第22話 オトナの事情のお値段は
校長のことばに、僕らは顔を見あわせた。僕は、一歩進みでて言った。
「待ってください。べつの高校って・・・そこにはそこの生徒会があるのではないですか?どうして僕たちが出ていかなければならないのでしょうか」
校長は、僕のほうを見た。
「高梨君・・・と言ったな?」
「はい」
「君らしくないな」
「初対面ですが」
校長は椅子から立ちあがると、後ろ手をくんで窓の外を眺めながらいった。
「君は、どの学校にもウチのような事件解決能力をそなえた生徒会があると思っているのかね?まさか。それに君はべつの高校というが、どこからが自分でどこからが他人なのだろう。たしかに今回は助けてあげるのかもしれない。でも次は、助けてもらうことになるかもしれないよ。人はみな兄弟。博愛の精神でもって・・・」
しかし梓お姉ちゃんが有無をいわさぬするどい声でさえぎった。
「それで、ほんとうの理由は何ですか?」
「ん?・・・んー、まあ、私ももうすぐ定年だからさ、つぎの都の教育長のポストとか狙っててさ。ほかの学校の校長とかに恩を着せておけば有利になるかなーとかさ、そういうオトナの事情は秘密にしときたかったんだけどさあ」
「サイテー・・・」
本音をもらした校長に唯が傷ついたようにぼそっとつぶやいた。しらけかえった雰囲気に、校長はあわてたようにいった。
「い、いいじゃないか、これまで生徒たちに私の知識をさんざん分けあたえてきたんだから、ちょっとくらい見返りをもらっても。―たとえば、あの電線にとまっている鳥・・・どうして感電しないのか、君たちは知っているかい?」
「たしか昔、『子供の科学』で読んだわ」
弥生ちゃんが小声でいった。
「あれはね、鳥は体重が軽いし、かわいいから・・・んー、なんか東電が体重制限とか付けてんじゃなかったっけ?3㎏まで?あれ、5㎏まで?じゃあ鷹が止まったら感電?」
「校内一のアホが学校のトップっていうのは・・・さすがにまずいんじゃないかなあ」
池内君がたまりかねたように低い声でいった。
「ま、まあ、もともとの理由なんてどうだっていいじゃないか。まちがいなくいいことなんだし。知り合いの校長に相談されちゃってさあ、困ってるみたいだし助けてやってよ。報酬はずむからさあ」
「―わかりました。とにかく、話だけでも聞きましょう」
ため息をつきながら梓お姉ちゃんがいった。
「わりと近くに、美術を専門にした都立の高校があることを知ってるかい?」
話を切りだした校長に、
「ええ、聞いたことはあります」
と僕は応じた。
「うん。今回そこの校長からたのまれているのは、まあ絵画展で賞を取ったりもしていて、わりに将来を期待されていた学生なんだ。ところが最近になって、あからさまにやる気がなくなってしまったらしいんだな」
「でもそんなの、よくあることじゃないすか。本人にその気がなければ、どうしようもないわけだし」
クールにいう池内君に、校長はいった。
「そうなんだけど、校長が問題視しているのはそこじゃなくてさ。絵を捨ててから人が変わったように、次から次へとまわりの女子学生に手を出しはじめたんだよ。プレイボーイっていう雰囲気でもなく誠実そうには見えるみたいなんだけど、とにかくとっかえひっかえらしい。そうなると当然親とかからも苦情がちらほら舞いこむようになってきて、学校としては困っちゃってさ・・・双方合意でつきあってるわけだから、退学っていうのもなあ。おまけに、もともとはできる学生なだけにね」
「ふうん・・・」
唯が相づちをうって、校長は続けた。
「そこの校長の気もちももちろん理解できるが、でも、親御さんたちの心情もわかるよな。私にも娘がいるし・・・女子高生のみなさんのまえでこんな話はしたくないが、やっぱり親としてはセックスの問題を心配してしまうんだよ、端的にいえば。じぶんの娘が訳のわからん男に裸にされてさ、Bカップの、まだ青い果実のような発育途上のかたい乳房を揉みしだかれるんだよ。たまらんよな。先っぽの桜色の乳首はもうこりこりにしこっていてさ、男がつまむたびに娘が『あん』なんて吐息をあげるんだな。それから男が下に手をのばして淡い叢のあいだをまさぐると、そこはもうすっかり湿っていて男の指をしとどに濡らすんだ。こうなるともうだめだな、娘の負けだよ。それから男は娘に机の上に手をつかせて、たっぷり実った尻を左右に割りひらいて、その真ん中にひっそりと息づいている菊の蕾をとんとんと叩いてみせながら言うんだ。『おい、こっちの穴は初めてか?』それからおもむろに浣腸器を・・・」
「もうけっこうです」
梓お姉ちゃんが静かな怒りをただよわせながらいった。額に青筋が浮いていた。
「そ、そうか?―まあ、すこし露骨すぎたが、これが正直な親の気もちというものだよ」
「―どこの世界に娘のアブノーマルプレイを想像してよろこぶ父親がいるもんですかっ」
怜奈が吐きすてるようにいって、池内君がつづいた。
「まったくだ。おまけに『おい、こっちの穴は初めてか?』って・・・もうセックスの経験あるじゃねえか」
「そうなんだよ。聞いてくれよ、このあいだ娘をとっちめて吐かせたんだけどさ。けっこうやってるみたいなんだよ。『おい、まえに経験人数聞いたとき、恥ずかしそうに二本指立ててみせたじゃないかっ』って怒鳴りつけたらさ、『ピースサインしただけよ』なんてぬけぬけとぬかしやがる。『男の人数聞かれてピースしてみせる娘がどこにいるっ』って言ったらさ、『だったらパパだって風俗に・・・』」
「もういいと言ったはずよ」
いつも冷静さをうしなわない梓お姉ちゃんの物言いから敬語が消えていて、さすがの校長も気おされたように黙った。
(―っていうか、経験二人ならいいのかよ)
と僕は内心つっこんだ。
「・・・と、ともかく、そういうことなんだ。未来ある若者を救うという意味でも、乙女たちの純潔を守るという意味でも、どうかお願いできないかなあ。そこの校長にはもう連絡してあるから、わからないことがあったら直接連絡してくれていいからさあ」
気を取りなおしたようにいう校長に、梓お姉ちゃんはぬかりなく確認した。
「それで、さきほど報酬をはずむとおっしゃいましたが・・・具体的にはどれほど?」
「ん?んー・・・まあ、どうせ向こうもちだし、今回は取材費を好きなように使っていいよ。それで、―結果にかかわらず、レベル3程度の報酬ということでどうかな?レベル3の事件なんてめったにないわけだし、わるくない話だとおもうけど」
「いいでしょう。おひきうけします」
梓お姉ちゃんはうなずいて、僕らのつぎの事件が幕を開けた。
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