メイド服はロングスカートと編み上げブーツが大正義Ⅹ
「で、なんでこんなことになってるのよ」
「玲様が話をややこしくしたからでしょ?」
玲様の部屋とはいえ、子ども一人にあてられた部屋に四人で入ると部屋はいっぱいと言っていいくらいだった。その畳の部屋で何故か僕と玲様と湊さんは正座をして遥華姉の前に座らされている。
僕は正座なんて慣れっこで全然罰にはならないし、剣道をやっていたと話していた湊さんもお手伝いしているのもあってか大丈夫そうだ。対して玲様は早くも
「それで、なんで大地主の中条の娘さんとナオが付き合ってるの?」
「いや、実は付き合ってるんじゃないんだけどさ」
「あとなんで女の子の格好してるの?」
「いつもさせてる人がそれ聞くの?」
まったく自覚がないなら、困ったものだ。それに今日の玲様のコーディネートも色も落ち着きがあるし、無駄に重たくないし、過度なヒラヒラもないし。今度は派手なのを選ぶって言っていたのに、気を遣ってくれているデザインだ。また玲様の服から選ばれたのかっていうのはさすがに聞けないけど。
ゴスロリだとか、ピンクやオレンジや赤みたいな暖色系を好んで着せる遥華姉よりは目立たなくていいと思ってしまう。そもそも女の子の服を着たくはないんだけどさ。
「とりあえず直はここでは女の子なの。それから私の彼女。いい?」
「話を聞いて納得できたらね」
「はい」
遥華姉の威圧に玲様が小さな体をさらに小さくして答える。ただでさえこの中で一番大きな遥華姉なのに、こちらは正座しているんだから余計に大きくて怖く見えてくる。
「じゃあ玲様、お願い」
「嫌よ。直がやってよ」
「えぇ、なんで僕が」
今日の昼にも湊さんに説明させられて大変だったのに。どこまで話していいかよくわからないから困ってしまうのだ。だいたい自分が女装している理由を説明していると、なんだか言い訳を並べてるみたいで嫌なのだ。
「最初から話すと、この間遥華姉と出かけたときなんだけど」
一から話し始めるとそれなりに長くなる。隣に正座した玲様が小刻みに震えているのを見ながら、中身をはしょりながら話す。
「なんでナオにしたの?」
僕の話を聞きながら遥華姉が文句をつける。玲様を見下ろしているけど、玲様は即座に目を逸らす。
「遥華姉があんなの着せるからじゃない」
「なんでよ。ナオにはあれが一番似合うんだから」
「論点ズレちゃってるよ」
みんな揃って話があちらこちらに飛んでいくんだから。この中にいると女装している僕が実は一番まともなんじゃないかと思えてしまうから困る。
「はぁ、わかったよ。ナオは頼まれると断れないんだから」
「僕は絶対女装してるのバラされたくないし」
「でも、やっぱりいらない、って言われてもこの娘に協力するんでしょ?」
遥華姉にはお見通しみたいだ。たぶん僕はそういうだろう。玲様が夢に向かって努力しているところは尊敬しているし、憧れている。きっとこの気持ちは昔遥華姉に向けていたものと同じなのだ。
強くなりたくても少しも強くなれなかった僕の隣で、竹刀一本で誰とも渡り合う遥華姉は僕の憧れだった。同じように何をしたいのかよくわかっていない今の僕に、すべてを投げうってでも自分の夢をつかもうとする玲様に僕はまぶしいほどに憧れている。
話の消化が終わったみたいで遥華姉はぺたんとその場に座り込む。今まで忘れていた怒鳴ったり大泣きしたり説教していたりしたことが一気に頭の中を駆け巡ったみたいで、頭を抱えてその場にうずくまった。
「あ、そのね。ちょっと言い過ぎたかも」
顔を少しだけ上げて、伏し目がちにこちらを覗き込む。
「そうよ。この私に正座させて説教なんて!」
形勢逆転と見た玲様が立ち上がる。
「って、痛っい!」
だけどすぐにその場に転げまわる。玲様は完全に足が痺れていたみたいで、両足を押さえながら身悶えている。ひらひらと揺れるスカートが目に毒だから本当にやめてほしい。
「はいはい。話こじれるからそのまま転がってて」
湊さんがここぞとばかりに玲様の足を叩く。
「あぁ! 湊、後で覚えてなさいよ!」
口だけは元気だけど、畳の上を転がりながら痛みに耐える姿は
「でもなんで彼女なの?」
「そ、それはそのくらいしないとあの人が驚かないから」
「友達三人連れてきただけで言葉を失ってたよ?」
「うるさい! 直は黙ってなさい」
僕が一番の被害者で当事者のはずなのに。玲様に黙れと言われたら素直に黙らないといけない自分が悲しい。
「でも今の状況だとただの女友達グループって感じだよね」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「だって私も直くんに着物着せたいしー」
玲様は足の痺れに対する怒りを周りにぶつけたいらしく、隙あらば噛みついている。できれば湊さんだけに食いついていてくれるとありがたいんだけど。
「僕はどんな服でも女装はしたくないんだってば」
「なんで、こんなに似合ってるのにもったいないよ?」
不思議そうに聞く湊さん。
「そうよ。私だって可愛いと思ったから直を誘拐したんだから」
何故か自慢げな玲様。誘拐したっていう自覚はあったんだ。
「ナオが可愛いっていうのはよくわかるんだけど」
僕の顔をじっと見ながら遥華姉。わからなくていいんだけど。
「状況は全然わからないよー!」
僕もまったく同じ気持ちだよ。
結局遥華姉の納得が得られないまま、今日の会はお開きになった。玲様は送っていかせるとは言ってくれたんだけど、なんだか遥華姉は玲様を警戒しているみたいでそのまま歩いて帰ることになった。
玲様の家を出るまでは男とバレちゃダメだから、この服のまま帰らないといけないのかぁ。
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