第17話 ブラボー、本気を出す


 どんな屈強なヤツでも後ろからの攻撃は厳しい。

 後ろに目は付いてないからどうしても反応が遅くなりがちだし、防御姿勢も取れない。下手に後頭部にいいものをもらったりしたら、一発で絶体絶命のピンチに陥ることもある。

 そんな背後に、しかもゼロ距離で密着する事が出来れば。

 それはもう相手の生殺与奪権を握ったも同じだ。


 だからブラボーが「しょーがねーなぁ。おらよ」としゃがみこんで背中を見せた時、リゾッタは勝利を確信した。


 そのままいきなり襲って、首もとを刈り落としてやってもよかった。

 が、殺るのはブラボーだけではない。まだオルノアも残っている。

 下手にこちらが敵だとバレて、逃げられでもすれば場所が場所だけに探し出すのに苦労しそうだ。


(やはりここは毒で体の自由を奪っちゃうべきだよねっ!)


 ブラボーの背に体を預け、その首元に頭を寄せながら、リゾッタはオルノアにバレないよう注意して口を小さく開けた。

 口の左右に一本ずつ、他の歯より鋭く伸びている牙がある。小さいながらも、噛めば人間の体を麻痺させる毒を送り込むことが出来る、リゾッタご自慢の暗器のひとつだった。


(いくらこいつでもこの毒にかかれば動きも鈍るはず。そこをモンスターたちに襲わせればいいのよっ。いやーん、やっぱりリゾッタたらて・ん・さ・い♪)


 なんだかめちゃくちゃなヤツだったけど、これで終わりねとリゾッタがブラボーの首もとを噛もうとしたその時。


「よし。しっかりしがみついとけよ。じゃあ、行くぜ!」


 リゾッタをおんぶしたブラボーは立ち上がると、あろうことか走り始めた。


「な、な、なんで走るのじゃー!?」


「何でっておめぇ、こんな仕事早く終わらせてイミアさんのところへ帰りたいに決まってるじゃねーか。ここまでは嬢ちゃんの足を考えてゆっくり来たが、背負っちまえば走れるんだから、最初から背負ったほうが良かったな。おっとそうこうしてるうちに早速モンスターのおでましだ。おらっ、しゃべってると舌を噛むぞ」


 ブラボーがさらにダッシュしてモンスターに近付くと、リゾッタのお尻をささえていた両手を離し、標的目掛けて拳を振るった。


「のあーーーーーーーーーっ!」


 支えを失って危うく振り落とされそうになったリゾッタは、慌ててブラボーの首にしがみつく。

 

「おっと、今度はあっちからか!」


 一撃でモンスターを倒すと、すかさず次の標的を発見したブラボーは急旋回&再度猛ダッシュ。


「うええええええええええええーーーーーーーーーーっ!」


 あまりに急な方向転換に、首を支点にしてリゾッタの体がブラボーの背を離れて一瞬宙に舞った。


「おりゃあああ! 必殺ブラボージャンプキーーーーック!」


 背中にリゾッタを背負っていることなど忘れたかのようにブラボーがジャンプし、モンスターにキックをお見舞い。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


 まるで暴れ馬に振り回されるかのように、ブラボーの背中でリゾッタの体が跳ねた。


 その後もブラボーバスター、ブラボードライバー、ブラボーインフェルノ、ブラボーリベンジャー、ブラボースパークとブラボーが暴れ回る度、地下迷宮にリゾッタの悲鳴が響き渡る。


 おかげで。


「すみません。もう疲れたなんてワガママ言いません。だから降ろして。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたく……」


 地下迷宮を猛烈な勢いで進撃しまくっていたブラボーが一息つこうと動きを止めた時には、リゾッタは両手をブラボーの首に、両足を腹にがっしりとホールドした状態で精神崩壊しつつあった。


 それでもリゾッタは死神としてのプライドを捨ててはいなかった。

 ブラボーが「お、そうか?」と降ろしてくれようとしたその隙を狙い、最後の気力を振り絞って首元へがぶりと牙を突き立てる。


(やった。

 ついにやった。

 とうとうやってやったのじゃ、コンチクショー)

 

「ん? おおっ、これはヤバい!?」


 異変に気付いたのか、ブラボーが素っ頓狂な声をあげた。


(はっはっは、いつもなら遅効性の毒を使うが、今回はこれまでさんざん虚仮こけにしてくれた憎しみを込めて即効性の毒をしこたま送り込んでやったわ。

 さぁ、今すぐモンスターたちをここに呼び集めてやるぞ。

 ピンチに体を動かすこともできず、生きたまま奴らに食われるがよいわっ!)


 げそっとやつれながらも、リゾッタが死神らしくニヤリと笑う。

 すると。


「オルノア! 紙をくれ!」


「「は?」」


 思わぬブラボーの言葉に、リゾッタとオルノアの声がハモった。


「紙だ、紙! なんだかしらんがいきなり猛烈な腹痛が襲ってきやがった!」


「ふ、腹痛じゃとーーーーーー!?」


 そんなバカな。

 わらわの牙は縛れ毒、下剤なんかじゃ決してないとリゾッタが驚き、憤慨する中、ブラボーはオルノアが出した紙を乱暴に掴み取って、ぴゅーと地下迷宮のどこかへ走り去っていく。


 そしてブラボーが去る事数十秒後、リゾッタが呼び寄せたモンスターたちが現れたのであるが……



「んー、思い付きで試してみましたが、なかなかいい感じですね」


 オルノアの魔力が生み出した大量の水で、地下迷宮のどこかへと流されていってしまった。


「ちなみにブラボー様の現状にヒントを得て考案した新作呪法ですよ」


 そんなの知るか!

とリゾッタはツッコミを入れたいところだったが、あまりの事態にもう顎をあんぐりと開けるしかない。


(なんじゃ? 何者なんじゃ、こやつらは?)


 牙の痺れ毒は効かないわ、高レベルモンスターを苦もなく撃退するわ、さっきからおよそ信じられないことばかり起きている。

 と言うか、このままでは自分が戦っても勝てるかどうか……ちょっと自信がなくなってきた。


 もうこのまま天界にばっくれてやろうか。

 いや、それは死神としてのプライドが許さない。

 それにあのエイメンの輝く魂はなんとしてでも手に入れたかった。


(ええい、こうなったら仕方あるまい)


 気は進まないが、こうなったら奥の手を出すしかないとリゾッタは腹を括るのであった。




 ダンジョンに潜って三時間ほど経った。

 目的地のドーケンの町へはあともう少しである。

 本来ならその倍以上、モンスターを討伐しながらとなればニ、三日はかかるところを、この短時間で攻略してきたのだから、いかにブラボーたちが滅茶苦茶なのかが分かるだろう。


(じゃがさすがのお主らでもあやつ相手に無傷とはいかんじゃろう。殺されるもよし。なんとか撃退出来ても、疲れ切ったところをわらわがぶすりと殺ってやるわ)


 相変わらず快進撃を続けるブラボーたちに遅れないよう、必死に付いて行くリゾッタがほくそ笑む。


 街の近くには必ずある、ゲートガーディアンが居座る大洞穴。

そこにリゾッタはとんでもないモンスターを呼び寄せて、いや、腹立たしくもお願いして来てもらっていた。

 これまでのモンスターたちは高レベルなれど、所詮は小型種だった。地下迷宮の第一階層の天井が基本数メートルの高さしかないことを考えれば、仕方のないことだ。


 だがゲートガーディアンが動き回れるほど、天井が高くて広い大洞穴ならば、話は違ってくる。

 ここならば大型種を呼び寄せることも出来よう。

 しかも今からブラボーたちを襲わせるのは、ただの大型種ではない。

 リゾッタ自身と同じ、地下迷宮で言えば第八階層に住まう上級モンスター……その名も


「おいおい、ドラゴンってマジかよ……」


 岩陰から待ち受けているモンスターの姿を見てブラボーが呆然とする。

 人間の数倍、小さな街の教会ぐらいはある巨体。

その巨体を覆いつくす燃えるような赤い鱗は、生半可な攻撃を通さない。

 翼は軽く羽ばたくだけで嵐を巻き起こし、爪は鉄をも紙のように切り裂く。

 さらに鋭利な牙が生えた顎が一際赤く輝いているのは、口内で常に灼熱の炎が生み出されているからだ。息を吐く度にチロチロと吹き出る炎……これが敵意を持って放たれれば脅威以外の何モノでもない。

 人類がその叡智で武器を鍛え、新たな魔法を生み出し、いかに強靭に煉瓦を積み重ねようと、それらをあっさりと撥ね退け、破壊し、蹂躙する最強の暴君。

 それがドラゴンであった。


「あら、本当ですね。あの真っ赤な巨体から察するに、噂に聞く巨赤竜ベテルギウスでしょうか」


「ったく、一体どうなってるんだよ、このエリアは!? ドラゴンが第一階層のゲートガーディアンとか普通ありえねーだろ?」


「地殻変動でも起きてるんですかねぇ?」


 ただ、そのドラゴンをもってしてもブラボーとオルノアの会話は普段とあまり変わらず、特別焦りなどは見られない。


(おいおい、どうなっとるんじゃ、こやつらは? ドラゴンじゃぞ? 人間なら普通もっと驚いて腰を抜かしたり、恐怖のあまり震えて絶望したりするもんじゃろ)


 それなのにせいぜいブラボーが「あれ、なんでこんなところにドラゴンなんているんだよ?」程度に呆然としただけとは、借りを作ってまでベテルギウスを呼んだリゾッタとしては甚だ面白くない。


 しかも、だ。


「おい、オルノア。ちょっとドラゴンにこれは一体どういうことか聞いて来い」


「えー? 私、こう見えて結構人見知りするタイプなんですけど」


「ヤツは人間じゃなくてドラゴンだから大丈夫だ。ほれ、とっとと行け」


 あろうことか、ブラボーはそう言って岩陰からオルノアを押し出してしまった。


(アホかーっ! ベテルギウスは若年なれど、あのプライドの高い竜族じゃぞ。人間の質問なんぞに答えてくれるものかっ!)


 非常識なブラボーたちの言動にリゾッタは呆れた。

 さらにすぐまた岩陰に隠ればいいものを、オルノアは「もう仕方ないですねぇ」とドラゴンに向かって歩いていく。

 何故かハラハラし始めるリゾッタであった。


「………………」


「……」


 オルノアとドラゴンの会話が始まる。

 何を話しているのか、距離が離れているブラボーたちには聞こえない。


「なんの! ブラボーイヤーは地獄耳!」


 ブラボーがさらに岩陰から頭を乗り出して耳を向ける。


 すると、ほどなくしてオルノアが突如ドラゴンに背を向けて、こっちにむかって走ってきた。

 ドラゴンは追わない。

 が、その凶暴な口を大きく開けると


 ごおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!!

 

 いきなりオルノア目掛けて炎を吐き出した。

 まるで火山から吹き出たマグマの如く、一直線に炎がオルノアに襲い掛かる。


「よっと」


 まさに炎がその背中に届こうかと言うところで間一髪、オルノアはブラボーたちのいる岩陰へと逃げ込んだ。

 岩の隣りを炎が激流の如く通り過ぎていく。


(ほれ見たことか。ベテルギウスのヤツが人間の話に聞く耳など持つはずなかろう。バカなのか、こやつらは……って、なっ、なにーっ!?)


 予想通りの結果に思わず悪態をつくリゾッタだが、次の瞬間、予想外な出来事が起きていて驚いた。

 岩陰から頭を覗かせていたブラボーが、炎が通り過ぎていく間もその姿勢のままでいたのだ。

 そう、つまりは今、ブラボーの頭はモロにドラゴンの炎に焼かれていた。


(バカなのか、じゃなかった。本当のバカじゃ、こやつは……)


 おそらくは会話を聞き取ろうとして耳に意識を集中するあまり、ドラゴンのファイアーブレスに気付かなかったのであろう。

 いくら無茶苦茶な強さを誇るブラボーでも、さすがにこれはひとたまりもない。即死だ。


(意外な最期じゃったが、まぁなにはともあれこれで……って、な、な、なんじゃとー!?)


 千年を超える年月を生きてきたリゾッタである。

 様々な経験をしてきたから、ちょっとやそっとのことでは驚かない。

 なのに今日は何度驚かされてきたことであろう。

 だが、その中でも今見ている光景は一番の驚き……と言うか、とても信じられないものであった。


「おい、オルノア。正直に答えろ」


「はい、ブラボー様」


「俺の髪の毛、どうなってる!?」


「ぷっ……ぷぷぷ、と、とても……似合ってますよ?」


「笑いながら言うなーっ!」


 ドラゴンブレスの直撃で死んだはずのブラボーが、髪の毛が燃えてちりちりのアフロヘアーになったものの、それ以外は何らダメージもなく元気に振り返り、オルノアとやりあいはじめた。


(な、なんじゃ? なんなんじゃ、こやつは? 今ので死なないなんてありえん。ありえんぞ……)


 無茶苦茶だ、滅茶苦茶だと思っていたが、まさかここまでとはリゾッタも思ってもいなかった。

 まるで悪い夢でも見ているようだ。


「くそっ! 怒った! もう怒ったぞ、俺はっ!」


 そのような中、ブレスが収まるやいなや、ブラボーが激怒して岩陰から飛び出て行く。


「おい、そこのクソドラゴン! 貴様、よくも俺様の髪形をこんなファンキーなのにしてくれやがったなっ!」


 ドラゴンに向かって走りながら、ブラボーは拳を握り締めて怒鳴る。


「俺の魂がフィーバーしちまったぞ! その責任、取ってもらおうじゃねーかっ!」


 ブラボーがさらに加速し、ドラゴンの懐へと飛び込んだ。


 ブンッ!


 しかし、ドラゴンとて簡単に自分の領域への侵入を許さない。

 ブラボーが猛スピードで飛び込んでくるにもかかわらず、正確にその標的目掛けて右腕の爪を振るう。

 

 ドガガガガガガッ!


 鈍い音がした。

 爪で首を薙ぎ落とした音ではない。アレはただ「ドサっ」と首が落ち、続いて胴体が倒れる音しかしない。

 ではブラボーを吹き飛ばした音か。

 それも違う。

 なぜならブラボーはドラゴンの前に立っている。

 ドラゴンの前で左腕を掲げ、爪ではなく、そのつけ根の、自分の数倍もある太いドラゴンの右手を受け止めている。


 音の正体はその受け止めた時の衝撃音だった。


 ドラゴンの攻撃を受け止める人間なんてそうはいない。

 普通は躱すだけだ。

 ベテルギウスは驚きを覚え、それ以上に苛立ちの感情が己の中に沸きあがるのを感じた。

 とは言え、冷静にこの目の前の人間を如何に仕留めるか瞬時に考えを巡らす。

 答えが出るのに一秒も掛からなかった。

 今度は左腕の爪で襲い掛かる。

 

 ドガガガガッ!


 再びブラボーが受け止めた。

 ただし、今度はそれもベテルギウスの計算のうちだった。

 相手の人間は、ドラゴンが振るう腕も受け止めれるほどの力自慢らしい。

 が、それもどこまで持つ? 瞬間的に力を込めて受け止めることはできても、このままドラゴンの力で左右両方からジリジリと圧迫されたらどうなる? 


 左右からドラゴンの腕に挟まれる形になったブラボー。

 このまま力を込められては、そのうちぺしゃんこに押し潰されてしまうだろう。


 それこそがベテルギウスの狙いだった。


「ふんがーっ!」


 ところがブラボーはそのベテルギウスの考えをあっさりと打ち破る。

 なんと気合を入れると、受け止めていたドラゴンの両腕を弾き飛ばしてしまったのだ。

 

 両腕を弾き飛ばされたベテルギウス。

 長い首の先にある頭は無防備ながらも、まだブラボーの頭上高くある。


「おりゃああああ!!」


 と、ブラボーが左に突如ジャンプした。

 仕切りなおし、ではない。

 ブラボーが飛んだ先にあるのは、先ほど吹き飛ばされたドラゴンの右腕。


「どりゃああああああああ!!」


 そしてブラボーは右腕の上を駆け登りはじめた。

 慌てたベテルギウスはブラボーを落とそうと右腕を振るうも


「ふんっ!」


 すかさず今度は左手の腕に飛び移り、さらに上へ駆け登る。

 それを何度か繰り返していくうちに、とうとうベテルギウスの頭が目の先になった。


「死にやがれ、この大トカゲ野郎!」


 ブラボーがベテルギウスの顎目掛けてジャンプする。

 拳は、振りかぶらない。

 蹴りつける、わけでもない。

 ただ、己の体を弾丸にして飛ぶ。


「行くぜ! ブラボー様新奥義・ボンバーヘッド!!」


 ブラボーのアフロと化した頭がベテルギウスの顎下を直撃した。




「なんじゃとーーーーーーーーー!」


 その光景をリゾッタは見た。

 ドラゴンの顎を、下から人間が頭で突き上げる。

 とても正気の沙汰とは思えない。

 だが、どんな高レベルモンスターもいとも容易く一撃で屠り、死神の痺れ毒も効かず、ドラゴンブレスを顔面に喰らってもアフロになるだけで済ましてしまうブラボーである。

 頭突きでもドラゴンに多少のダメージを食らわしてしまうのでは、と心配した。が。


「頭突きでベテルギウスをぐらつかせおった!」


 顎下に抉りこむような頭突きを喰らったベテルギウスは、一瞬意識が飛んだ。

 すぐに意識は戻り、倒れると言う無様は晒さなかったが、圧倒的な信頼を寄せる己の肉体が造反し、自分の意思に反してゆらゆらと揺れていることに驚きを禁じえなかった。

 どうしてこうなったか。

 答えの見当はつくが、とても信じることなど出来そうにない。

 まさかこの世界で頂点に近い立場にある自分が。

 有象無象の輩に過ぎない人間ひとりに力負けしたどころか、頭突きなどという単純な肉体攻撃でかくもダメージを食らうなんて。


「ちっ! 仕留め損なうとは俺様らしくもねぇ!」


 しかもその人間の言動からはまだまだ余裕が見られる。

 まったくもって、信じることなど出来そうになかった。


「なんなんだ、こいつは! おい、リゾッタ! 答えろ、こいつは一体何者なんだ!?」


 混乱の極みに陥ったベテルギウスが岩陰に隠れているリゾッタに向かって吠える。


(あのバカドラゴン! ここで名を呼んだら、わらわとの関係がバレるじゃろうが!)


 リゾッタが顔を顰める。

 上手く誤魔化せないかと頭を巡らせたが、無理だった。


「わらわも知らぬわっ、こんな生き物!」


 だからもうぶっちゃけることにした。

 何か言いたそうに見つめてくるオルノアをあえて無視し、その場で本来の死神の姿へ変身。岩陰からベテルギウスの元へと背中から生えた黒い翼を羽ばたかせて飛び立った。


「あ、なんだ、嬢ちゃん、またえらく派手な姿になって」


 ベテルギウスのそばに降り立ったリゾッタの姿に、ブラボーが素っ頓狂な声をあげる。

 フリフリなドレスがローブに変わったものの、柄は派手なパッションピンクの星模様。背中には黒い翼。頭には日本の角がにょっきと突き出していて、口元にも二本の牙がちらりと顔を覗かせている。

 そして肩に担ぐはリゾッタの背丈と同じくらいの、死神のトレードマークでもある大鎌。


「なんか雰囲気変わったな? でも、ここは危ねぇから岩陰に隠れてな。なーに、こんなドラゴンの一匹や二匹、この俺様があっという間に」


「わらわの姿を見てまだ分からんのか、おのれはっ!?」


 どうやらこの期に及んでもまだ味方だと思っているらしいブラボーに、リゾッタは心底呆れた。

 どうして?

 どうしてこんなバカに、ここまで愚弄されねばならんのだ?


「ブラボー様。リゾッタちゃん、どうやら死神だったみたいです」


 そこへオルノアがブラボーに声をかける。


「はぁ? そんなわけねーだろ? だって嬢ちゃんはおとうさんが連れてけって言ってきた子だぞ」


「さぁ、そのあたりは私にもよく分かりませんが、でもあの姿、間違いありません。死神です」


「マジでか!?」


 ブラボーが目を見開き、バカみたい(もとからバカだが)に口を半開きにして驚く。


「おい、嬢ちゃん。今、オルノアが言ったのは本当なのか?」


 それでも信じられないのだろう。わざわざリゾッタに確認までする。


「本当じゃ! この姿が死神じゃなかったら何だと言うんじゃ?」


 リゾッタは言ってて悲しくなってきた。


「なんてこったい」


 そのリゾッタの目の前で、ブラボーが右手で自分の頭をわしわしと掻く。

 いつもと違い、アフロは妙な弾力があった。

 そして。


「死神なら死神だと最初から言ってくれたらよかったのによ。そしたらこんな窮屈な格好しなくても良かったんだ」


 ブラボーが「おい、オルノア!」と呼びかける。

 すかさずオルノアがブラボーに駆け寄ってきた。


 と、その時だった。

 リゾッタはブラボーの魂が輝き出すのを見た。

 なんだと訝しんでいると、その輝きはますます増していく。


「なんじゃ!? ホントに一体なんなんじゃ、おぬしは!? こんな輝きを放つ者など、わらわは見たことが……ま、まさか!?」


 ついにリゾッタは目が開けていられなくなった。

 が、それゆえにブラボーの正体にようやく辿り着けた。


 目を開くことが出来ないまま、リゾッタはブラボーの声を聞く。


「お前ら、選べ。全てを差し出すか、それとも……」




 次回予告。

 

 よう! 俺、ブラボー!

 ついに俺様の真の姿が明らかにされちまったな!

 え、魂の輝きが邪魔で見えない?

 そんなオマエラに朗報! なんと書籍版ではこの謎の光が取り除かれ、俺様のウホッな姿がセキララになっちまうんだ。

 これはもう書籍化させるしかねえよな、これを読んでいるアニキたちよ!?


 次回『ブラボー! オー、ブラボー!!』第十八話『ブラボー、お義父さんを苛立たせる』


 星をくれ(直球


 


 



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