アイドルは画面の向こうできらめいてⅧ
文化祭の準備が少しずつ始まっていく。うちのクラスは展示に決まって、モザイクアートを作ることになった。材料は牛乳パックやチラシといったものをリサイクルして使う予定だ。
今はもらってきたパックを洗って乾かしている。これを細かく切って貼りつけて絵にするのだ。
廊下の向かいから玲様が歩いてくる。文化祭の準備かな? 玲様ってクラスではお嬢様扱いされてるけど、手伝いとかちゃんとやってるのかな?
「あら、直も文化祭の準備?」
「そうだよ。玲様も?」
「えぇ。うちのクラスは演劇よ」
「演目は何やるの?」
「リア王、よ」
何か名前は聞いたことある気がするけどなんだっけ?
「シェイクスピアの四大悲劇の一つよ。そのくらい知っておきなさい」
「シェイクスピアなんてロミオとジュリエットしか知らないよ」
「まぁ、いいわ。図書室でちょっと戯曲集を見て来たのよ」
「戯曲って台本みたいなやつだよね」
それはさすがに知ってるよ。得意そうな僕の顔に玲様は当たり前、という顔で僕を見つめている。うーん、ちょっと困る。有名な作家とはいえシェイクスピアなんて名前しか聞いたことないよ。
リア王は引退した王様が娘に財産を分け与えるんだけど、悪い娘二人に騙されて優しい末の娘には財産を与えない。そして悪い娘二人は王様が邪魔になって邪険に扱うようになる。
発狂した王様は乞食みたいに外で暮らすんだけど、ついに対立する二人の娘と戦争になる、っていう話らしい。玲様の役回りは王様のことを一番思っていたのに姉二人のせいで財産を分けてもらえなかった末の娘、コーディリア役みたい。
正直あんまりイメージが湧かないなぁ。玲様なら意地悪な姉二人くらいうまく説き伏せてしまいそうだもの。むしろ玲様の方が二人を出し抜いてしまいそうだ。
「直、今失礼なこと考えてるわね?」
「そ、そんなことないよ。玲様の演劇見に行けるようにしておくね」
「まぁ私の雄姿を目に焼きつけるといいわ」
あ、ちょっと機嫌が治った。遥華姉もこのくらい早く復活してくれると助かるんだけどなぁ。それにしても玲様の演劇ってちょっと楽しみかも。
「ただいまー」
教室に戻ってくると、僕に一瞬の注目が集まる。すぐにクラスのみんなは視線を戻して作業に戻った。
別に嫌われてるわけじゃない。昨日玲様が二本目の動画をネットに上げたばかりだから。別に宣伝したわけじゃないけど、うちの高校の制服でダンスしてたらすぐに話題になるよね。僕だってこともわかってるけど、みんな何も言わないでいてくれる。
「これだけ注目されたら意味ないけどね」
それでもクラスの展示がモザイクアートになっただけ救われてる方だ。みんなでダンスしてその映像を展示、っていう僕を狙い撃ちしたみたいな案も出てたんだから。
なんだか佐原先輩の言っていたことが実現しそうでちょっと怖い。さすがにヒロイン選挙なんだから僕に票が入っても無効票になってくれると信じてるけどさ。
モザイクアートの下書きは美術部の女の子が描いている。翼を広げた鳥の絵になりそうな感じで、未来とか将来とかがテーマになっている。
「とりあえずパックは干して、今日はこれでオッケーかな」
まだまだアート製作は始まったばかりだし、他のクラスメイトは部活の方で出す模擬店なんかもある。僕は結構暇な方に入るけど、バイトだってあるし、玲様から三曲目のダンスを覚えるように言われている。次は雰囲気を変えてゆったりとした曲だから激しくなくていいんだけど。
今日も帰りに佐原先輩のところのスタジオを借りようかな。
「なーおーくん」
「うわっ、湊さん」
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん」
だって湊さんがそんな声で僕の後ろから出てくるときは決まって変なお願いをしてくるときなのだ。
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