第二話「リア充との出会い」
(清里優理子がリア充だと、周りは言っているが……)
才色兼備でクラスの人気者。おまけに恋人がいるという噂まである。
まさにリア充の鑑らしいが、俺には疑問だった。
俺が非リア充代表、彼女がリア充代表。そう呼ばれている知ってから、いったいどこに違いがあるのかと、俺はここしばらく清里優理子を観察していたのだ。
しかしその結果……彼女がリア充であるということに、疑問が生じた。
(まず、彼女は下校時いつも一人だ)
教室では、休み時間になるといつも誰かと話をしている。一人でいる姿は見たことがない。
それなのに、放課後は一人で帰っているのだ。
(しばらく見ていて気付いたが、どうやらあの噂のせいみたいだな)
清里優理子には恋人がいる。
放課後は彼氏のための時間だと、周りのみんなが気を遣っているのだ。
だったらクラスでも気を遣えよと思わなくもないが、同じ空間にいるとどうしても、チャンスがあるのではと淡い期待を抱いてしまうらしい。
男とは難儀な生き物なのだ。さすがの俺も、そこを否定するつもりはない。
(だったらもっとがっつけよと思わなくもないが、そこは高嶺の花ということか)
高嶺の花。完璧過ぎるから、近寄りがたい。
眩しくて、親しくなる前に諦めてしまう。
きっとギリギリのところまでしか進めないのだ。
本当に、難儀な話だ。
(もっと問題なのは、女子の方だな)
これは壮一もチラッと言っていたが、女子連中とは仲良くしているように見えない。
理由は簡単だ。
普段の教室では、男子が囲んでしまうから話すタイミングがない。
放課後はさっきと同じ理由で気を遣われてしまい、遊びに誘われることも無い。
昼の弁当は女子と食べているが、逆に言えばそれくらいしか付き合いが無いのだ。仲良くなるには足りないだろう。
(嫉妬とかもあるだろうけどな)
モテまくりの清里をよく思わない女子もいるかもしれない。もし好意を寄せている男子が、清里に言い寄っていたら、嫉妬するだろう。
明確に目の敵にしている女子はいないようだが、潜在的な敵はいるのではないだろうか。
表に出せば逆に男子に嫌われかねないから、隠している可能性は高い。
(そしてなにより、一番の疑問は……)
放課後、俺はこっそり清里の後をつける。
いつものように一人で校門を出て、その足ですぐ近くの公園へ入っていく。
誰もいない、静かな公園。
清里はベンチを軽く払って、そこに座って溜息をつき。
ぼうっと空を眺めるのだ。
(あれが……リア充? あんなに寂しそうな姿なのに?)」
寂しくて、なにも無い。空虚な瞳。
小さくて頼りなさそうな背中。
(そもそも、清里に彼氏がいるのか?)
とてもじゃないが、これから恋人に会うのを楽しみにしているようには見えない。
(本当は、非リア充なんじゃないか?)
清里のあんな姿を見るのは初めてではない。
放課後だけじゃない。学校でも、滅多にないがちょっとした隙に一人になったりすると、ああいう目をする時がある。
とてもじゃないが、リアルが充実している目ではない。
(見ていられないな)
俺は目を逸らし、歩き出す。
もう十分だ。観察の必要はない。
答えは出た。俺と清里は、全然違う。
俺はリア充で、彼女は非リア充だったのだ。
(だから……放っておけない)
「清里。こんなところでなにしてるんだ?」
「え……?」
接近にまったく気付いていなかったらしく、声をかけるとぽかんとした顔で俺を見る。
「…………えっ!? あ、幸重君?! なんでっ……!」
約五秒間、固まっていたが、状況を把握して慌てて立ち上がる。こっちを向こうとして、
ガンッ!
とベンチに膝をぶつけた。
「あっ……! つっ……!」
「お、おい、大丈夫か?」
「だ、だい、じょうぶ……」
「……とりあえず座れ」
「うん……ごめん」
清里はゆっくりベンチに座り、ぶつけた足をさする。
俺はそのベンチの横に立った。
「ゆ、
「少し前からだ。ぼうっと空を眺めていたな」
「うぅ……変なところ見られちゃったね、あはは……」
ようやく落ち着いてきたのか、顔をあげて照れたように笑う。
いつもクラスで浮かべている笑顔と同じだ。
「清里。別に無理に笑う必要ないぞ」
「え、ええ……?」
「ここ数日、お前のことを観察していてわかった」
「観察? ……って、もしかして幸重君、私のあとを追ってここへ来たわけじゃないよね?」
「もちろん、後を追って来た」
「もちろんって、それ軽くストーカーだよ……?」
「どうしても答えを知りたかったんだ。変な意味は無い」
「うーん……。答えって、いったい何の?」
「決まっている」
さすがに怪訝な表情の清里に、俺ははっきりと言ってやる。
「俺がリア充であり、清里が非リア充であるという答えだ!」
この時俺の頭にはもう、俺と清里の違いはなんなのか、という最初の疑問は無くなっていた。
だから言い直す。
「いや、俺がリア充かどうかはこの際関係ないな。問題なのはお前が非リア充だということだ」
「わ、私が非リア充って……それは」
「とにかく! 俺はわかってしまった! 知ってしまった! だから、一緒に来てくれ!」
「ゆ、幸重君? 待って、よくわからないんだけど? 一緒にって、どこに? なにしに?」
「どこか、遊びにだ! 清里、お前のリアルを充実させてやる!」
「え……えええぇぇ?!」
俺は清里の腕を引っ張って立ち上がらせて、そのまま公園を出るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます