「好きです」





この瞬間、私は全てを見つめていた。



でも、同じように私は"キミ"を見ていただろうか






この時本当は、全然君を好きじゃなかった。




こんなことを言ったら、君は一体どんな顔をして私を見るのだろう

今の私にはわからない。






そう一言だけ私に気持ちをくれた君は、真っ直ぐ視線もそらさず同じように私を見つめていた。






この瞬間、私には君とは違う景色が見えていた。


私達の周りだけ時間がゆっくり流れているかのようで

それはとても美しかった。




君の言葉と視線、


君の後ろで桜の花びらが散る美しさ、


君の髪を撫でる風、


遠くで聞こえる校舎からの話し声、


そして私達を照らす暖かい太陽の輝きを


その全てを


私は今でも鮮明に思い出すことができる。





この全てが輝いたような美しい光景の中で

それを捉えず、真っ直ぐに私だけを見つめる君が



私の知る中で一番綺麗だと感じたから。





この世界の全てが。


太陽も


風も


木も


花びらも



まるで君の味方であるかのように思えて、

この瞬間以上に美しいものなどこの世にないと感じた。



きっと私は一生この瞬間を忘れることはできないのだろう






「あたしも」


そう言ったこの時の私は何を思っていたのだろう。

この光景に心を奪われ、いつの間にかそう口に出していた。



いや、これも全て必然だったのだろう。



私は目の前のものに魅せられていたのだから。





でも君はまた私の心を

私の全ての感覚を


一瞬で奪っていった。




ようやく今の音が自分の発した声だと認識できたと思ったら

私を見つめていた君の表情が一瞬一瞬移り変わる。



まるで子供が描いた絵のように。




何が起こったのかわからないといったような

無表情になったかと思えば

驚いた顔をして、

次の瞬間にはみるみる頰が赤く色づいていく。


そして泣き笑いのような優しい笑顔でまた私を見つめた。




こんな表情で笑う人がいるのかと、目の前の人のコロコロ変わる表情を見て心を奪われていた。




一瞬一瞬、全く違う風景の、場所の中にいるような錯覚。




君の表情と一緒にまるで景色もが姿を変えているようで。





やはりこの世界の全てが君の味方、友達なのかもしれない。


君に、この瞬間に見惚れながら、そんな馬鹿なことを考えていた。







だからごめん。





あの時私は全然君を好きじゃなかった。






全部、



嘘だった。

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