七 滅亡
「さて、どうせだからこちらの図をつかった説明を続けよう。こういった図で示したとき、一体≪
水色の彼女はそう先を続けた。クリーム色の
「こうなる」
3つの時間軸の向こう側に灰色の果てしない壁が出現した。
「「「……!?」」」
もちろん、三人からは彼女と猫の少年が見えなくなる。
「≪
不思議とその声は、そこに壁のようなものがあることを感じさせない明瞭なものだった。
「……だが、今私たちがいるこの部分だけは、この灰色に存在しない」
「え……?」
その発言に、3人は一様に首を傾げた。
「先ほど言った≪
(……やっぱ、そうなのか)
時間軸が収束している場所に薄紫色の、少し大きめの丸い光がともる。
水色の彼女は、あの、扇で指し示す動作を壁の向こう側でやっているのかもしれない。
「実に不可解ながら、無限に存在すると推定されている時間軸全てでこの事象が起こり」
(無限に存在するものの全てって定義は不可能じゃね……?)
離別の少年はさらに首をひねる。
「他の時間軸を薄く表示するとこうなる」
(なんだって……!?)
「え……?」
「そんなこと、ありえるんですか!?」
少女二人も訝しむ声を上げる。
何故なら──薄紫の光より右には、一直線な時間軸一本が右側に果てしなく続くのみだったのだ。三本の線以外は薄く表示されているとはいえ表示状態にあるのだが、その薄い線すらまったく存在していない。しかもグネグネしていないのだ。それはありありと、それひとつしか道がない、ということを示している。
そのただひとつだけ延びた直線に、三人の少年少女はなにか空寒いものを感じた。
無限に存在していた……言い換えれば、可能性が無限にあった≪
そして驚くべきことに、その薄紫の光のしばらく右側で、
水色の彼女も離別の少年も、≪
それゆえ少女二人も嫌な予感しか持てない。
「……≪
少し、間が空いた。
「……今私たちのいるここからだけ向こう側が見える、ってことですか?」
「そういうことだ」
共存の少女の問いに水色の彼女は即答した。
「ここはどこにあるのですか……?」
おそるおそるといった様子で神代の少女が問うと、灰色の壁が断続した点を中心とする、真っ黒で少し大きめな球体が、時間軸の向こう側にできた。
「こう、なるのだと思う」
「……だと思う、なんですか」
「そう、私自身どうなっているのか完全に把握できていない」
離別の少年が言うと、水色の彼女は即答した。
「ただ、実際にやったことは、滅亡する瞬間の≪
「はず?」
離別の少年はしきりに首をひねっている。
「そう、はず。なのに、お前たちはここに、迷い込んだ」
「「「迷い込んだ?」」」
三人とも怪訝な顔をした。
「そして、三人とも、≪もうひとつの自分自身≫に飲み込まれかけていた」
「「「!!」」」
「……あれに呑まれれば、時間軸上で衝動の赴くままに何かを成していたと思われる。ただし、三人ともそれを飲み込むことを選んだので、私はそれを手伝った」
皆、沈黙する。
「なので、今度はお前たちが私たちを手伝ってくれないだろうか」
皆は、更にしばらく沈黙する……。
「それは、どんなことでしょうか?」
「……現状、この世界はとてもいびつな状態だ。放っておけばおそらくこうなる」
「「「!?」」」
三人は息を呑んだ。
薄紫色の光と、それから向こう側の時間軸以外が全て消滅した。
つまり、≪
「≪
目を閉じ、あちら側の時間軸を扇で指しながら水色の彼女は言った。
見れば、少しずつ少しずつ、薄紫色の光が右に移動していっているのが分かった。
それより左側の時間軸は存在しなくなっていく……。
水色の彼女が、『死んだのは世界だ』と言っていたことをそれぞれ思い出していた。そして少年は更に、神代の少女が、『死とは消滅ではないのですか?』と聞いていたこともぼんやりと思い出す。
じわじわと消えていく世界は……少しずつ死に向かっているように見えた。
「もちろんこの尺度であれを表現すれば本来ほぼ止まっているようにしか見えないことになるのは許してくれ。分かりやすさを重視というやつだ、蛇足だがね」
水色の彼女は、目を伏せて静かに言った。
「私はこうなると寂しいから、どうにかしたいのだ」
「……果たして、どうにかする必要がありますか?」
離別の少年のその問いかけに、猫の少年以外が全員息を呑んだ。
猫の少年はただ今まで通りに、穏やかな顔で三人の方を見ている。
共存の少女が恐る恐る少年の方を見遣ると、意外に彼は、真剣に考え込んでいる様子だった。少年の放った科白が、決して薄情とか冷酷とか、あるいは厭世的なものから来ているのではないと理解する。
「まあそれ以前に……あちら側の世界って、どんなものですか? それが分からないと、何も言えないです」
少年のその問いに、全員が強張った力を抜いた。
離別の少年の方を息をのんで見ていた少女二人の視線が、水色の彼女に戻った。
離別の少年がさらに問いかける。
「それに、最初からこの≪
離別の少年がそこまで言った時、突然彼の上空のどこからともなく大量の水が勢いよく降ってきた。
それはもう、ダーーーーーー! なんて音がしてもおかしくなさそうなほどの勢いだった。
しかし何故かその水は、地面で跳ね返ることはなくそこで消滅していったので、意外にそこまで盛大な音はしなかった。
一瞬の水だったがその勢いのせいで離別の少年は立っていられなくなったようで、倒れこんでいる。
……というか気を失ってまでいそうだった。
「おっと……」
水色の彼女がしまった、といった様子で、扇で自分の額のあたりをつんと叩いた。
猫の少年が喜々として離別の少年に近づき、先刻のように頬をつんつんし始める。
少女二人が心配そうに少年に近づいた。
「ど、どうしよ」
「うーん……」
「……まあ、起きるまで待つしかないな」
水色の彼女がため息をついた。
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