傑作はいつも頭の中にⅥ

「どういうのにするの?」


「うーん。どうせなら玲が恥ずかしがりそうなのがいいよね」


 画面の向こうのキャラクターは現実じゃ絶対に着られないような露出の多い服を着ている。そりゃアニメやゲームでは描かれなければ絶対に見えないわけで。でも現実にそのまま真似しようとするといろいろ危ないのだ。


 僕が着る予定になっているものもミニスカートだけど、こっちはちゃんと考慮されていてスパッツを履いている設定になっているらしい。


「玲がね、この間の海で水着を着てくれなかったのを根に持ってるみたいなんだよね。とびきり露出が多いやつ、って注文つけてたから」


「なんでそんなことにこだわるかなぁ」


 僕の水着姿なんて見たところで何もいいことないと思うんだけど。ついでにいえば男物の方が露出という意味では大きいわけで。ますますそのこだわりがわからない。


「そりゃ恥ずかしがる直くんが見たいからだよ。最近は全然そんな素振りも見せないし」


「何度もやられてたら、僕だって耐性つけなきゃやってらんないよ」


 確かに最近はいろいろなものが擦り切れてしまっている感じはあるけど、根本的な恥ずかしさはあんまり変わっていないと思う。ただちょっぴりだけど普段の自分とは違う存在になれるっていう不思議な感覚に身を任せているだけだ。


「でも玲様って恥ずかしがるかな?」


 しかえしじゃないけど、どうせなら僕の気持ちも少しくらい体験してほしい。でも玲様なら堂々と着こなしてしまいそうな気もするからあんまり期待できないかな。


「こういうすごいやつとか着せたらいいんじゃない?」


 湊さんが画面の中の一人を指差した。かなり面積の小さなビキニに剣と盾を持っている。一応鎧らしいけど、これで戦うなんて絶対おかしい。竹刀だってあんな面倒で重い面や胴をつけていても泣きたくなるくらい痛いのだ。遥華姉くらい強かったら鎧なんてただの飾りみたいなものなのかもしれないけど。


「でももし玲様がこれなんて着たら」


 ゆったりした服と僕よりも小さな背丈で忘れがちだけど、玲様のスタイルは遥華姉や湊さんが太刀打ちできないくらいだ。海に行ったときだって女装したときの僕なんか目じゃないくらいに目立っていた。


 そんな玲様がこんな格好をして人の多いところに出ていったら、と思うと恐ろしくてしかたがない。実際は干将さんと莫耶さんが守ってくれるとは思うけど、とにかく自分から危険に飛び込ませるわけにはいかない。


 湊さんもどうやら同じ考えに至ったみたいで、渋そうな顔で額にしわを作っている。僕と違って敗北感が滲んているのはやっぱり女の子だからなんだろう。何も言わないでおくのが正解みたいだ。


「やっぱ露出は控えめの方向で」


「そうだね。こういうのがいいんじゃないかな?」


 なんとなく話題を逸らすように目に留まった一つをまた指差す。やっぱり見慣れているからか僕が選んだのは遥華姉が好きそうな真っ黒なゴスロリだった。キャラクターの髪は金髪だけどツインテールが玲様の髪型にちょっと似ているし、ちょっと釣り上がった目元も似ているかもしれない。


「小物が多いから服だけだとわからないかなぁ」


「そっか難しいね」


「いや、このくらいは作るよ。玲だってちゃんと作ったら着ないといけないと思ってくれるだろうし」


 玲様はああ見えて結構律義だからそういうプレッシャーは有効かも。僕に着せたかったって言いだしそうな人がいるけど。


「湊さんはどれにするの?」


「え、私はいいよ」


 当然やるつもりだと思ってたのに、湊さんは本当に考えてなかったようで口を開けたまま固まっている。みんな普段は着せる方だから自分が着るってことを全然考えていない。僕より絶対に可愛いんだからもっと自信をもっていろいろ着替えてくれればいいのに。そうすれば僕の負担だってきっと減る、と信じている。


「やっぱり準備するの大変?」


「できなくはないけど、直くんと玲で十分目立つんじゃない?」


「せっかくのイベントなんだし遥華姉も合わせて四人でやろうよ。その方が楽しそうだし」


「それって直くんに私たちが巻き込まれてるだけじゃない」


 そんなの僕にとっては日常茶飯事だから文句を言われたってどうってことはない。むしろいつも湊さんがやってることなんだから、たまにはやられる側になってみればいいのだ。


「ほら、キャラ選ばないと作りはじめられないよ」


「何で直くんの方がそんなに乗り気なの?」


 呼んだのは失敗だったなぁ、と湊さんがこぼしているけど、僕は聞かないふりをして画面を見ている。いったいどんな格好をしてくれるだろう。ううん、今なら僕が選ぶことができるのだ。


 確かにこうしていると、いつものみんなの気持ちがわかってくる。誰かを着飾るっていうのは案外楽しいのかもしれない。問題は僕には全然センスがなくて着せるのに躊躇しちゃうってことなんだけど。


 今回は湊さんがうまくやってくれるだろうからそこは気にせず好き放題に決めさせてもらおう。うん、どんどん楽しくなってきた。あのコスプレもみんなが一緒なら楽しそうに思えてくるんだから不思議だ。


「あ、これなんて湊さんに似合いそう」


「あー、もう。会場で一番目立つように作ってやるんだから!」


 何かが吹っ切れたらしい湊さんが急に叫びだす。完全にいつもと逆の立場だ。同じように玲様と遥華姉もうまく乗ってくれるといいんだけど。


 乗ってきた湊さんと一緒に画面をスクロールしながら、僕たちは秘密裏に進む計画に顔がにやけて止まらなかった。

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