マッドサイエンティスト

マッドサイエンティスト①

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 馬鹿は死ななきゃ治らない。


 じゃ、天才って『治らない』ものなんだろうか?

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 県警本部。


 この地上10階地下3階の近代的な建物は、細かいごたくをすっ飛ばして言ってしまえば、『県』における治安を統括する象徴である。


 鳴海は、今回のバイオテロ未遂の聴取をとられる為ここに連れてこられた訳なのだが今置かれている状況この状況はいかんともしがたかった。


 「砂辺、何をぼーっとしているこうしている間にも奴の撒いたウイルスが署外にも拡散する。 急ぐんだ」


 背後で鼻にティッシュを詰めた死神が、鳴海をせかす。


 一難去って又一難。


 と、言う言葉がこれほど似合い状況を鳴海は知らない。



 何故こんな事になったのか?


 ソレは約30分程前にさかのぼる。


 




 30分程前。


 鳴海はあの悪夢の実験施設からパトカーで県警本部に到着した。

 

 無論ソレは、聴取を取るために県警本部にある刑事課の取調室に向かう為だ。


 パトカーの運転をしていた警察官に案内されエレベーターに乗った鳴海は、3階にあると言う刑事課へとつれだった。


 「大変でしたね……」

 

 疲れからかエレベーターの中で押し黙っていた鳴海に付き添う警察官が、声を掛けてくる。


 正直、いろいろありすぎて誰とも喋りたく無かったが気遣ってもらった手前対応しないわけにもいかない。


 「いいえ、警察のみなさんが来ましたから大丈夫でした」


 「いいえ! オレ達なんて、匿名の通報があるまでなにも……その間、貴女みたいな若い女性が一人で立ち向かっていたなんて! よくがんばりましたね!」


 ____匿名の通報……玉城先輩……______


 「いや、本当に凄い! このバイオテロが未然に防げたのは貴女が頑張ってくれたおかげですよ!」


 __うるさい!__

 


 鳴海は正直耳を塞ぎたかった。


 事情を知らないこの警察官には悪いが、今は鳴海の腹の蟲の居所がすこぶる悪い。


 「オレ、地域課の園田克己と言います」

 

 「はぁ……自分は砂辺鳴海です」


 流石に、このまま俯いた間まででは失礼だと思い鳴海は『園田克己』と名乗る警察官に『礼』をする。


 年の頃は20代。

 

 恐らく玉城よりも若く、どちらかと言えば鳴海と年が近いだろう。


 警察官のおなじみの制服に加え、コレは防弾チョッキなんだろうか? 制服の上からは分厚そうなベストのような物を着ている。


 なんだかとても動きにくそうだ。

 

 「わ、そんなご丁寧に……えと、やっぱり何か格闘技とかしてるんですか?」


 「ぁ、はい……高校で柔道を」


 「へー! オレは警察学校で剣道を取らされましたよ!」


 園田は、鳴海のその身のこなしから格闘技経験者だと察したらしい。


 すぐに気づくとは警察官は流石だなっと、鳴海は思った。


 ポーン。


 そうこうしている間にエレベーターが3階で止まる。


 「あ、行きますよ~ついてきて下さいね!」


 園田は、ぼーっとしていた鳴海をエレベーターから下ろしまるで羊飼いのように刑事課へと誘導する。


 「はーい! つきましたよ~」


 促されて中に入ると、そこにはまるで刑事ドラマさながらの光景が広がっていた。


 「交通は何で止められないんだ?! 未遂とはいえバイオテロだぞ? ダメだ! 許可出来ない!」

 「女性の被疑者に付き添う婦警が足りん! 交通から回せ! なに? 少年補導職員だと? それは女性職員か? 使えるなら何でもいい!」

 「あーはい、いいえ違います。 ここ刑事課よ? 警務課じゃないから」

 「おい、誰だ! 証拠品保管室の鍵何処やった!? はぁ? 交通課が持ってっただぁ?? ふざけろ! 新人か? 呼び出せ!!」


 まるで橋でも封鎖しそうな勢いの混乱ぶりに、鳴海は小橋川のしでかした事の重大性をこの時初めて重く受け止め恐怖を実感し身震いした。


 あの時もし、玉城がいなかったら?


 「あー~急がしそうですね……って砂辺さん!? あ、大丈夫ですよ? もうここ警察ですからもう怖くないですから安心して」


 「え?」


 園田の言葉に、鳴海は今まで自分が震えていたとにようやく気がつく。

 

 「あ、れ?」


 「もう少しで聴取とる婦警さん来ますから! ソレまでオレといましょうね?」


 弾けるような優しいお巡りさんスマイルで鳴海を気遣う園田。


 悪気は無いのだろうが、今の鳴海にはそんな『女扱い』は地雷となる。


 「おかまい無く、そのまま待たせていただきますからお巡りさんはお仕事に戻ってください」


 「そんな状態ではほっておけません! オレの事は気にしないで」



 ___いらっ___



 鳴海は、今すぐ叫び出したくらいに溜まったストレスを飲み込む。



 「ほんと、いいですから___」


 「あー園田ーーーー! 待たせてすまんねーーー!」 


 慌ただしい廊下の向こうから、それに負けないくらい喧しい声が此方に向かって一直線に早足してくる。


 「え?」


 鳴海はそんな元気いっぱいに此方に向かってくる声の主に言葉を失った。


 だって、その顔は___。


 「全く、遅いですよ赤又係長ー」

 

 「すまんねぇー! 女性の聴取が立て込んでてさぁ~」


 明るく振る舞い、よく笑うがダメだ!


 鳴海にはそれが、死神が無理している様にしか見えない。


 「あ、赤又さっ? どうして? 自分そんなに強く叩きつけてましたかっつ???」


 あたふたする鳴海に、『赤又係長』と呼ばれた死神は首を傾げる。


 「ん? なんの話かな? 私、君に会うのは初めてだと思うけど……えーっと砂辺さんだね? はじめまして赤又茜です! 今日、聴取を担当するよ~よろしくね~」


 「……!?」


 苗字こそ同じだが下の名前が違う事に鳴海は、ようやくこの人物が自分の知る死神とは別人だと認識したが驚きは隠せない。


 __うそっ!? 他人のそら似??__


 世界には同じ顔が3人はいると言うがコレは似すぎだ。


 しかし、この園田と言う第三者がいる以上この『赤又係長』が嘘を言っているとは考えにくい。


 「じゃ、始めよっか……って。 ちょっと! 取り調べ室空いてないじゃないよーーーもーーー! 園田ーーーー! ちゃんと取っといてよぉおお!」



 ____気持ち悪い____



 鳴海の知る『赤又さん』の顔でテンションの高いリアクションをとるこの『赤又係長』はとてつも無く不自然に鳴海の目に映る。



 「しゃーない、少年課の取調室かりるかなー?」



 適当に束ねられたバサバサのポニーテールを揺らす『赤又係長』は、鳴海に手招きをした。

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