第四話「みんなで遊ぶ」
翌日、放課後。
教室には今澤有原コンビ、俺の三人。
そこへ――。
「お、おまたせ?」
一度教室を出ていた、清里が戻ってきた。
「来たな。ちょうど俺たち以外みんな帰ったところだ」
清里が来たのに気が付くと、今澤たちは立ち上がって机を動かし始める。俺もそれを手伝い、四つの机を向かい合わせにした。
「清里、こっちに座ってくれ」
「うん……それで、なにをするの? 私まだなにも聞いてないんだけど」
「今からこの四人でゲームをしようと思う」
「ゲーム……? ここで?」
清里が首を傾げていると、有原が鞄から手帳ほどの大きさの箱を取り出す。
見ると『ニワトリのえじき』と書かれていた。
今澤が真ん中に机ひとつ分ほどのウールのマットを敷き、その上で有原が箱の蓋を開ける。
中には何枚ものカードが入っており、手際よく取り出していく。
「数字が書いてあるけど、トランプじゃないよね?」
「そうだ。このゲームはこの専用のカードを使って遊ぶんだが……今澤、頼む」
「うん。私が説明するね~、清里さん」
「よ、よろしくお願いします……」
「まずカードには、手札用のカードと場でめくるカードが15枚ずつあって――」
今澤がルール説明をしている間に、俺と有原でゲームの準備を進めておく。
人数分のカードを配り、山札をセットすると、ちょうどだいたいの説明が終わったようだ。
「ルールはだいたいわかったよ。まだちゃんと理解できてないかもしれないけど」
「あとはやって覚えよう~」
「うん……でも待って。つまり今日は、四人でこういうカードのゲームをやろうって話なのね?」
「さっきそう言ったと思うが」
「そうだけど……。どうしてこのメンバーなのかなって、思って」
「なにかおかしいか?」
三人揃って首を傾げると、清里は面食らったような顔になる。
「だ、だって、仁太郎君と……今澤さんと有原さんが仲良いなんて、知らなかったから」
少し目を逸らしながら言うのを見て、俺はようやく清里がなにを言いたいのかわかった。
「確かに、珍しい組み合わせに見えるか」
「そ、そうは言ってないよ?」
「いや、珍しいだろ。俺たちがたまにこうやって放課後ゲームをしていることは、たぶん誰も知らないんじゃないか? 恵や壮一にも話してないからな」
俺がそう言うと、今澤と有原もうんうんと頷く。
「最初はわたしたち二人でゲームしてたんだよ~」
「そしたら、じんた君に見られちゃって」
「うむ。なにやら面白そうなことをしているなと思ってな。ゲームに混ぜてもらったのがきっかけだ。遊んでいるうちに俺もハマってしまった」
「プレイヤーが多い方がゲームは面白いから~」
「むしろ二人だとつまらないのもあるからねぇ。じんた君には感謝してるよー」
清里は話を聞いてぽかんとしている。そこまで驚くような話だっただろうか。
「ほら、清里。早くゲームをやろう」
「えっ、う、うん。そうだね」
言われてハッと我に返り、自分の手札を取って手の中で並び替え始めた。
「とりあえず軽くやってみるか」
「……また最下位だと?」
「やったー! また勝ったよ! 陽子ちゃん、美和ちゃん!」
「うん! 優理子ちゃん強いね~」
「ゆりちゃん連続一位。すごいすごい」
女子三人がハイタッチをしている。
あれから何戦かやったが、清里が強すぎる。
このゲーム、駆け引きやカウンティングが重要だ。よく考えたら、そういうゲームで頭の良い清里に敵うわけがなかった。
と思ったのだが……。
「何度かやってると、みんなのクセがわかってきて面白いね。仁太郎君ならこういう判断するだろうなって、読めてきたよ」
「……清里、本当はこの手のゲームやったことあるんじゃないか?」
「え? トランプくらいしかないよ?」
どうやら、頭が良い以上にセンスがあるようだ。
昨日のガンシューティングといい、ゲームの才能があるな……。
「そろそろ別のゲームにしよっか」
「他にもこういうのがあるの?」
「うん。いっぱいあるよー」
「今澤と有原は、二人でゲームが被らないように買っていってるみたいでな。結構な量を持っている」
「そうなんだ……へぇ」
「全部は持って来れないけど、今日はすぐ遊べそうなのを選んできたんだ~」
「もっと難しいのでもよかったかもねー。ゆりちゃん飲み込み早いから」
「そ、そう? 次はどんなのをやるの? 陽子ちゃん」
「そうだねぇ。今度はダイスを使うのにしよっかな」
……さっきのを何戦かやっただけで、随分仲良くなったな。この三人。
清里が来る前に今澤と有原に聞いたが、清里とはほとんど話したことがないと言っていた。
それがこうもあっさりうち解けるとは。少し意外だ。
「仁太郎君、ぼうっとしてないでやるよ?」
「次は負けないからな、清里」
「あ~、楽しかった。ちょっと悔しいのもあったけどね」
そろそろ日が落ちてきたため、机を元に戻して帰り支度をする。
清里は満足そうな顔で伸びをしている。
「ま、まぁ、強すぎるよりはいいんじゃないか?」
俺は辛うじてそう言ったものの……正直ただの負け惜しみだ。
清里は本当にゲームが強かった。が、まったく勝てないわけでもない。
というのも……清里優理子、唯一にして最大の弱点。運が大きく絡むゲームは滅法弱いということだ。
ダイスを使うゲームでは低い数字しか出せず、カードの引きも悪い。そのせいで一位が取れないことが多かった。
最初のゲームのような駆け引きやカウンティングが重視されるゲームは無双してしまうので、清里とゲームをする時は多少なりとも運の要素が入ったものがいいかもしれない。
「次はあれ持ってこよっか~。あれなら戦略も大事だけど運の要素もあるし」
「そうだねー。ゆりちゃんにはちょうどよさそう」
二人も同じことを感じたのか、そんな話をしていた。
「あっ……次……」
清里にも聞こえてしまったようだが、気になったのは運のところではないらしい。
少しだけ困った顔で、二人のことを見ている。
「あの、私……」
「優理子ちゃん、また誘うからね~」
「今日でゆりちゃんが強いのはわかったからね。次が楽しみ」
「あっ……うん! 絶対誘ってね! それから、どんなゲームがあるのか、もっと教えて欲しい!」
……どうやら、すっかりゲームにハマってしまったようだ。
俺は三人が笑い合う姿を、腕を組んで眺めるのだった。
後片付けを終え、校舎を出る。
校門の前で今澤と有原の二人と別れると、俺は空を見上げた。
どうやら、日が完全に落ちる前には帰れそうだ。
――くいっ。
と、清里に袖を引っ張られる。
「ね、ちょっとだけ時間いい?」
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