不思議職安②
部活動で積み上げたものは全て崩れさり、体育特待での大学進学も無くなりそして今に至たったのだ。
記念すべき社会人一発目は、見事にこけた。
冷たい2月の風に吹かれながら、金城町子にもらった茶封筒を覗いく。
『一応ハローワークで配られているリーフレットが全部入っているわ参考にしなさい』
そう言って渡してくれたA4の茶封筒の中には、びっしりと職業訓練の案内とか失業保険需給の案内だとかが入っていた。
しかし、今の砂辺家には今日の米代すらないのだ。
___3月まで待てない! 今すぐにでも働かないと!___
鳴海は、祈るような気持で何か無いかと茶封筒を探る。
吹きすさぶ無慈悲な冷たい風の中で、今頼りのなるのはこの封筒しかないのだ。
食い入るように覗き込んだA4の茶封筒から、薄い香水の香りがした。
ガサッ!
鳴海は、手にしたそれを取り出す。
B5くらいのモノクロのリ-フレット、そこにはこう書かれていた。
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『仕事にお困りの皆様!朗報です!』
『私たちはどんな状況いかなる立場の皆様にもお仕事を紹介できる機関です!
たとえこの理不尽な不況の中でも私たちには皆様にぴったりのお仕事をご紹介できる自身があります!
どなたでもこのチャンスを手にすることが出来るのです!!
私たちは多種多様なお仕事をご用意して皆様をお待ちしております!
平日8:30~17:00 土日祝日:休み』
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文章の下記のほうには、簡単な地図が掲載されていた。ここから近い。
ハローワーク駐車場に立つの古びた時計棟は、16:30を少し過ぎたところだ。
___後、30分!___
迷いなど無かった。
鳴海は、乱れる制服のスカートなど構わず全力で走り出した。
◆◆◆
徒歩5分ほどの目的地は、走れば2分ほどで到着する。
ハローワークの裏手にあって、こじんまりとした古びた外観から築年数は先ほどのハローワークよりも更に古い事が分かる。
セロハンテープ古びた残骸が窓ガラスに張り付き薄暗い建物内をより外からは見えにくくしていてなんだか薄気味悪い。
「失礼しま~す」
ぎぃいいぃいいいいいぃいっと、なんとも耳障りなおとを立ててドアは開いた。
きっと、このドアの先に広がるのは世にも恐ろし……が、予測に反し内は意外と綺麗だ。
部屋の中は外観とはちがい薄暗く古びてはいるが掃除の行き届きゴミ一つ落ちていない。
内装も求人検索端末が2機、受付が一つ職業相談案内カウンターが一つ待合ベンチが一つの小さなフロアだが一切の無駄が無い。
そして、あの咽返るような香水の匂い。
「ようこそ」
薄暗い照明の中、金城町子は先ほどよりもにっこりと微笑んでいた。
『怖くない』と、言えば嘘になる。
鳴海は、相談案内窓口に座っていた。
狭いフロアなので出口まではそう遠くない、鳴海の短い足でも10歩もあればたどり着ける。
___出来れば、今すぐにでも逃げ出したい!____
そんな衝動に駆られながら、鳴海は金城町子の作業を見ていた。
金城町子は、年の割りに以外に素早い動作でパソコンのキーを叩き鳴海の情報を打ち込んでいく。
それにしても、金城町子はどうやって自分よりも早くここにたどり着いたんだろう?
先程いた職安からここまで、駆けてきたがすれ違ってなんてない筈なのにと鳴海は首をかしげる。
タタン!
ふと、そんな思考を働かせているとリズムよく響いていたタイピングがぴたりと止む。
「さっ、確認しなさい」
そう言うと、金城町子はパソコンの画面をクルリとこちらに向けた。
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氏名:砂辺 鳴海 (スナベ ナルミ)
生年月日:平成××××年11月29日
年齢:18歳
扶養家族:3人
最終学歴:学校法人私立尚甲高等学校・体育コース
免許/資格:ナシ
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それが、鳴海の18年間の人生の全てだった。
はっきり言って、部活にかけ暮れていた晴海に今すぐ役立ちそうな資格なんて勿論ない。
英検や簿記なんて勿論の事、車の免許なんてあるはずもない。
学校と言う括りから外に飛び出して思い知るのは、社会において自分がいかに無力であるかと言う現実だ。
「はい。 間違いありません」
「よろしい。 登録は以上よ、後15分あるから検索していく?」
鳴海は促されるまま端末の前に座ると、画面の分厚い旧式のパソコンが自動的に立ち上がった。
まず、年齢を入力する画面そのあと新着の求人・条件別・勤務地別などさまざまな項目が並ぶ。
___離島以外で、すぐにでも働ける場所がいい……____
カタ……カタ、カタ……。
静かなフロアに、鳴海の人差し指がたどたどしくキーを叩く音が響いた。
タン!
Enterを押すと、画面に最新求人が一覧表で表示される。
建築関係:経験者
介護関係:有資格者
スポーツトレーナー:要経験者
販売員:経験1年以上
警備員:154cm以上
グラフィックデザイナー:専門学校以上
…………ete
なんて事だ!
何一つ条件に当てはまらない!
不況で会社に社員を教育している余裕は無いとは聞いていたが、まさかこれ程とは!
カタッ!
「!?」
絶望に打ちひしがれる中、『次ぎへ』と書かれたアイコンをクリックすると一箇所だけ『未経験可』と書かれた求人が目に付いた。
実験補助:未経験可・高卒以上
詳細:実験施設での研究員補助
___……これ、本当に未経験でも良いのか?___
時給だって悪くない、始めは非常勤扱いだけど常勤になれるみたいだと鳴海は一縷の望みを感じとりあえず『求人票印刷』と書かれたアイコンをクリックしプリントアウトする。
「あら、何か見つけたの?」
プリンターの音を聞きつけ、金城町子が話しかけてきた。
「あっ、いや、ちょっと気になって……」
「あと5分で窓口を閉めるのよ、『求人票』出したんならこっちに持ってきなさい」
「は はい……?」
鳴海は、金城町子のピシャリとした有無を言わせぬ迫力にしぶしぶ窓口に求人票を提出した。
すると、金城町子は電話の受話器に手をかけるとどこかに電話をかけ始めた。
「大変お世話になっております。(#)ハローワーク金城と申します~採用担当の渡名喜さんお願いします。」
「!!?」
あまりの展開に鳴海は驚き、そしてまたもや己の無知さ加減に赤面した。
___嗚呼、そうか!!!____
窓口に求人票を出すと言うことは、その求人を紹介してもらって面接の日取りやらを決める事だっんだ~と今更ながら理解した。
「お世話になっております。(#)ハローワーク金城です……はい、今面接希望の……はい……はい……しばらくお待ち下さい」
金城町子は、受話器の口を押さえながらこちらを向くとにっこり微笑む。
「良かったわね、まだ面接を受付てるそうよ! 明日の午後三時で大丈夫?」
「え あっ はい」
____マジかよ……こうもあっさり面接が決まってしまうとは……___
茫然とする鳴海をしり目に、『よろしくお願いします』と言うと金城町子は受話器を置いた。
「……時間ぴったりね、今日は窓口終了よ。 明日は時間に遅れないで面接に行きなさい……『紹介状』を印刷するから明日はそれと『履歴書』を忘れないようにね」
鳴海はプリンターら出力された『紹介状』を金城町子から受けとった。
「以上よ。 帰って良いわ」
その言葉に、『ありがとうございました』と足し去ろうとする鳴海の背に金城町子が問う。
「あ、所でアナタ『虫』は平気よね?」
「はい?」
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