角野の彼氏
「小宮さん、二次会いきますよね?」
「あ、いや。オッサンは疲れたのでもう帰ります」
水野に結構しつこく誘われた二次会への参加は断り、帰りの挨拶をするため社長の元へと歩いていくと同じタイミングで角野も来ていたので、一緒に帰りの挨拶をしてからいま思いついたかのように声を掛けた。
「角野。もう遅いし一緒に帰ろう」
「え? あーえっと、ありがとうございます。でも、今日は彼氏が迎えに来る予定になってまして。だから駅まで、でよかったら一緒に帰りましょう」
挨拶のあと社長から少し離れた場所で俺の横に立ちスマホを操作していた角野は、そう言ってから「すいません。ちょっと」と、どこかに電話を掛けはじめる。
(そうだ。角野には彼氏がいた―――)
なぜか今まですっかりその存在を忘れていたが、思い出すと同時に角野の彼氏がどんな男なのかをもの凄く知りたくなった。そこで電話の相手はたぶん彼氏だろうと予測し、通話を終えた角野に尋ねてみた。
「彼氏、すぐに来るのか?」
「いえ。近くにいるけど十分程かかるかもって言ってました」
それから駅までの道を楽しく一緒に歩いていたんだが、彼氏が指定してきたであろう場所に着いたようでトンっと立ち止まった角野に笑顔で会釈をされる。
「じゃあ、ここで。小宮さん、今日はお疲れ様でした」
(―――いや待て。どうしても、彼氏を見たい)
「角野。もう21時過ぎてて人通りも少ないから、彼氏が来るまで一緒に待っててやるよ。俺の酔いも冷ませるし」
「そんなのいいですよ、大丈夫ですから」
「遠慮すんなよ」
最後は勘違い男みたいなセリフを吐きつつ、彼氏が来るまで適当な会話を続けた。
「ごめん、お待たせ」
しばらくすると彼氏が現れ、そして一緒に立っていた俺に気づき何かを尋ねる様子で角野の顔を見た。彼氏のその顔を見ておかしそうに笑った角野は簡単にお互いの紹介をし始める。
そこから「あっドーモー」なんて笑顔で彼氏と挨拶をし合いながら、彼氏はこいつかーとその姿を上から下まで眺めた。
「私の彼氏は、そんなに珍しい生きもんじゃないですから」
角野はジロジロ眺めている俺を見て面白そうにしていたが、それを聞いたとたん
(そうか彼氏か……)
急にドンとした重さを胸に感じ、角野と笑い合っている彼氏の方を強い視線で見ながら冗談めかしてつい言ってしまっていた。
「俺も角野を狙ってたのになー」
「小宮さん。思ってもないことを言って、反応を面白がるクセは直した方がいいですよ」
いつものふざけた会話だと思った角野は俺の言葉を軽くかわし「じゃ、帰りますね」と彼氏に合図をして去ろうとしたが、彼氏の方は俺を驚いて見ており、そしてその言葉にちょっと本気を感じたのだろう。
角野のように素直に冗談だと受け止めず、かなり不快げに眉をひそめ
「それじゃあ、失礼します」
俺に向かって緊張感のある冷たい声を出したあと角野の背中に手を添えて押し、仲良く笑顔で歩き始めた。
*********************
あれから自宅に帰りつき、疲れた…とソファーにコロコロ寝転がりながらしばらくボンヤリと考えていた。
あぁそう。
あの最後の「狙ってた」って発言は週明けにでも角野に謝っとかないと。
しかし「好きかも」のかもって、どれくらいのもんなんだ?
そういえば。
俺の友達で、唯一角野に会ったことがあるヤツがいたよな。
その内、飲みにでも誘おうか……
そこら辺でボンヤリした状態からフンッと気合いを入れて起き上がり、とりあえずお風呂に入ってスッキリする事にした。
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