第11話 心の闇を見きわめて

 梓お姉ちゃんのいったとおり、唯もふくめて僕らはすんなりと信任投票で当選した。もっとも、対抗馬がいなかったのだから、当りまえといえば当りまえだ。梓お姉ちゃんが生徒会長。僕と怜奈が副会長。池内君と弥生ちゃんと唯が書記。そして僕らは4月のある日の放課後、生徒会室ではじめての会合をもった。

「まず、生徒会のいちばん大事な仕事は、学生さんを救うこと。できれば、目にみえる問題が起こる前にね」

梓お姉ちゃんのことばに、僕らはうなずいた。しかしその時僕らは、梓お姉ちゃんの真意をまったく理解していなかったのだ。

「もうすこし具体的にいえば、学生さんひとりひとりの心の闇を、見きわめ、癒すことね。解決した案件の大きさ、もしくは難易度の高さによって、校長からの報酬も異なってくるわ。もっとも、学生だから現金というわけにはいかないので、現物支給という形になるけれど。もちろんこのこともふくめて、生徒会でおこった一切のことは、他言無用よ」

僕らはそのときはじめて、顔を見あわせた。僕らのおもっていた生徒会活動と、あまりにちがいすぎた。まず池内君が手をあげた。

「会長」

「何?ホスト系筋肉自慢」

「―池内薫です。あの、生徒会って、ふつう全校集会の運営とか会議とか、そういうことをやるものなんじゃないすか?」

「あなた、今までにひとつでも記憶に残っている全校集会なんてある?」

池内君は腕組みして天井をみあげてから、いった。

「―そういえば、ないみたいですね」

「そうでしょう。ないということは、大事じゃないということよ。この私が、そんなつまらないことをやるために、わざわざ出馬するとおもう?私がここにいるということは、生徒会にはもっと重要で、おもしろくて、難易度の高いタスクがあるにきまってるじゃない」

弥生ちゃんが、そっと手をあげた。

「―あのう」

「何?胸だけ和服の似合わなそうなデカ乳娘」

「高樹弥生ですっ。―せめて、巨乳といってください。あの、報酬なんて、もらっていいんですか?学生にあるまじきことだと思うのですが・・・」

「何がいけないのよ?校長、ひいては東京都から出る報酬よ。なにもやましいことなんてありはしないわ。問題が未然にふせげるのだから、お偉方もほくほくしてるわよ。だいたい、私ボランティアなんて大嫌いだもの。この私がこれだけの時間と労力を費やしているのに、無料?なめないでよ」

「でもさ」

とこんどは怜奈が割ってはいった。

「何?原宿大好きノータリン女」

「ゆ・・・優木怜奈よっ。もう何だかいろいろと失礼すぎて・・・。ともかく、『心の闇』なんていうけど、そんなのどうやって見きわめるっていうのよ。こちらが闇だとおもったものだって、向こうにとってはちがうかもしれないでしょう。何がただしくて、何がまちがっているかなんて、誰に判断できるっていうのよ?それに、」

「あー、終わったら起こしてね・・・Zzz・・・」

「ね・・・寝るなっ」

「退屈なのよ、あんたの話。よくそんなわかりきったことをえらそうに人前で話せるわね。ある意味うらやましいわ。私そういう、『みなさん、ご存知ですか?じつは・・・食事って、人間にとってすごく大事なんですよ』みたいな話、どうしてもできないの」

「な、何ですってっ」

僕はそこで、手をあげた。

「―あのさ、梓お姉ちゃん」

「どうぞ、淳之介。何でも聞きなさい。唯もね。そんなにおとなしくしてなくていいのよ」

「えこひいきするなっっっっっ」

池内君と弥生ちゃんと怜奈は同時につっこんだ。

「前からおもってたんだけど、何なの?その高梨兄妹への劇甘ぶりは。とくに、ジュン。あんた、生徒会に勧誘したのだって、たんにジュンを手元においてかわいがりたいってだけなんじゃないの?」

怜奈が猛烈に抗議するのに、梓お姉ちゃんは顔をしかめた。

「うるさいわねえ。いま、淳之介がしゃべってるのよ。―どうぞ、続けて」

「う、うん。その『心の闇』の見きわめ方っていうのは、僕もよくわからないんだけど・・・」

「いい質問ね」

「くっ・・・」

怜奈が歯ぎしりする中、梓お姉ちゃんは平然とあとを続けた。

「もちろん、人間にはムリよ。心の闇を癒すのはわれわれの仕事だけれど、見きわめるのは別のものよ。―具体的にお見せしたほうがよさそうね」

梓お姉ちゃんは席をたって窓をあけると、ピイッとするどく指笛をならした。少しして、灰色の物体がびゅんと窓からものすごいスピードで飛びこんできた。

「うわあっ」

僕らがおどろいてのけぞる中、それはあっという間にさっきまで梓お姉ちゃんのいたとなりの席にちょこんと腰かけていた。シャムだった。

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