蟲工場㉓
鳴海はビニールをひっくり返し、中身を床にぶちまけた!
手に取った白濁し変形したチューブには、玉城が作ってくれたあのラベルが貼られて貼られている。
「このラベル……間違いない! ああ! くっそ! これも、これも! ダメだ……」
チューブは全て変形し蓋は壊れ、中のイモウゾウムシも恐らく使い物にはならないだろう。
これは、熱処理されてしまってる。
鳴海はそう確信した、なぜならこの緑の袋に鳴海は見覚えがあったのだ。
それは、鳴海がウリミバエの工場区画に入り込んだ時に玉城が熱処理すると言って回収して行った服を入れていた袋と同じものに間違いなかった。
実験の事などあまり詳しくはない鳴海でも、熱を加えられてしまえば恐らくサンプルとしては使えないと言うことは分かるしそれが赤又なら分からない筈などない。
実験を妨害されたと考えようにも、その妨害をしていたとされる小橋川と玉城は警察のお世話になっていてこんな事をするのは無理な事。
つい今まで、顕微鏡を覗いていた赤又の様子から考えても鳴海が離れている短時間の間にサンプルを全てチェックし結果を出したとは考えにくい。
だとすれば、考えられるのは一つ。
「赤又さんが?」
故意に処分した。
そう、考えるのは妥当。
だがしかし、なんのために?
小橋川の悪行を立証する筈の実験ならば、サンプルを処分するのはおかしい。
弾かれたように鳴海は実験室を飛び出し、コンテナの区画に向かて駆け出す!
「もう一度……もう一度、作って、そうすれば!!」
鉄の重い扉を体当たりでこじ開けた鳴海は、すぐ近くのコンテナに飛び込む!
「え? は?」
ガランとした冷たい空間に鳴海は茫然と立ち尽くす。
飛び込んだコンテナには、あれほど沢山の芋の詰まったタッパーがあった筈なのに今は棚どころか何もない。
鳴海はコンテナから飛び出し、ずらっと並ぶほかのコンテナを片っ端から覗くが同じく空っぽ。
「なにが……なんで??」
死んだから処分されたとでも言うのだろうか? あの大量にあったタッパーは影も形もない。
「そんな……これじゃサンプルを作れない!」
鳴海は力が抜けたようにその場に膝をつき、開け放たれたコンテナの扉を殴りつける。
「玉城先輩……自分はどうすれば、どうすればいいっすか……?」
面接の日。
初めて出会った玉城の第一印象は最悪だった。
勿論それはあまりに準備を怠った鳴海にも非があったのだが、それでもその歯に衣着せないもの言いは確信をついていただけにショックを受けたのは言うまでもない。
が、そんな風に悪ぶって見せてもなんだかんだで今まで鳴海を助けたのも玉城である事に間違いはないのだ。
自分のあまりの無力さに、泣けてきた鳴海の脳裏に顕微鏡を覗いていた玉城の横顔が浮かぶ。
実験の作業を手伝ってくれた玉城。
例えそれが、玉城なりの理由があってのことだとしても恩を受けてばかりで何も返せてはいない事が鳴海にとっては息苦しい。
「……ぁ」
実験。
サンプル。
玉城。
コンテナ。
小橋川。
ソレはつい昨日の出来事。
鳴海は立ち上がり、またも駆け出す!
コンテナ区画から飛び出した鳴海は、廊下を駆け抜け実験棟の外へ駆け腰まである草を掻き分け突っ切て別棟の入り口から階段を駆け上がった!
バン!
鳴海はそのドアを乱暴に蹴破って中に入る。
そこは特殊病蟲班のとっ散らかった研究室とは違うよく清掃の行き渡った白亜の瓜二つの間取り。
ミバエ班研究室。
あの日、面接の場所を間違って以来久しぶりに来たその場所には今は誰もいない。
「はぁ、はぁ……! 探さなきゃ! ある筈だ!!」
研究室に押し入った形なった鳴海は、そこらじゅうをひっくり返す勢いであるものを探す。
ソレは、玉城が鳴海の元からくすねた物。
「あった!!」
それは、小橋川のデスクの上であまりに容易に見つかった。
というか、隠し損ねた様にも見えなくもない。
視線の先の小橋川のデスクの上には、1ミリリットルのチューブが小さなチューブ立てに立てられている。
1コンテナあたり10本ずつと数はすくないが、すべてのコンテナ分のサンプルがそろっていようだ。
「コレさえあれば……!」
鳴海は、近くにあったダンボールにチューブ立てごとサンブルを詰め込む。
大して重くもないが、乱暴に扱わないようにそっと運び出す。
◆
バタン!
「室長!」
「でぅふっ!? なるちゃん、どしました?? ゲホッツ! げほっつ?!」
特殊病蟲班の自分のデスクでカプチーノを楽しんでいたクリプトン室長は、突如足で戸を蹴り開けた鳴海に驚き咳込む。
「なんですかよ? 驚くぜよ?」
「これ! これ顕微鏡で見てください! お願いします!」
鳴海の必死の形相に、クリプトン室長は気圧され押し付けられた段ボールをの覗き込んだ。
「OH……? どこのサンプルですます?」
「全滅したコンテナのサンプルです!」
「Why? そのサンプルの調査はMrs赤又が既に結果をmailしてきましましたよ?」
その言葉に、鳴海の中の赤又に対する疑念が確信に変わる。
「お願いです! これをもう一度、室長に見て頂きたんです!」
「わ、わかったましたよ……後で____」
「今すぐお願いします!!」
「oh……」
もはや殺気だった鳴海は、半ばケツを蹴るようにクリプトン室長を研究室から実験室へと連行した。
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