マッドサイエンティスト②

 鳴海、園田、赤又係長は三人連れだってエレベーターに乗り4階の少年課へと移動する。



 コンコン。



 「失礼しま~す! 赤又で~す、取調室空いてます? てゆーか空けろぉ♪」

 

 「あら? 茜ちゃん久しぶり~バイオテロだって? いいわよー今うちも出払ってるから使って」


 赤又係長の不作法な入室に、ふくよかな女性が快く応対する。


 「新谷さんおひさ~」

 

 新谷と呼ばれたふくよかな女は、鳴海達を奥の取調室へと案内した。


 取り調べ室。

 

 そこはテレビドラマで見るような薄暗く灰色のイメージとと違って、どこもかしこも真っ白だったが、壁一面にマジックミラーと思われる大きな鏡が設置されていてすごい違和感をはなっている。

 

 「ふふーん♪ びっくりしたでしょ? ここは少年課だからね、子供を怯えさせないように白く塗ったの~私が♪ ね、どお? ど? 癒されるでしょお?」


 ずずいっと、寄ってくる青隈の目が怖い!


 「はいっ! わかりましたから、あの、聴取、早くっ!」


 鳴海にせかされ、赤又係長は渋々聴取を始めることにした。


 聴取。

 

 まず、デスクに対面で鳴海と赤又係長そしてそのドアこそ開け放たれていたもの園田がその前に立つ形で聴取が始まる。


 「ごめんね~砂辺さん~逃げるとかないと分かっていてもこれ規則なのごめんね~」

 

 うざいくらい謝罪する赤又係長と戸の前に立つ園田に、鳴海はうんざりだと心の中で叫んだ。


 「別に気にしません、早く終わらせましょう」


 聴取は順調に進んだ。


 自分が、あの研究所に採用された経緯から小橋川を取り押さえるに至るまで鳴海は正直に喋った。


 ただ一点だけ。


 『玉城圭』の事を除いて。


 別に嘘をついた訳では無い。


 それは、名前を出さなくても全てつじつまが合ってしまうからだ。


 まるで、こうなる事を知っていたみたいに用意周到に何ヶ月も前から造られたシナリオのように。


 今回は、鳴海と言うイレギュラーが発生してキャストこそ変わったもののそれすら取り込んでこのシナリオは機能している。


 鳴海は、自分に口からでる言葉全てが玉城に操作されて居るようで背筋が泡立つのを感じた。


 そして、聴取も終盤にさしかかったころ。


 「オーラーイ~これで最後の質問だよ~」


 そう聞いて鳴海はほっと息をついたがそれは、冷静で居られた最後の瞬間になった。


 「君と玉城圭との関係は?」


 ___え?___



 鳴海の心臓が波打つ。


 「やだなぁ~今回君が成敗した小橋川の補助員の玉城圭くんだよ? 君たち年とか離れてるけど同じ学校の同じ部活出身で職場でも仲良かったって君の前に聴取した人も言ってたよ? どぉ? そこんとこ?」


 にょにょにょっと、まるで恋バナを聞きたい女子高生ののりで迫る死神に鳴海は警戒心を露わにする!


 「はい……玉城先輩とは仕事を教えてもらったりして仲良くさせていただいてます……」


 「えー! じゃあさっ、じゃあさっ! 今回のバイオテロの事なにも聞いてないの? なんか妙な実験の手伝いしたとかぁ~なんか聞いてない? それともあの現場にいたとか?」


 軽口のテンションの中に確信を得ようとするこの赤又係長は、鳴海の知る死神とは別のタイプの死神だと鳴海は確信した。


 「ん? どぅしたの? 黙り? おなか痛い?」


 ある意味腹痛が起きそうだと鳴海は思った。


 が、ここで黙るのは負けた気がしてしゃくだ。


 「いいえ? 玉城先輩からは今回の事については何も……あの、玉城先輩無事なんですか?! 自分心配で心配で、そうだ! 警察で玉城先輩捜してください! あの騒ぎのあとから姿が見えなくて……」


 純粋に先輩の無事を祈る後輩。


 鳴海はそう見えるように、必死に可愛らしく振る舞う!

 


 ___ああ! 自分自身に鳥肌が立つ!___



 「わー……相変わらすだね~玉城くん~女の子にもてもてじゃん~♪」


 「え?」


 赤又係長の言葉に鳴海の息が詰まる。


 「あ、あの、玉城先輩の事、知ってるんですか?」


 「うん、知ってるよ~彼が高校生の頃からね~少年課じゃ有名人だったんだよ~」

  

 「え、あの、それってどういう_______」



 玉城が県警の少年課で有名だった。


 ソレは一体どういう事なのか?


 思わず鳴海が赤又係長に掴みかかった時だった!



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!



 署内全体にけたたましくサイレンが鳴り響く!


 「なになに? また誰か非常ボタン押したぁ? も~駄目じゃないの!」


 「オレが見てきます!」


 園田が廊下へと駆け出す。


 「まったく~なにかな?」


 サイレンが鳴るのは、非常ボタンが事故ないし故意で押された場合もしくは『誤作動』か『本当に非常事態』のどれかに当たる。


 日常的に考えて、『誤作動』か誰かが押したと考えがちなのが世の常だ。


 だからそんなサイレンの音よりも、鳴海の頭の中に鳴り響いていたのは『わー……相変わらすだね~玉城くん~女の子にもてもてじゃん~♪』と言う赤又係長の言葉だったりする。


 「あ、あの! もてもてって、た、玉城先輩て彼女とか……?」

 

 「んぅ? どーかなぁ? 一方的に好かれる事の方が多かったみたいよ? え、ちょ、顔怖いよ砂辺さん?!」

 

 鳴海がそこの辺りをもっと問いつめようと赤又係長に詰めよろうとしたとき、様子を見に行っていた園田が慌てた様子で取調室に飛び込んできた!


 「赤又係長! 大変です! 今すぐ署内から避難を!」


 「なに? こっちも穏やかじゃないね?! どうしたの?」



 園田は一瞬、民間人である鳴海が居合わせていることに口を濁したが緊急性が高いと判断して口を開く!

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