第14話 スーパー美少女に『笑顔の理由』なんてない
重くるしい雰囲気のまま僕らはつれだって生徒会室へむかったけれど、そのうちに僕は、僕らがかなり目だっているというか、すれちがう学生たちがみんなこちらをうかがうようなのに気がついた。最初はなんのことやら分からなかったけれど、
「おい、美形生徒会のおでましだぜ・・・」
というささやきがふと耳にはいって、ああ、そうかと僕は腑におちた。
かんがえてみれば、当然だった。梓お姉ちゃん。怜奈。このじぶんでも自覚のある確信犯的美少女たち。そして、弥生ちゃん、唯。こちらはじぶんでどれだけ分かっているのか知らないが、ともかくもまちがいなく美少女ふたり。そして、細身のしなやかな筋肉を鎧のように身にまとった美青年、池内君。
(―このなかで、僕はどう見られているのかな?)
自信のなさを押しかえすように、僕はひょいと一瞬肩をもちあげた。そして、まあいいか、とりあえず今は愛内さんだと思いなおした。
生徒会室に入ると、
「なによ、みんな。助けてあげようとしただけじゃない・・・」
と怜奈がわめいた。梓お姉ちゃんは、
「それよ」
とビシッと怜奈を指さした。
「な・・・なによ」
「その『てあげる』が悪いのよ。その態度でいるかぎり、問題は絶対に解決しないわ。おまけに、あのタイミングで『生徒会室に行かない?』だなんて・・・。これで愛内さんは、生徒会がなにかしようとしていることに勘づいてしまったかもしれない。やりにくくなったわ」
「・・・だって・・・」
さすがにしょげ返ってしまった怜奈に、でも、梓お姉ちゃんはいった。
「―ただ、どうやらあなたは、私のおもっていたような人間じゃないみたいね」
「え?」
意外そうに顔をあげた怜奈に、お姉ちゃんはことばを継いだ。
「あなたはどうも、心底明るいというか無邪気というか・・・ほんとうに見たままの人間のようね?私は、努力してそうよそおっているのかと思っていた。愛内さんのような人間を、理解しようとしないひとなのかと思っていた。そうじゃない。あなたは、本気で愛内さんを理解できていないのよ。ちがいすぎて」
「そ・・・それ、どういう評価なの?ほめてるの、けなしてるの?」
「あら。私にしちゃ大絶賛のつもりだけど?何にしても、そこまでいけば才能よ。生徒会に必要なときも、きっと出てくるわ。ただ、今回はダメね。愛内さんにあなたをあてるのは、リスクが大きすぎるわ」
「わ・・・分かったわよっ」
僕は内心、さすが、と梓お姉ちゃんの眼力に敬服した。そうなのだ。最初はみんな、怜奈をうたがう。どうせ彼女にも『笑顔の理由』なんかがあって、それが同時に『笑顔にならない理由』にもなるんじゃないかと。彼女がいつも明るくて元気な理由は、いつか、彼女より暗くて元気でない誰かを責める理由にもなるんじゃないかと―。でも、怜奈の笑顔には、裏はない。彼女の表情は気もちそのままで、彼女がよく笑っているのはほんとうに楽しいからだ。だから、彼女の笑顔には、なんとなく安心感がある。もっとも図書館で大声でさわいでみたり、夜中に平気で電話をかけてきたり、そんなこともしょっちゅうなのだけれど。
「さて・・・」
梓お姉ちゃんは、ゆっくりとこちらをふり向いて、いった。
「淳之介、あなたの出番よ。あなたのやさしさで、愛内さんの心の殻をとかしてみせなさい」
僕は、うなずいた。
「あともうひとりくらい、サブでついてほしいわね・・・」
人選に迷っているらしい梓お姉ちゃんに、
「私、やります」
と弥生ちゃんが手をあげた。梓お姉ちゃんはうなずいて、いった。
「今日のことで警戒された可能性がつよいから、今回は生徒会全体ではうごけない。少人数のほうがいいわ。とりあえず、できるところまで二人でやってみて」
「はい!」
と僕らは声をそろえた。
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