友人・坂上は、小宮を応援する
小宮がまた沈黙したそのあとは角野さんとは関係のない話を始め、一時間ほど経った辺りで「トイレに行く」と小宮は席を立った。
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しかしまさか、あの角野さんのことを小宮が……。
というか今更なんだが。
もしかして小宮は、角野さんの話しをしたくて俺を誘ったのだろうか。や、たぶん「お前しか会ってないから」とか言ってたから、きっとそうだな。
しかし前の会社では女性から甘々の対応をされていた小宮が、雑を通り越して人間性否定の扱いとは。また小宮も小宮で――――
「角野に、あんなこと言われた、こんな事された」
怒る訳でもなく、嬉しそうに邪険にされた事を生き生きと俺に喋ってくる。
……お前は一体誰なんだ。
あのとき大量にいた小宮ファンに、この姿を見せてやりたい。
優しい甘々対応より、邪険対応の方が気を惹けると知ったら驚愕もんだろーな。
それにどんどん話が出てくるところを見ると、もう事務所ではお約束の行事とみた。
こうなると角野さんには、もっともっと小宮を痛めつけるSっぷりを見せてほしいし、そうなるよう俺は毎日お祈りをしておこう。
思い起こせば、あの秋の飲み会で角野さんに小宮のネタを話したとき、とにかく人当たりが良くて特に女性全般には優しいと評判でモテていた、とか言ったらこう返されてたな。
「まー確かに顔はとても格好いいですよね。愛想も完璧ですし」
「優しいのは美人にだけ、じゃありませんでした?」
「坂上さんみたいな誠実そうな人が、お友達だとは……」
「離婚前は女性に誠実? そうですか、そんな小宮さんを一度見てみたかったです」
角野さんの柔らかい外見と口調にごまかされて聞き流してしまっていたが、そうだな、あれは小宮に対する毒を吐いていたんだな(笑)
また笑えることに五年も時間があったというのに、結婚への外堀埋められちゃってるような時によりにもよって好きかもと気づくとは……。
というか角野さん、俺と友達になってほしいわー。
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そんなこんなをほくそ笑みながら心の中で思っていたら、シレッと小宮が戻ってきた。
「そういや。好きだ…と気づいたのが忘年会でという事は、もう半月くらいは経ってるな」
小宮がいない間ずっと考えていたせいか、顔を見た瞬間、思わず角野さんの話題を再び出してしまうと
「角野のことか? あーそうだな」
小宮はおかしそうにしたあと、「おっ」てな何かを思い出した顔をした。
「坂上。そういや俺、角野の彼氏に会ったぞ」
「………」
なぜ今頃、言うんだ。もっと早く言えよ。
しかもその話、――――なんか面白そうじゃないか。
「いつ、どこで会ったんだ?」
ワクワクする気持ちを隠しながら真面目に淡々と聞き返すと、小宮は視線を左上にそらしうっとしげに喋りだす。
「忘年会の帰りにな、わざわざお迎えに来てたんだよ。で、角野と駅まで一緒に帰ってそこで会った」
(なるほど、お迎えか)
「へー。まぁとりあえず聞いておくが、彼氏はどんな奴だった?」
どんな? と小宮がつまらなそうに頬杖をつく。
「どっちかと言えば筋肉少なめの細身で、俺より低かったからまぁ背は170程度だろうな。顔は中の上かも。でも目立ちはしない平凡タイプで、性格はいい風に言うと穏やか…て感じだ」
(小宮、言い方にかなり棘があるぞ)
おいおい…となりながらも「ふーん」と相づちを打つと、小宮が俺の顔に視線を合わせてから眉をひそめた。
「それで、角野が好きかも…と気づいたすぐ後だったんで、なんとなく彼氏見た時に思わず『俺も角野を狙ってたのに』と、冗談ぽくだけど言ってしまったんだよな。……はははー」
「はははーって。それ、冗談に聞こえてればいいけどな」
「あーいや、そこはちょっと微妙かも、しれない」
少しだけ目を泳がせた小宮に、一応の忠告をしてみる。
「そうか。ただお前は顔だけ、は本当にいいから、『狙ってた』とかいうセリフは状況によっては結構な破壊力があるから気を付けろ」
「微妙に褒めてくれて、ありがとう」
小宮はワザとらしい真面目な顔で答えたあと椅子に浅く座り直し、でもな、と苦笑いをした。
「角野にはスルーされたけどな」
何かを諦めた感じに苦笑いしている小宮を見て、ちょっと興味を持った位で他人の彼女に手を出すんじゃない! ―――そう強く思っていた最初とは違い
「彼氏から頑張って奪ってみるか?」
小宮を応援する気持ちが、ほんの少しだけ出てきてしまっている。
また思い出せば、たまに飲みに行った時には必ず「ウチの事務員がな――」と楽しそうによく話していた。だからあの時「ほら、話していたろ」と小宮に言われた時、角野さんの事をすぐに思い出せたんだ。
まぁしかし応援しようにも、小宮がしてきた過去の悪行により角野さんにとっての小宮が「嫌いでは無い」程度の男となっているのが、かなり痛いところだが……
そう思いだし始めるとついつい小宮の味方になってしまい、頭の中だけであーだこーだと色々と勝手に考えてしまったが、飲み会の終わりごろには考えること自体に疲れてきて
「なーもう彼氏から気合い入れて奪え。とりあえず応援だけ、はするからさ」
話の流れとは関係がない唐突なタイミングで、思っていたことそのまんまを口に出してしまう。
仕事の話をしている途中で、急に「奪え!」と言われた小宮はとても驚いてはいたが、意見をコロッと変えた俺に今日一番の真剣さで応えてきた。
「いや、まだその時期じゃないと思うぞ。―――角野をよく見るようになって気づいたが、俺に対しては困ったり・怒ったり・嫌な顔したり・呆れたりと、ろくな表情してないんだよ。だから今は奪うのは無理だな」
もうこの時点でだいぶ酔いが回っていた俺は、その発言を聞いたあと
「そんなに真剣に考えてるなら、角野さんが笑顔になるよう努力すればいいだけだろ!」
「もちろんそれは、口説く範囲には入ってないから大丈夫だ。小宮も凄くいい人に見えるだろうし一石二鳥だ。そう起死回生だ、頑張れよ!!」
とてもいい笑顔で全力応援したらしい。
――――ただ、すまない小宮。
酔っていたせいで、そこら辺の記憶が全くないんだ……
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