宝探しセット【じゃがバターと綿菓子コーヒー】
「これがニューヨークの不動産王デニーズ・ジョースターの遺言です」
司会者が封筒を開封し、遺書を広げた。
『ジョージ一世の遺産の鍵はXに隠されている』
「Xで鍵を手に入れて、あの金庫を開けろってことか」
「そういうこと。ふふん、あんたに謎が解けるかしら」
「お前の作った問題なら楽勝だ」
「なんですって!」
今日は天童市商店街を舞台にした大掛かりな宝探しゲーム。
参加人数も多く、景品もかなりのものがそろっているという。
なぜか瑞穂が企画にたずさわっていた。
どうやらゲームカフェということで商店街から企画協力を頼まれていたらしく、俺に黙って計画を進めていたらしい。
まあ、店の宣伝になるので悪いことではないが……。
「なお、金庫に挑戦できるのは一度だけです」
「ちっ」
釘を刺された。
鍵は3ケタの番号だ。
参加者がここを出た瞬間、999回の総当たりで金庫を開けようと思っていたのに。
「では宝探しのヒントを。これはジョースター家の歴代当主と生没年が書かれた家系図です。そしてこちらが最初の問題である世界地図になります」
用意されていたのは数枚の地図。
「本物は1つだけです」
どの地図も次の目的地がマーキングされていた。
もちろん地図によって目的地は違う。
謎を解かずにそこへ向かうこともできるものの、目的地ごとにかなり距離が離れている。
総当たりで行くよりも、やはり謎を解いて最短距離を進むのが無難だろう。
「これ面白いな」
「オーストラリアのお土産ね」
オーストラリアを中心に南北を逆にして描かれていた。
簡単にいえば地図の上下を逆にしただけなのだが、市販の地図をひっくり返してもこれと同じものは出来ない。
なぜなら地図をひっくり返せば、地図に書かれてる文字も一緒にひっくり返ってしまうからだ。
それでは読めない。
この地図はちゃんと読めるように、文字はそのままで地形だけをひっくり返している。
「さすがにこれが正解ってことはないだろうな。……だがヒントにはなった」
「え」
「この地図はオーストラリアを中心に描かれてる。俺たちが普段目にしてるのは日本を中心にしたこの地図だ。こっちの世界標準の地図はヨーロッパとアフリカ大陸を中心に描かれてる。地図は使う人間の出生地を中心にして描くのが基本なわけだ。デニーズ・ジョースターはニューヨークの不動産王。つまり正解は……南北アメリカ大陸を中心にしたこの地図だ!」
「う……。や、やるわね」
やはりこの地図が正解だったか。
全ての暗号がこのレベルなら問題なく解けそうだ。
「よし、次だ」
地図にマークされていた屋台へ向かうと、またしても数枚の書類が置かれていた。
ただ、
「じゃがバターいかがですか?」
にぱー
「う……」
書類はじゃがバターの横に置かれていた。
あざとい販売戦略だ。
トッピングは塩、チーズ、味噌、醤油、ケチャップ、マヨネーズ、塩辛と無駄に豊富。
やむなくじゃがバター(イカの塩辛付き)を買い、それを二人で食いながら書類を読む。
書類に書かれている内容はほぼ同じ。
『○○へ行け』
違うのは○○に記された次の目的地と、書類に記されたサイン。
サインしているのはそれぞれジョナサン二世、ジョニィ二世、ジョセフ二世の3人だ。
「これも本物は1つだけよ」
署名以外でヒントになりそうなものがない。
「家系図の出番か……」
家系図を参照してみる。
ジョナサン二世(1836~1861)
ジョニィ二世(1851~1889)
ジョセフ二世(1912~1958)
さっぱりわからない。
家系図に書かれてるのは歴代当主の家族構成と生没年だけだ。
これで何を推理しろと。
「……ん」
いや、推理できそうなものがもう1つあった。
星条旗だ。
どの書類にもアメリカの国旗が描かれている。
「……なんだ、この星条旗? 星の数がかなり少ない。ひーふーみーよー……。34か? こっちも、こっちもだ!」
「気付いたわね」
「これだけ少なけりゃ嫌でも気付く」
ジョナサン二世 星34
ジョニィ二世 星43
ジョセフ二世 星49
なんで書類によって数が違うんだ?
たしか星条旗の星の数はアメリカの州と同じ数だったはず。
そういえばアメリカ独立当時は13州。
それが徐々に増えていって現在では50州だ。
星と州の数が同じなら、時代によって描かれている星の数が違うということ。
ネットによると星条旗の星の推移はこうなっていた。
1775 0
1777 13
1795 15
1818 20
1819 21
1820 23
1822 24
1836 25
1837 26
1845 27
1846 28
1847 29
1848 30
1851 31
1858 32
1859 33
1861 34
1863 35
1865 36
1867 37
1877 38
1890 43
1891 44
1896 46
1908 47
1912 48
1959 49
1960 50
家系図と比べてみる。
「なるほど。ジョニィ二世とジョセフ二世は、生きていた時代と星の数が一致してない。つまり彼らがこの星条旗を描くことは不可能。星と時代が一致してるジョナサン二世の書類が本物だ!」
「ぐ……。正解よ!」
いいペースで進んでいる。
この分なら一番乗りも可能かもしれない。
書類に記されていた場所へ向かう。
そしてまたしても立ち塞がる数枚の書類と……。
「綿菓子いかがですかー」
店員の満面の笑み。
「……またか」
仕方なく綿菓子とコーヒーを注文。
「あ、すごい」
コーヒーは熱々で、綿菓子をカップの上に持っていくと熱気で溶けた。
綿菓子の材料はザラメだから砂糖代わりになる。
「綿菓子を舌で溶かしながらコーヒーを飲んでもいいな」
綿菓子器さえあればうちの店でもやれそうだ。
「さて……」
肝心の書類を読む。
署名によれば書類を書いたのはニコラス一世、アイリン一世、ジョルノ二世だ。
星条旗は描かれていない。
「二世が1人に一世が2人。二世が本物っぽいな」
「二世は囮かも知れないわよ?」
「……だよな」
だが星条旗が描かれていない以上、ヒントになりそうなのはこれしかない。
とりあえずジョルノ二世が本物だと仮定するとして。
問題はなぜ一世が偽物で、二世が本物になるのかだ。
もう一度家系図を参照してみる。
「……ん?」
違和感を覚える。
ニコラス一世とアイリン一世は、二世と100年ほど時代がずれている。
ジョルノ二世も一世とは100年ずれていた。
この違和感はなんだ?
一世と二世の間に感じる、もやもやとした何か。
「あ! わかったぞ、やっぱり正解はジョルノ二世だ!」
「根拠は?」
「この書類にはニコラス一世、アイリン一世とサインされている。だがこれはありえない。なぜならニコラスもアイリンも二世が生まれたのは100年後。二世がいるからこそ、区別するために一世を名乗るんだ。だが一世の存命中に二世は生まれてない。一世とサインするはずがないんだ!」
「あー、もう! 何でわかるのよ!」
「これと同じようなネタを聞いたことがある。この問題の元ネタはエリザベス女王だろ?」
「……そうよ」
「やっぱりな」
エリザベス一世は16世紀後半の女王で、二世は20世紀の女王だ。
だからエリザベス一世が一世と呼ばれるようになったのは20世紀からなのだ。
署名もElizabeth『I』ではなくElizabeth『R』。
女王を意味する『REGINA』の頭文字でサインしていたらしい。
ただエリザベス二世も、二世ではなくRでサインしていたという。
「次はここか」
錆びついた公民館の物置の扉をギギギと開くと、そこには3つの時計が配置されていた。
1つはアラビア数字の、残りの2つはローマ数字の時計だ。
「……アラビア数字の時計が本物ってことはないよな、さすがに」
「それがありえるかも」
しかし物置を見回しても、ヒントになるようなものがなにもない。
やむなく時計を見比べてみる。
「お」
するとローマ数字の時計に相違点が見つかった。
4時の表記が違う。
1つはローマ数字の『Ⅳ』が使われており、もう1つの時計では『I』が4つ並べられている。
「そういえばシャルル5世が『余(よ)の数字から1を引いて4を表すとは何事だ!』って、Iを4つ並べさせたエピソードを聞いたことがあるな」
ネットによるとシャルル5世の在位は1364~1380。
この時代より前か後ろかで、どちらの時計が正しいのか推理できる。
ただし、
「……この数字、誰の数字と比べればいいんだ?」
そのヒントがない。
改めて物置の中を探してみたがやはり見つからなかった。
「ふふ、ヒントはすでに出されてるわよ?」
「なに?」
俺が見逃してしまったのか?
しかし見逃してしまうようなヒントの出し方をするだろうか。
色々と思い返してみて……1つ重大なことを忘れてるのに気付いた。
『ジョージ一世の遺産の鍵はXに隠されている』
「ここがXか!」
すると比較するのはジョージ一世。
ジョージ一世はシャルル五世の在位よりも前に生まれている。
つまりIを4つ並べたローマ数字の時計じゃない。
ただアラビア数字の時計の年代がわからないのが曲者だ。
アラビア数字はこの時代でも使われていたはず。
どっちが本物だ?
デニーズの遺言を思い返す。
鍵はXに隠されている。
ここがXなら、Xは何を意味しているんだ?
「えっくす……エックス……X……」
Xとつぶやきながら、考え続けること数分。
「あ」
ふとローマ数字の時計に目をやると、意外な場所に『X』があった。
「Xってローマ数字の10か!」
そうとわかれば話は早い。
ローマ数字の時計のXを調べる。
だが何もない。
「時計を10時に合わせるのか?」
針を動かして10時にする。
ゴーン ゴーン
「うお!?」
時計から鐘の音が鳴り響き、ハトの代わりに一枚の紙切れが飛び出した。
DLCVIX
紙切れにはそう書かれていた。
「DLC……。ダウンロードコンテンツ? VIXはたしか恐怖指数(ボラティリティ・インデックス)だったな。……いや、DLCに惑わされるな。ジョージ一世の時代にDLCもVIXもない。VIXはたぶん5・1・10を表すローマ数字だ。するとDLCもローマ数字の可能性が高い」
ネットで調べてみると、案の定Dは500、Lは50、Cは100を表すローマ数字だった。
「500+50+100+5+1+10だから……666! 『悪魔の数字』が金庫の鍵か!」
「ぐ、正解よ。最後の問題にしては簡単すぎたわね」
「そうだな」
謎はすべて解けた。
早足で金庫へ向かう。
これで景品は俺のものだ。
……そう思っていたのだが。
「おめでとーございます!」
俺よりわずかに早く謎を解いた人間がいたらしい。
「ちっ、一足遅かったか」
金庫から景品を取り出し、盛大に祝福されていた。
「今回の謎解きで一番難しかったのはどの問題でしたか?」
「えっと、その……。謎は解いてません」
「は?」
「……すいません。ゾロ目のそれっぽい番号を試したら開いちゃいました」
会場が気まずい沈黙に包まれる。
「……おい、誰だ金庫の鍵を設定したのは?」
「さ、さあ?」
瑞穂が口笛を吹きながら視線を逸らした。
「お前か!」
「だ、だって、いちいち考えるのが面倒だったんだもん!」
肝心な所で詰めが甘い。
やはり666は悪魔の数字だ。
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