第三話「ふたりで遊ぶ」
「待って、待って幸重君! ちゃんとついて行くから、というか引っ張られると歩きにくいよ」
「むっ……すまんすまん。なんかこう、使命感に燃えてしまって。つい」
清里の腕を引っ張り公園から出たところで、俺はパッと放す。
すると清里は、俺の隣りに並んで歩き出した。
「幸重君って、意外と強引なんだね……」
「そうか? それより、幸重って呼びにくければ仁太郎でもいいぞ。クラスのほとんどのヤツはそう呼んでいる」
「別の意味で呼びにくいんだけど……。わかったよ、仁太郎君」
清里は仕方がないな、という感じで小さな笑みを浮かべた。
「それで? 遊びに行くって、どこに?」
「清里はどこか行きたいところはあるか?」
「え? わ、私が行きたいところ? そんな、急に言われても……遊ぶところなんて」
「別にクラスメイトがよく行きそうな場所、じゃなくてもいいんだぞ? わからないだろ、そういうの」
「うっ……そ、そんなことは、ないよ? あ、でも本屋に行きたいかも……」
「わかった。じゃあまずは本屋だ」
「いいの? 遊ぶ場所じゃないと思うけど」
「本を見たいんだろ? 楽しければどこでもいいんだ」
「…………そういうものなのかな」
首を傾げる清里を連れて、駅にある大きめの本屋へとやって来た。
「なにか欲しい本があるのか?」
「ううん、今は特に……。推理小説の棚が見たいだけだから」
「お、いいな。俺も一時期ハマっていたんだ。ほらこれだ。『水底に煌めく』って知ってるか?」
「うん、読んだよ。……でもこれ、オチがすごく微妙だったと思うんだけど」
「だが、だからこそ色々想像ができてな。俺は好きだ」
「深読みできるってこと……? 私はそういう風には思えなかったよ」
「当然だろうな。ネットでの評判も悪い」
「仁太郎君ってやっぱり変わってるね。……私はこれかな。『霧下家殺人事件』が好き。ちょっと古いんだけどね」
「おお、俺が初めて読んだ推理小説だ。それを読んで推理小説にハマったんだよな」
「そうなの? ……うん、わかるかも。すごく印象に残るんだよね」
「読み終わったあと、しばらく頭の中に残っていたなぁ」
「クライマックスが衝撃的だよね。……私もなかなか頭から離れなかったよ」
「……久しぶりに読み直してみるか」
「私も読みたくなってきちゃった」
しばらくそんな感じでお互いの読んだ本を教え合い、時間を過ごしたのだった。
「あ~楽しかったっ。本屋でこんなに楽しめるなんてね」
「そうだろう? 遊べる場所だけが楽しいとは限らないんだ」
「……たぶん、それだけが楽しかった理由じゃないと思うよ」
「どういうことだ?」
「それは……う、ううん。なんでもない。この後はどうするの?」
「まだ時間はあるな。他に行きたいところはあるか?」
「うーん……。次は、仁太郎君に決めて欲しいかな?」
「俺か? ……定番だが、ゲーセン行くか? 今度は本当に遊ぶ場所だぞ」
「ゲームセンター……! こ、恐くないよね?」
「いつの時代の人間だよ。……いや、そうか。行くの初めてか?」
「うん……。なんとなく、ひとりだと入りにくいよ」
「そうでもないんだがな。ま、今はふたりだ。行ってみよう」
「う、うん……!」
というわけで、今度はゲーセンへと移動する。
「はぁ~……ここが、ゲームセンター……。お、音がすごいね?」
「結構大声で話さないと会話もできないな」
「あ、これUFOキャッチャーだよね」
「……そうだな」
「小さい頃やったことあるよ」
「なんだ、来たことあるんじゃないか」
「昔すぎて覚えてなかったし、それにゲームセンターじゃなかったと思う」
「ああ、デパートとかにもあったりするか」
「ね、仁太郎君。これ取れる?」
「無理だ」
「……即答だね」
「苦手なんだ、UFOキャッチャー」
「なるほどね……。じゃあ得意なのは?」
「得意とまではいかないが、あれは恵たちとよくやってたぞ」
「東島君と? えっと、あれはどんなゲームなの?」
「ゾンビを銃で撃つゲームなんだが、やってみるか?」
おどろおどろしい、不気味でスプラッタな感じの筐体の前に立つ。
が、清里は動じた様子はなく、筐体に貼られたゲームの説明文を読んでいる。
こういうのに怯えるタイプでは無いようだ。
「ゲーム代くらいは出すぞ」
「え、いいの……?」
「半ば無理矢理連れ出したからな」
「少しは自覚があるんだね……。それじゃ、遠慮無く。ありがとう」
そんなやり取りのあと、二人用でゲームを始める。
ゲーセンによく置いてあるガンシューティング。出てくるゾンビを次々と撃っていくバイオレンスなゲームだ。
「うわあ、結構リアルだね。さすがにちょっと気持ち悪い」
「……と言いながら的確にヘッドショットしていくのな」
「大きいの出てきた! 弱点は頭でいいの?」
「そうだな。だがその前に」
「腕を攻撃すると武器を落とすんだね。じゃあそれから頭を狙った方がいいかな?」
「あ、ああ……」
飲み込みが早いとかいうレベルじゃなかった。
清里優理子、恐ろしくゲームが上手い。
恵や壮一とじゃ進めなかったところまで、クリアできてしまった。
「楽しかった~!」
「なぁ清里、今のゲーム初めてだよな?」
「うん。当然だよ。ゲームセンター自体初めてだから」
「家になにかゲーム機があったりするか?」
「ううん? 持ってないよ。あ、お父さんのがあるけど、私は触ったこと無い」
「……そうか」
「それにしても、最後のボスはずるいよね。初めてじゃ避けられないよ」
「いわゆる初見殺しだな。いやでも、それまでにも似たようなのはあったんだが」
ラスト以外、初見殺しに全部対応できてしまった清里こそ、バケモノか。
俺は眠れる獅子を起こしてしまったのかもしれない。
「今度また挑戦してみたいな」
「……ま、楽しそうだからいいか。よし、また今度な」
清里が今浮かべている笑顔は、クラスでは見たことのない、本当に楽しそうな笑顔だった。
「さて、もう少しなにか……ん?」
他のゲームを、と思ったところで、うちの制服を着た女子二人を発見した。
「あ、あれって、うちのクラスの……!」
清里も気付いたようだ。そして何故か慌てた様子できょろきょろしている。
俺はそんな彼女に構わず、二人に向かって声をかけた。
「おーい、
「え、ちょっと仁太郎君?!」
清里がひしっと袖を掴み、背中に隠れる。
「あれ、仁太郎くんだ~……」
「本当だ。
二人がこっちに歩いてくる。
ほんわか雰囲気の今澤
この二人はいつでも一緒にいる印象だ。
逆に言えば、二人以上でいることが無い。
「今日は清里に……ってなんで隠れてるんだ?」
「もう……。えっと、こ、こんにちは、今澤さん、有原さん」
「え~、清里さんと一緒だったの?」
「珍しい組み合わせだねー。じんた君」
さすがに少し驚いたようだが、すぐににこっと笑顔になる。
その反応に、清里の方が驚いているようだった。
「実は今、清里に色々遊びを教えていてな」
「そうなんだ~。仁太郎くんらしいね」
「ちょっとビックリしたけど、じんた君だもんね。納得納得」
「え、えっと……? 仁太郎君、ふたりと仲良いの?」
「まぁな。少し前に……お? そうだ、いいことを思いついたぞ!」
俺はニヤリとして、三人を見渡す。
「清里、明日の放課後も時間貰えるか? 教室に残って欲しいんだが」
「それは……うん、構わないけど。でも待って、状況がわからないんだけど」
「あ、仁太郎くん~、もしかして」
「そういうことだ。ふたりとも、協力してくれるか?」
「もちろんだよ。やったー、これで四人だね、ようちゃん」
「うん! やったね~美和ちゃん!」
「えっ、え? なになに? どういうこと?」
「それじゃ、わたし帰って明日の準備するね~」
「あたしもー。なに持っていこうか? 相談しながら帰ろうね、ようちゃん」
そう言い残して、今澤と有原は手を振ってゲーセンを出て行く。
「よし、じゃあ今日はここまでにしとくか。続きは明日ってことで、解散だな」
「もうなにがなんだか……え? 解散って、待って待って!」
ひしっと、さっきと同じように俺の袖を掴む清里。
何故か焦ったような顔をしている。
「仁太郎君がどういう人かわかってきたから、もうなにも聞かないよ。でも……ね」
「ふむ。なんだ?」
「ここで解散はやめよう? せめて駅まで一緒に行こうよ」
「ん? それもそうだな。よし、行くか」
俺がそう言って清里に合わせて歩き出すと、彼女はほっとした顔になるのだった。
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