすカシを見ながら、マイニャはゴーグルをつけていない彼を見るのは久しぶりですわ、とどこかノンキな事を考えていた。

「再会の喜びは助かってからな。そんな格好じゃオチオチ感動もできないだろ」

 壁に彫られた浮き彫りをとっかかりに、マイニャは何とかパーティー会場の中に戻る事ができた。

「でも、どうしてこんな所から来ましたの?」

 縄を揺らし、部屋の中に飛び込んできたカシに聞いてみる。

「いや、さっき廊下人だらけで渡れたもんじゃなかったんだ。下の階までショートカットしようと思って」

 カシは荒れに荒れた会場をぐるりと見回した。いつの間にか、あれほどいた地球人や異星人達が一人もいなくなっていた。ジュウタンの上で料理と酒が混じり合って何とも言えない臭いを発散している。

 小刻みの揺れはまだ続いていた。

「やられたな」

「まさか、金属細胞がもう制御システムに入り込んでしまったのでしょうか」

「まあ、これだけ大きい船だ。システムがのっとられるまで時間はかかるだろうが」

『ブレイブ・メイス号とドッキング成功。乗客の皆様はBゲートよりブレイブ・メイス号に乗り移ってください』

 ザザッと船内放送が入る。

「じゃあ、さっさとボスをなんとかしないとな」

 カシは氷漬けになったガウランディアを苦労して立て直すと、改めて見上げた。

「黙ってりゃキレイなんだよな~ なんかこう、悪魔的な魅力があるし」

 両手をこすり合せ手を温めると、カシは銃を構えた。薄く笑ってはいるものの、緊張してこめかみに汗をかいている。

「荒っぽくいくぜ。日ごろの恨みで手がすべって心臓をぶち抜きませんように!」

 ガラスが砕けるより重く鈍い音だった。飛び散った水と氷が光の粒になってマイニャとカシに降り注ぐ。彫る角度を調節するために少しずつ位置と姿勢を変えながら氷を飛び散らせている様子は、ノミを使わない新手の彫刻のようだった。氷はガウランディアより一回り大きいサイズにまでなっていた。

「ガウランディアさん!」

 手の体温で溶かそうとするように、マイニャは彫像をなでる。

「どきな、マイニャ」

 どこからか酒のビンを持ってくると、酔っ払いのケンカのようにガウランディアの頭を殴りつけた。

 氷の鎧に阻まれて、酒のビンは粉々に砕け散る。

「え、ちょ、ちょっと!」

「おなか、すいてないかいレディ・マイニャ?」

 気取った口調でカシは言うと、もう一発銃を撃った。氷の端をかすめた弾丸の熱で、アルコールに引火する。

「なんていうんだっけ、この調理方。フライパンに火を移して肉の表面焼くの。コスウェン星の料理だっけ?」

 地球のフランベという料理法だ、とマイニャは思うけれど、焚き火のように上がる炎に呆然としてしまって答えることができなかった。

 炎を感知して、天井から消化剤の雨が氷と火を消して行く。

 氷の支えを失って、ガウランディアがガクリと揺れた。崩れ落ちそうになるのをカシが支える。まだ薄氷のベールが所々ついている体は震えもせず体の力を抜いたままだ。

「ボス、大丈夫か」

 カシは冷たい頬を叩いた。

「う……」

 まだぼんやりしているものの、とりあえずガウランディアはまぶたをあけた。

「おの、おのれビスラ! カシのカタキ!」

 喉にむかって突き出された鋭い爪を、カシは危ない所でかわした。アゴから一筋血がたれる。

「おいおい、お前が俺のカタキになってどうするよ。あだうちに自殺でもしてくれるのか」

「カシ…… そうか。私は捕まって……」

 ようやくガウランディアの心はカプリシャス・ロードでビスラに捕まったときから現在に戻ってきたようだ。

「カシ、生きていたのか。よかった」

「アンタの方が大丈夫か。声かすれてっぞ」

『緊急事態。高度が上がっています』

 夕食の支度ができた事を伝えるホテルマンのように優雅に放送が流れた。機械に録音された声は、墜落の瞬間までこの調子で淡々と放送を続けるのだろう。

「『皆さん、死ぬ準備をお願いします』ってね。さあ、逃げようぜ。すっかり遅れちまった」

 カシはガウランディアを抱え、マイニャに手を伸ばす。

 なにかひどく恐ろしいものを突きつけられたようにマイニャは一歩後ずさった。子供がイヤイヤをするようにゆっくりかぶりを振る。

「何遊んでるんだよ。行くぞ!」

「だめです。私は行けませんの」

「どうして!」

 マイニャは首飾りにそっと触れた。

 窓から差し込んだ光が青い宝石を照らし出す。時計の内部のように、ぎっしりと精密な機械が詰まっているのが透けてみせた。

「爆弾です。外したら、センサーが感知して爆発するの」

「なっ!」

「どれぐらいの爆発力なのか、規模もわからない。もし避難先で爆発したら、巻き添えがでるかもしれません。人殺しにはなりたくありませんわ」

「くそ、おかしいとは思ったんだ。なんであんたが縛られもしないでウロウロしてるんだろうって!」

 マイニャは微笑んで見せた。

「父は言っていましたわ。金属細胞を作ってファイン・アンブレラ号を沈めてしまうぐらいだったら、自ら命を絶った方がよかったって」

(運命って、おもしろいものですわ)

 マイニャが他人事みたいに感心していた。

(アンブレラ号を沈めた男の娘が、ブレイブ・メイス号を守るために死ぬのだから)

「ですから、ほんのちょっとの間生き延びるために、他人の命を危険にさらすより、ここに残った方が後悔しないですむと思いますわ」

「バカいうなよマイニャ!」

 カシはマイニャの手首をつかむ。

「足震えてるじゃねえかよ。後悔もクソも、女のコがたった一人っきりで死ぬのが良いわけあるか」

「けど……」

「……だ……」

 真っ青になったガウランディアの唇が動いた。ふらふらと体を起こして部下の腕から抜け出す。

「細胞だ、カシ。細胞を使え。どのみち、この船は落ちる。エンジンをぶっ壊して金属細胞を取ってこい。それを首飾りに」

 寝起きより悪いコンディションでも、さすが頭脳労働担当者はしっかりしていた。

「なるほど。その手があったか! さすがボス!」

 調子に乗ってガウランディアの頬にキスしようとしたカシは、案の定ひっぱたかれた。

「では、私はここで待ちますわ。カシさんが、あの細胞を持ってくることを信じて」

 もう一度笑顔を浮かべようとしたマイニャは、足の裏をハンマーで叩き上げられたような衝撃に床の上に座り込んだ。胸元でゆらゆらとペンダントが揺れる。

「どうやら、そんなのんきなことはしていられないようだ」

 カシはマイニャのペンダントに手を伸ばした。

「カシさん?」

 マイニャはほんの少し、おびえた目でカシを見る。

「安心しろよ。お前を殺すつもりはさらさらない」

 カシはマイニャの前にひざまずいた。

「さっきから、このペンダントは胸の上で跳ねまくってるのに爆発しない。きっと、センサーが肌から離れたと認識するまで、少し時間がかかるんだ」

 カシはマイニャとの距離をつめた。カシのアゴが、マイニャの肩に触れそうになるほど。 

「外して爆発するということは、センサーが体温か鼓動を読み取ってるんだろう。そしてそのどっちか、でなきゃ両方が感じられなくなるとスイッチが入るわけだ。なら、センサーにバレないうちに、代わりの体温と鼓動を読ませてやればいい」

 カシは、青い宝石をつかむ。そしてすばやく自分の胸に押し当てた。

「ちょっとカシさん!」

 ペンダントを取り戻そうとするマイニャの手を防いで、カシは鎖をマイニャの首からそっとはずした。金色の細い鎖を自分の首にかけた。

 カシは立ち上がって、胸を張ってみる。

「うーむ。イマイチ似合わんな。今着ているのが灰色なんで、もっとこう、濃い紫みたいな色のほうが良かった」

「カシさん……」

 怒りなのか喜びなのか、顔がかあっと熱くなる。ぽろぽろと涙がこぼれた。

「なんで勝手なことするんですか! 人殺しはイヤだっていったでしょう? あなたが死んだら、私は一生後悔を……!」

「おいおい、不吉な事言うなよ。なんで死ぬこと前提なんだよ。さっきボスが言ってたろ? ちょっと操舵室までいって細胞を取ってくるだけだ。ボス、マイニャを避難させてくれ。Bゲートから護衛船に乗り移れる」

「了解」

 カシが部屋から駆け出していくのを見送ると、ガウランディアもマイニャに支えられよろよろと出口にむかった。

「ダイキリ……」

 ガウランディアはもう一人の部下の名前を呟く。

「今何をしている? 無事ならいいが」


「この船はじき、落ちる。一人くらい密航者の死体が増えたところで、誰も気にしないだろうよ」

 ビスラの細い手が、ダイキリの喉に食い込んだ。治りかけていた脇腹の傷が痛む。血が頭にたまり、頬が火であぶられているように熱い。

「お前の後はマイニャだ。殺してやる。父親の作った物で!」

 どうやら、ビスラの目的は武器の売買で手に入る莫大な金だけというわけではないようだ。ビスラがわざわざマイニャをこの船に乗せたのは死んだユルナンに対しての嫌がらせのためらしい。

「アイツは、ユルナンは自分の実験結果を私に譲ろうと持ちかけてきたよ。哀れんでくれたというわけだ、ずっと二位の座に甘んじていた私を!」

 耳に水が入ったようにビスラの声は滲んでいたが、それでも内容は聞き取れた。

「それどころか、自分はもう研究の世界から手を引くといいやがった! あの小娘を寂しがらせているからだと」

(嫉妬か、見苦しい)

「誰よりも科学に通じていること。それが私の存在理由!それをユルナンが奪っていったのだ!」

 ひどく冷たい物が、ダイキリの左胸に押し当てられた。レーザー銃の銃口だった。

 気に入らない最後だ。ダイキリは思った。かわいい奥さんと沢山の子供に囲まれて死ぬのが理想だったのに。気に入らない。

 でもまあ、女のために死ぬのだから、カシならかっこいい死に方、と言ってくれるだろう。ガウ嬢はなんと言うだろう。そしてマイニャ。

(心配するな、マイニャ。私が死んでもカシとガウ嬢が助けてくれる)

 まるで子供みたいな泣き虫のお嬢様。どうか元気で。

「土の中をはいずる下等なミラルジュ人が、空の上で死ねるのだ。感謝しろ!」

 しかし、神様はダイキリにかっこいい死に方を用意していなかったようだ。

 曇った頭にビスラの悲鳴が響いた。いきなり手を離され、ダイキリはがっくりと膝をつく。壊れた笛のような音をたて、ミルリクの薄い酸素をむさぼる。

「き、貴様」

 ビスラは右手をかばうように胸へ押し付けていた。肘から締まりの悪い蛇口のようにダラダラと血がたれている。

「どういうつもりだ、ビスラ殿。今までの会話…… 聞かせてもらったぞ」

 銃を構え、低い声で言ったのはジェイソだった。この非常時にも関わらず忠実な者はいるもので、後ろに銃を構える部下達を引き連れている。

「この船の異常、お前の仕業か!」

 ジェイソは、引き金にかけた指に力を入れた。

 白い影が、銃口とビスラの間にすべりこむ。投網か傘が開くように、盾が張りめぐらされる。ビスラの胸に赤い血の点を浮かび上がらせるはずだった光線は、明後日の方に弾き返された。ナノマシンがこげ、オゾンのような臭いがただよう。

 ジェイソは銃口をダイキリにむけた。

「貴様! 邪魔をする気か!」

「悪いが、人質を取られている。マイニャのペンダント、爆弾だ。解除の方法がビスラにしかわからない物なら、殺すのはまずい」

「何?」

 ジェイソは身振りで部下に『動くな』の指示を出した。

 ぽたぽたと、ビスラの肘から垂れる血が時を刻む。

「膠着(こうちゃく)状態だな。我々はお前を捕らえる事ができないが、完全に逃がす事ができない」

 ジェイソが呟く。

 傷口を押さえながら、ビスラは数歩下がった。そして、気づかれぬよう壁に視線を走らせた。向かい合うビスラとダイキリ達の間の壁に、黒いチップ型の爆弾が貼り付けてある。正確に言えば、真中よりもややダイキリ達よりに。

 笑みを浮かべないよう、ビスラは唇を噛締めた。

 船の燃料を利用した爆弾は、この一粒だけでもちょっとした建物なら吹き飛ばす威力を持っている。うまくダイキリ達を爆発の範囲に捕らえることができれば、その膠着状態とやらを打開できる。もちろん、巻き込まれればビスラの命もない。しかし、ビスラは爆弾の威力を知っていた。

「クッ!」

 痛みに混乱したフリをして、ビスラはダイキリに背を向け走り出す。

 ビスラは数メートルおきに並ぶ飾り柱の一つを見据えた。そこを超えれば、爆発の範囲外。距離から考え、ビスラが安全圏に逃げ込んだ時、ちょうど後を追うダイキリ達は爆弾の前に差し掛かるはずだ。そうしたらほんの少し、舌打ちをするだけでいい。それが起爆の合図になる。ダイキリ達は跡形もなくなるだろう。

 起爆装置は、すべてビスラの口の中に仕込まれていた。もちろんしゃべったり物を食べたりしただけでは爆発しないように、起動させるためにはコツがいるようになっているが、ビスラは一瞬でスイッチを押せるようになっていた。

 ふいうちの爆弾。合図を聞いてから魔神のバリアを張っても、間に合わない。

 迫る足音に、ビスラはぞくぞくした。敵が自分の思う通りに動いてくれることほど楽しい物はない。誘導した先に罠があるときは得に。

 まばらな拍手のような音を立て、明かりが消える。窓のない廊下は、闇に包まれた。背後から戸惑いの声があがる。

 神か何か知らないが、味方をしてくれているようだ。この闇なら、爆発を起動させるしぐさも、爆弾その物も覆い隠してくれるだろう。ダイキリやジェイソは、自分に何が起こったのか分からないうちにあの世行きだ。

 ビスラは手を伸ばし、壁に触れながら走り続けた。手の平に、柱のふくらみを感じた。もう完全に安全地帯の中だ。つい足を緩める。背中で迫る足音を聞き、タイミングを計る。

 チッ、と舌打ちに似た舌の動きで、歯につけられた起爆装置を起動させる。

 奥歯がカタカタと揺さぶられるほどの振動。ほんのレイコンマ何秒か遅れて、爆音が耳を貫く。特大の拳で殴られたように前へふっ飛ばされ、一瞬目の前が真っ白になる。

 痺れる体で起き上がる。ライトパネルは完全に割れ落ち、階下の明かりが床の穴から光の柱になって昇ってきた。

 振り返ると目の前の床が大きく抜け落ちていた。風が吹き上がる穴は、煙と埃で端が見えない。吸い込んだ空気は一瞬の爆炎で熱くなっていた。咳き込みながら、ビスラは耳をすました。

 かすかに、小さなうめき声が聞こえた。

「馬鹿な! なぜ四散していない!」

 吹き上がる風は、埃でまだら模様になっていた。円いと思っていた穴は、太い三日月形になっていた。バルコニーか飛び込み台のように弧の字に残った床に、ダイキリ達が折り重なって倒れていた。ダイキリは、ゆっくりと床についた肩を持ち上げる。ダイキリの細い体からは血が流れている物の、あれだけの爆発に巻き込まれたにしては傷が浅すぎる。

「く、痛たた……」

 部下達の中から、ジェイソがゆっくりと起き上がった。服の埃をはらい、髪を手で整える。

「いきなり前に壁ができたから、皆えらい目にあったぞ」

「爆弾があったのは気づかれていなかったはず! 舌打ちを聞いてから魔神の盾を張ったのでは間に合わないはずだ!」

「我々ミラルジュの民は鼻と夜目が利く…… お前の言うとおり、地の底で暮らしているのだから」

 ダイキリの声は、埃でかすれていた。

「あの時、汗の匂いでお前が立ち止まったのがわかった。我々は、まだお前を追っていたのに。お前は、観念して大人しく捕まるような奴ではない。なにか、罠があるのはバカでもわかる」

「舌打ちと言ったな」

 ジェイソがビスラを見据える。

「起爆装置は口の中か」

「分かったから、何だというのだ!」

 ダイキリの体は、白い粉にまみれていた。ダイキリだけではない。ジェイソも、部下達も小麦粉をぶちまけられたように白く染められている。周りにも霧のように粉が舞っていた。

 それは魔神の死骸だった。変幻自在の魔神も、あれだけの爆発を防いで無傷というわけにはいかなかったようだ。目に見えないプランクトンの死骸が集まり白い砂になるように、故障したたくさんのナノマシンが床に散って粉チーズのように固まっている。

「ダイキリ、お前の周りに、主人を守る魔神はもうない。代わりの香油壷も身につけていないようだ。ということは、もうこちらの攻撃を防御する余裕はないだろう」

 立ち上がりかけたダイキリは、再び倒れこんだ。コメカミに汗が浮かんでいる。殺しきれなかった爆破の衝撃で、体が小刻みに震えている。

 その首筋に、バーコードの刺青を見つけ、ビスラはせせら笑った。

「ふん、逃亡奴隷か。マイニャに取り入ろうとでもしているのか?」

「いつ気づいた?」

 ダイキリの唇が軽く歪んだ。

「何?」

「お前が私の首を絞めた時、この刺青に気づいたか?」

「なんの事だ!」

 ビスラはいい加減この会話にうんざりしてきた。そういえば、首を絞めた時刺青に気づかなかったが、それが何だというのか。早い所、こいつらを片付けてしまおう。

 証拠隠滅のためこの船を爆破するには、一つや二つの爆弾では足りるわけはなく、この廊下にはまだ黒いチップが残っていた。なんとかして、またそこまでダイキリ達をおびき寄せることができれば。

 いや、それよりまずは、マイニャの首飾りだ。モニターでその瞬間を見せられないのが残念だが、彼女を殺し、ダイキリに屈辱を味わわせてから殺してやる。

 ビスラは青い宝石型の死神に合図を送るために、舌打ちをしようとした。が、舌が固まったように動かない。

「ウ……!」

 食べた覚えのない硬い物が、いきなり口の中に現れて、舌の動きを封じ込めていた。吐き出そうとしても拷問具のように歯を挟み込んでズレもしない。

 ダイキリの細い指が見えない糸を指先で引くような仕草をする。

「なるべく息をしない方がいい。こんなホコリっぽい所では。残った魔神をもっと吸い込むかも知れないぞ」

「ぐっ」

 ビスラは、すべてを理解した。

 そう、魔神は一握りだけ生き残っていた。刺青を隠していた、手の平一枚分だけの量が。爆弾を防御する時も使われなかった、切り札の分が。

「動くな。その程度でも、槍にすれば頭から切っ先が出るだろう。お前が爆発を起こしてくれてよかった。煙と埃で、魔神に気づかなかっただろう?」

 じっとりとダイキリは汗をかいていた。

「魔神を口の形にするのは集中力がいる。バレないように小さな鼻や口から魔神を流し込むのも難しい。滅多に使えない、使わない技。やり慣れてないから、失敗するかも知れない」

 ダイキリは指を微妙に動かし、拘束を続けながらジェイソにちらりと視線をむけた。

「死ななくて良かった。金持ちは嫌いだが、目の前で死なれたくはない」

「それにしても、お前は一体……? タダの泥棒が、この船を守ろうとするとは」

「詳しいことは、この船から逃げてからのほうがいいだろう」

 穴を迂回して、ビスラの後ろへ回り込んだ部下達が、罪人を縛り上げた。

「……!」

 ビスラはほんの少しもがいた。手首の辺りで縄がこすれ、ギシギシ音を立てる。

「無駄な抵抗は止めろ、行くぞ!」

 ジェイソがビスラを引っ立てられて行くのを見届けると、ダイキリは腕を下ろし溜息をついた。






 関係者以外立ち入り禁止のプレートが張られた扉は、すでにこじ開けられていた。カシは、床に広がるコードに足を取られながらエンジンルームへと飛び込んだ。

 驚きの声を予測していたのだが、中は無人。どうやら操縦士達はさっさと避難してしまったらしい。

「おいおい、ちょっと無責任じゃないか? というか、俺がもたもたしすぎてるのか」

 それによく考えればこの船は金属細胞に取り憑かれているのだ。何人操縦士がいても同じ事だろう。死人の数が減るだけいいか。

 鏡のような壁から、腸のようにうねったチューブが何本も伸びている。そのチューブは、部屋の中心に浮かんでいる鉄のカタマリに続いていた。配管とメーター、設定値を入力するためのパネル、それがごちゃごちゃと集まった、どこか脳を思わせるカタマリ。それが、ジョイ・ジェム号のメインコンピューターだった。

「まるで巨人の体ん中だな」

 メインコンピューターは、何か難しい問題でも解こうとしているように、煙を噴出している。

「かわいそうなジョイ・ジェム号。今、俺が寄生虫を取り除いてやるからな。ぶっ壊して」

 カシは壁にかかっていた作業用のグローブをはめると、大きなペンチを拾い上げた。本来なら機械工がカバーを開けて、修理ロボにも再現できない細かい技術で修理するはずの機械に、思い切り金属の棒を叩きつける。血の代わりに、細い細い紫の雷がほとばしる。

 この機械がどれだけ精密か知っているカシは、なんだかトランプで作られたピラミッドを壊すような、キレイに並べられたドミノにスライディングをかますような、独特の快感を味わった。

「どこだ、出てこい、細胞さん!」

 金属のカケラを飛び散らせながら、カシはコンピューターを削り取っていく。

 カシは額の汗をぐいっとぬぐった。冷房が壊れていて暑い。

「いた!」

 細い金属の部品に、銀色の針金が根を張っていた。

「みつけたぞ、このトラブルメーカー!」

 カシは細胞を指でつまみあげた。ぷるんとゼリー状に戻った細胞を自分のネックレスに乗せる。

 金属細胞はしみこむように機械仕掛けのペンダントに入り込む。ペンダントが少し熱くなった。青い光が濁っていって、最後には曇りガラスのような色になった。

「どうやら、起爆装置を壊してくれたようだな」

 それでも外すのが少し恐ろしくて、カシは震える手で鎖をつまんだ。そっと持ち上げる。そろそろと頭をくぐらせ……

 爆発は、起きなかった。カシの溜息は、船の揺れのせいでまた肺に逆流した。頭を押し付けられるような重力を感じ、カシは近くのコードにしがみついた。

 エンジンは完全にコンピューターが壊れてしまった後でも、しぶとく最後に出された命令を忠実に実行していた。しかもその命令が金属細胞から出された間違った物なのだからタチが悪い。

『高度が異常上昇中。作業員は避難してください。Bゲートよりブレイブ・メイス号に乗り込む事ができます。繰り返します……』

「わかってるよ!」

 例によって落ち着き払った艦内放送をカシは怒鳴りつけた。もう飽きるほど同じことを聞いているので、いい加減イライラしてくる。

『早く避難を…… カシ、カシ!』

「分かってるって、うるせえな!」

『……それが心配してせっかくイヤホンを使った相棒に、言うセリフか』

「げ、ダイキリか。悪い悪い」

『今、ど……いる? マイ……は、無事……か?』

 暴走している船の影響か、ひどい雑音に苦労しながら、二人は情報を交換しあった。

 カシはマイニャとガウランディアを助け出した事、ダイキリはビスラを捕まえた事を。

「もうブレイブ・メイス号に乗り移っている。マイニャもガウ嬢も。助けがいるか? カシ」

「いや、やってもらうことはないと思う。先に避難してくれ。俺もすぐいくよ。今Bエリアにいる。まっすぐゲートにむかえばすぐだろ」

 カシがイヤホンを切った後も、船内アナウンスは続いていた。

『高度が異常上昇中。作業員は避難してください』

 あまりにもお客を飽きさせてはいけないと思ったが、内容がちょっと変わった。

『空気の流失を感知。Bエリア、Pエリアの一部を封鎖。該当するエリアにいるお客様は、Bゲートまで迂回路を使用してください』

「おいおいおい、嘘だろ? 時間ねえのに!」

『繰り返えします。空気の流出を感知。Bエリア、Pエリアの一部を封鎖。あいとうするエリアにいるおたくふぉいは迂回えくぉおお』

「何語だぁ!? ひいい、アナウンスまで壊れ始めていやがる!」

 うっすら目に涙を浮かべそうになりながら、カシは疾走した。


 暴れる船に合わせてぴったりと横づけし、通路を途切れさせないブレイブ・メイス号の操縦士は勲章ものだろう。今、ブレイブ・メイス号とジョイ・ジェム号の脇腹は、鉄のトンネルで繋がれていた。

 ほんの数分前、ブレイブ・メイス号へと続く渡り廊下は、ズラッと並んだ人と異星人がひしめいていた。だが今は避難も終わり、船が揺れるたびにあがる恐怖の悲鳴も、汗と香水の匂いもすっかり弱くなっていた。

 その代わり、その混乱はブレイブ・メイス号の大部屋へ移っていた。

 ジョイ・ジェム号の避難民たちは、一箇所に集められた動物そのままに、ウロウロしたり、座り込んだり、今までの恐怖を話し合ったりしている。その間をブレイブ・メイス号の船員達が乗客名簿や栄養剤入りの水の入ったタンクを手にうろついていた。

「ねえ、ちょっと、どうすればいいかしら?」

 小太りの婦人がブレイブ・メイス号の兵士の前に立ちはだかっている。

「ハンドバッグをあの船に置いてきてしまったわ! あれには月光石の指輪が入ってますのよ。もちろん、人工じゃない奴が。ダンナが買ってくれた大切な宝石なの。保険はもらえるかしら?」

 倒れたコスウェン星の男を看病しに行きたいのに行けないでいる兵の横を通り抜け、マイニャはカシとダイキリの姿を探していた。

 あれから、なんとかガウランディアと一緒にブレイブ・メイス号に乗り込んだ物の、カシともダイキリともまだ合流できないでいる。避難のときに仲間とはぐれたのは彼女だけではないらしく、あちこちで名前を呼び合う声が聞こえた。

「マイニャ!」

 呼び止められ、マイニャは振り返った。

 両手を握り合うカップルの後ろで、軽く手を上げているのはダイキリだった。藍色の髪は少し乱れて、肩の辺りから血が一筋流れているものの、ダイキリはしっかりそこに立っていた。

「良かった、ダイキリさん」

 急いで駆け寄ると、マイニャはぎゅっと抱きついた。暖かい。地球人に比べて低めだけれど、確かな体温に安心する。生きている。

「ム……」

 傷口が傷んだらしく、ダイキリが小さい声を上げたので、マイニャは慌てて腕を解いた。

「あら、私ったら、ごめんなさい」

 ほんの少し、マイニャは頬を赤くする。

「ガウ嬢は?」

「いますわ。あそこに」

 部屋のすみで毛布に包まっているガウランディアを指差す。幸い、このゴタゴタと大きな毛布のおかげでガウランディアが氷に閉じ込められていた不思議な美女だと気づいた人はいなかった。

「ダイキリさん。カシさんに会わなかった?」

 マイニャはカシが自分に仕掛けられていた爆弾を持って、細胞を探すためにエンジンルームへ行ったことをダイキリに伝えた。

(どうか、無事でいますように。もしカシが帰って来なかったら、私はガウランディアさんに何て言えばいいんだろう)

「安心しろ。そろそろ帰って来るはずだ」

 ダイキリは本当にそれを疑ってはいないらしく、のほほんとした口調だった。

「あ、マイニャ様、いらっしゃいましたか」

 電子名簿を持ったボーイが駆け寄ってきた。

「よかった。これでジョイ・ジェム号に乗っていた人は全員避難を終えた事になりますね」

「全員? ということは、ビスラも」

「ええ。この船にいると聞きましたよ」

 ドクン、とマイニャは大きく胸が鳴った。

「心配していたんですか、彼のこと? よかったですね、マイニャ様」

 ボーイはにこっと笑って小走りでどこかに行ってしまった。

「ビスラは、空き部屋にいる」

 ダイキリは静かに言った。

「港に戻ったら、牢へ入れるそうだ。ジェイソはパニックを恐れ、乗客達に真相を話してはいない」

「ビスラに会えますか?」

 気がついたら、マイニャはそう言っていた。

「ジェイソに言えば、たぶん」


 豪華なジョイ・ジェム号と違って、護衛船ブレイブ・メイス号はなんの飾りも無かった。一番小さな部屋は四、五人も入るときゅうくつになった。おまけにここは物置に使われているらしく、非常用の食料や断熱布の箱が回りを囲っている。

 その真中でビスラは縄をかけられ、予備の食器が入った箱に座らされていた。もう完全に開き直っているのか、胸をはって王者のように堂々としていた。

 すぐ隣で、渋い顔をしながら腕を組んでいるジェイソが、入って来たマイニャに気づいて振り返る。

「起爆装置は処理をした。もう舌打ちしても起爆しない。口は自由にしてある」

「形成逆転ということか。私を嗤いにきたのかマイニャ」

「ビスラ」

 マイニャはビスラを見つめた。こいつが、父を殺したのだ。記憶チップの銃声が頭に響いた。

「これから、ビスラはどうなりますの? ジェイソ様」

「ダイキリから全て聞いた。ビスラは武器の密売まで計画したという。これが本当なら、私の権限を越えているよ。星間裁判所で裁かれる事になるだろうな。開拓中の星で死ぬまで使いつぶされるか、それとも……」

「死刑を希望するよ!」

 まるですねた子供のようにビスラは口をとがらせた。

「ユルナンがいない今、心残りなのはマイニャ、お前を殺すことができなかったことだよ」

 ビスラは笑った。色々な人がマイニャに笑顔をむけてくれたけれど、こんなにゾッとする笑顔を見たのは初めてだった。

「ビスラは、マイニャに、シ……、なんと言ったか、そう、嫉妬していたのだ」

「嫉妬? 私に?」

「ああ。ビスラは、ユルナンをライバルだと思っていたのだろう。今は自分の前を行っているが、いつかは追い越すべき競争相手だと。だが、ユルナンは違った。ビスラの事を、ライバルどころか相手にすらしていなかった。マイニャ、お前に夢中で」

 ダイキリは、殺されかけた時にビスラから聞いた事をマイニャに教えてくれた。ビスラが金のためだけではなく、ユルナンに逆恨みをしていたことを。

 そして細長い物をマイニャに差し出す。それは、銀色の短剣だった。その辺りから引っ張り出してきた物らしく、柄に小さな埃がくっついていた。

「お、おいダイキリ? レディ・マイニャに何を」

 ジェイソの声が裏返っていた。

「なにって、敵討ち」

 何でそんな事を聞くのかというように、ダイキリはキョトンとしている。

「そうか、お前はミラルジュの民だったな。たしかに、ミラルジュでは正当な報復は悪いこととはされていないが……」

「悪い事とはされていない? 当然の権利だ」

 星々同士の取り決めでは、一応一般人が殺人を犯すことは禁じられている。しかし、宇宙は広い。ほとんどの星が共通法を無視して、昔ながらの法や掟、価値観を持っていた。銀河警察もそれを黙認しているのが現状だ。

「だが、ここはミルリクだ。ここで血が流れれば、私といえどもごまかせない。それにレディ・マイニャは優しすぎる。人を殺せば、一生後悔を……」

 マイニャは手を伸ばし、短剣の柄を握った。剣を抜くと、布のすれるようなかすかな音がする。

 涙でビスラが滲んだ。あんなくだらない理由で、この人は父を殺したのか。息が苦しい。肩が上下しているのが、自分でもわかった。

「よくもお父様とお母様を!」

 マイニャは大きく腕を振り上げた。

「レディ!」

 ポコンと軽い音をさせ、空っぽの鞘がビスラの頭を叩いた。

 悔しいことに、マイニャにビスラは殺せなかった。おそらく、父が望んでいないと思うから。父は、人を幸せにするために科学があるのだといつもいっていた。そんな父の発明がらみの出来事で、これ以上人を殺してはいけないと思うから。たとえそれがビスラであっても。

「貸せ、マイニャ」

 ダイキリは唇に薄い笑みを浮かべながら、短剣の鞘を受け取った。

 そして思い切りビスラの頭を殴りつける。ビスラはガクッとうつむいて動かなくなった。

「やるなら、これぐらいやらないとな」

「おい、今かなり鈍い音したぞ…… 大丈夫か」

 ジェイソの質問に、ダイキリは「さあ」と首を傾げた。

「ダイキリ……」

 まるで悪い夢を見た子供のようにふらふらとした足取りで、ガウランディアが現れた。

 体をすっぽりくるむ毛布が爪や翼を隠しているせいで、今の彼女は妙に無力に見えた。

「カシがいない。どこにも」

「おかしい。さっき出口に向かっていると言っていたのに。まだ来ていないのか」

 ダイキリはイヤホンのスイッチを入れた。

「カシ、聞こえるか。今、どこにいる」

『まだ船内だよ!』

 聞こえてきたカシの声は、雑音混じりで聞き取りづらかった。

「まだ船内? 何やってる! このまま中途半端な速度で上昇を続けたら宇宙に出る前に沈むぞ!」

『なんだか知らんがエマージェンシーシステムが中途半端に作動しているらしくてな。あちこちハッチが閉じてまるで迷路だ』

「ちょっと待て。今いる部屋がわかるか?」

 ジェイソが持っている携帯用のスクリーンにジョイ・ジェム号の地図を映し出した。カシの言葉通り、壊れたかロックされた扉を表す赤い点が目だった。

「ブレイブ・メイスからジョイ・ジェム号の破損状況がわかるのか」

「この船はジョイ・ジェム号の護衛船だ。ある程度のデータは共有できる。もっともその機能もいつまで持つかわからんが。カシ! 誘導する、従え」

『あ? なんだって? よく聞こえねえよ!』

 雑音は耳が痛くなるほど酷くなっていた。高度が上がり空気中の成分が変わったのか、壊れつつあるジョイ・ジェム号から異常な電波が出ているのか。おそらくはその両方。

 ビスラがむくっと首を持ち上げた。

「もう復活したのか、お前」

 ダイキリがボソッと呟く。

「ジェイソ、いい事を教えてやろう」

 ビスラは、船にたっぷりと爆弾が仕掛けられていることをジェイソに教えた。

「爆弾は時限装置も備えていてね。こちらから起爆信号を送らなくても、あと十分もしないで爆発するだろう」

「何……」

「カシ! 今すぐにこっちへ来い!」

 ガウランディアが爆弾の事をカシに告げる。

「あと十分…… あと十分でジョイ・ジェム号すべての爆弾が爆発する。服の切れはしでものこればいいな。形見に」

 ダイキリが、呪いをかけるように指を動かす。縄のように細いカミソリのような白い刃が、ビスラの頚動脈を断ち切ろうと閃いた。

 だが、その鎌は廊下を伝わる振動で止められた。倒れまいとダイキリの集中が切れたせいで魔神の刃は四散する。

 すっかり振動に敏感になってしまった客達の悲鳴が廊下を越えて聞こえてくる。そして、どこかで、重たい錠が落ちるような音。

「何があった!」

 ジェイソが、廊下で待機している部下に訊いた。

 部下はしばらくイヤホンに耳を澄ませる。

「ジョイ・ジェム号との連絡通路が途切れたそうです。ジョイ・ジェム号、完全に孤立しました」


 Bゲートに続く廊下の途中で、カシは足を止めた。

「ドハデにやったな、おい……」

 廊下のど真ん中に、三日月型の穴が開いている。穴の縁は黒く焼け焦げて、この破壊が爆弾のせいだということは、シロウトのカシにもよく分かった。

 そう言えば、ビスラの専門は宇宙船の燃料だった。コンパクトで威力のある爆弾をたくさん造る事など簡単だろう。マイニャのペンダントのように、この船にも爆弾が仕掛けられていても不思議ではない。

「こりゃ、はやい所こっから逃げ出さないと」

 カシは足を速めた。

「うっそん……」

 誰も聞いていないのに、わざとふざけた口調で言ったのは、そうでもしないと非情な現実に押しつぶされそうだったからだ。

 安全地帯へ続く連絡通路があるBゲートは、完全に閉ざされていた。銀色の壁がカシの前に立ちはだかっていた。連絡通路が切れたあと、そこから空気がもれないよう自動的にハッチが閉じたのだ。壁についた小さなモニターには船外の様子が映し出されていて、垂れ下がった通路がブレイブ・メイスの腹にやる気のない旗のように垂れ下がっているのが見える。

 拳を叩きつけても、ペチッと小さな音がするだけで分厚い扉は揺れもしない。もちろん途切れた逃げ道も戻るわけもない。

 心臓が狂ったように動き回り、吐き気がする。

「くそ、死んでたまるか! 死んで!」

 何かいい考えを搾り出そうとするけれど、『死』だの『木っ端微塵』だの『もうおしまい』だのいう言葉が頭を塞いで邪魔をする。

「ダメだ。冷静になろう」

 カシは、深呼吸をした。額の冷や汗をぬぐう。

『現状を把握することだ、カシ』

 いつかのガウランディアとの会話が頭に浮かんだ。記憶の中のガウランディアはチェスのコマ片手に微笑んでいる。

『今、自分に何が出来て、何が出来ないのか。相手に何ができて、何が出来ないのか…… それを考えれば、自然とやるべきことがわかるだろう』

「現状把握ねえ」

 ハッチの前には、つい何分か前ここが大賑わいだった跡があちこちに残っていた。ジュウタンに落ちたパイプにハンカチ。欠けたグラスに帽子。落し物をかき集めればスラム辺りで雑貨屋が開けそうだ。中には外れた重力調整リングや、コスウェン星人のちぎれた尻尾なんていうのもあって、カシは落とし主が無事なのを思わず祈った。

「チェックメイトのときは、どうすりゃいいんですかね、ボス。相手にとどめが刺せて、こっちは手も足も出ないときの状態を言うんですけど」

 船が遠くの雷のような音をたてて軋んだ。壁の漆喰がぱらぱらとはがれ落ちる。

「うお!」

 転びかけた拍子にやわらかい物をふんづけて、カシはその感触の気持ち悪さに悲鳴を上げた。無事助かったら乾杯しようとしたのか、最後の晩餐をしゃれこもうとしたのか、廊下に食べ物が散乱している。具が飛び出してしまった元サンドイッチ。飛び降りた人間のように赤く潰れたブルナージュ。ほとんど粉末になったかつてクッキーだった物。

「ああ、そう言えば、昼喰ってないな」

 カシがにやっと笑った。

 もしここにボスかダイキリがいたら、「何を考えている?」といい質問をしてくれるのだが。

 せっかく浮かんだ名案に感心してくれる人がいないのを寂しく思いながら、カシは自分に一つだけ残っていた手を打ちに走り出して行った。

 

 近づいてくる足音に、ケナビェイは振り返った。

 ダイザー族の目は、サーモグラフィのように生き物の体温を形としてみることができた。人型をした赤い煙のカタマリが、厨房に入ってくるのが見えた。あの、トサカ頭。なぜかケナビェイはその人影がカシだということが分かった。

 ダイザーは、よろこんで尻尾を鳴らしそうになるのを必死に我慢した。街で獲物をとり逃したことで、ボスの座が揺らいでいる。部下の一人など、ケナビェイの目の前で目をなめるというふざけた態度を取った。人間でいえば、人が話をしているときにわざとあくびをするようなもので、尊敬している相手にする動作ではない。このままだと、ボスの座を狙う者に襲われるかもしれない。威厳を取り戻さないと。

 近寄ってくる足音と、壁越しでも頬の辺りの感覚器官で感じる生ぬるい体温は、間違いなく地球人の物だ。しかも、あのトサカ頭の。

 ケナビェイは、長い舌で頬をなめ、ニヤリと笑った。床に転がったとうもろこしを踏み越え、アルミの保存箱の陰に隠れる。

 ダイザーの民にとって、不意うちは汚いことではない。敵に知られないように近づき、こっそりと事を終えるだけの頭と技術があるという証明なのだから。

 荒い息使いと足音が箱を挟んだ向こう側でとまった。失敗は許されない。はっきりと敵の位置を調べないと。しゃがみこんだまま、ケナビェイは前進した。この世で最後の食事を楽しもうというのか、カシは近くの保温庫の扉を開け、中を覗きこんでいる。ケナビェイはそろそろと銃口をカシのトサカ頭に向ける。

 カシは、保温庫の中に並ぶブルナージュに気を取られ、気づいていない。

『カシ! カシ聞こえるか!』

 カシの耳から、女の声が響いた。

『お前、今どこだ! 厨房か?』

 ケナビェイの太い指が引き金にかかる。

『なら気をつけろ! ケナビェイがいるぞ!』

 とっさに、カシは体を床に投げ出した。

 ケナビェイのレーザーが金属の箱に穴を開ける。スープが水のように穴から流れ出た。強力なレーザーは、箱を貫通してカシの横腹をかすめていった。

 金属の箱を通ったおかげで、弾に込められた電撃はかなり削られ死にはしなかったものの、ぱっくり開いた傷口はしびれて感覚がかった。

「ナゼ…… ケナビェイのイル場所ガ分カッタ……」

「プレゼントした桃はおいしかったかい? バザールであげた奴だよ。発信機がブレイブ・メイス号のスキャンに引っかかったようだな」

 背中が寒いのは出血のせいか恐怖のせいか、とカシはぼんやりし始めた頭で考えた。鼓動に合わせて頭の芯が痛む。呼吸をするたびに視界に変な模様が浮かんだ。

 早いところ、決着をつけないと。むこうの銃に弾切れはないのだから。

 左腕で銃を引っつかむ。ほとんどまぐれ当りを期待しながら、引き金を引く。反動で肩が痛む。積み上げられたとうもろこしが、カシの銃撃に砕け散った。

 ケナビェイが銃を構える気配に、カシは再び物陰に隠れようとした。

 グラリと船が傾く。とっさに近くの台に手をついた。しかしケガをした右腕では体を支えきれず、カシはまともにすっ転んで部屋の隅まで転がっていった。

「あいててて!」

『カシ、カシ! 何があった!』

 珍しくヒステリックなガウランディアの叫びが、鼓膜を破りそうな大きさでイヤホンから響く。

 落ちてきた皿で打った頭を押さえる。指先に、熱くて硬い物が触れた。ケナビェイの銃筒だった。銃口は、カシの額にぴったりとくっつけられていた。

 カシは上目遣いでケナビェイの顔を覗き見る。

 ウロコの点いた唇がまくれあがり、黄色い歯が見えた。

「バ、バカ、止めっ!」

 ケナビェイは、やめなかった。容赦なく引き金を引いた。

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