第25話 謎の協力者

「綾野先生、大丈夫なんですか。誰が来るというんです。」


「岡本君、君もこの間遭っただろう、リチャード=レイとアーカム財団のマリア、それに連絡が取れればマーク=シュルズベリィにもここに来るように要請してある。それにアーカム財団特務工作員達もだ。彼らはクトゥルーハンターとしての特殊訓練を受けている。そして、取って置きの切り札が一人。」


「切り札ですか。」


「そう切り札だ。今回の作戦の鍵を握っているほどのね。」


 浩太は、ツァトゥグアにはこちらの思考が総て読まれているのでは、と思ったがあえてその内容については聞かなかった。浩太が気付くようなことに綾野先生が気付かない筈が無いからだ。


 それにしても、マリアさんやマークさんはかなり頼りになる筈だがリチャード=レイという初老のアメリカ人については、一度遭っただけでよく判らなかった。


「綾野先生、そのリチャードという人とはアーカムで何があったんですか。」


「彼には命を助けられたのさ。ツァトゥグアの封印を解く方法を探しているうちに、『エイボンの書』まで辿り着いたんだが、解読しているうちに『エイボンの書』に取り込まれてしまったんだ。ミスカトニック大学付属図書館の稀覯書室に居る時で良かったよ。リチャードがたまたま居合わせてくれて。」


「そうだったんですか。」


「ただそのお蔭でツァトゥグアの封印を解く鍵が『サイクラノーシュ・サーガ』に記されていることが判ったんだ。怪我の功名というやつだね。」


「『サイクラノーシュ・サーガ』はラヴクラフトも想像上の書物としてさえ取り上げなかった稀覯書中の稀覯書なんだ。サイクラノーシュはクラーク・アシュトン・スミスも言及している星の名前だけれど、その星の名前の元になった人間の名前でもあるんだ。ただ、『サイクラノーシュ・サーガ』を読み進んで行くとどうも私達とは違う種類の人類、異星人らしいね。遥か昔に星々を旅していたのだから。」


「そのサイクラノーシュがツァトゥグアを訪ねてここまで来ていたんですか。」


「そう。その辺りの記述も『サーガ』には詳しく記されている。そして、その後サイクラノーシュに戻った彼がツァトゥグアの封印を解く方法を研究している件があるんだ。そして彼は封印をする方法と共に封印を解く方法を見つけ出した。儀式に必要なものも総て詳しく記述されている。ただ、問題なのはその儀式に必要なものは必ずしも今の地球上で手に入るものだけではない、ということなんだ。君が新山教授たちに揃えてもらったものはあくまで今の地球において揃う物であって記述されているもの、そのものではないと思うんだよ。」


 岡本浩太が杉江統一や新山教授に頼んだものは216個の人間の虫垂だった。もともとは何かの必要な器官であったものが、人間が進化、若しくは退化する過程の中で不要になってしまったと考えられる虫垂が遥か昔ツァトゥグアを封じた封印を解く鍵となっている。ただそれは現在特に人間にとって特に必要とはされていない虫垂ではなく、体内の器官として有効に機能していた虫垂なのだった。


「とすると、ツァトゥグアの封印を解くことは現代においては不可能になってしまうんじゃないんですか。」


「だから私達は現代の地球上において可能な限りツァトゥグアの封印を解く努力をすれば良い訳だよ。決して嘘を吐いている訳ではないし、サボタージュしている訳でもない。真剣にツァトゥグアの封印をとく儀式を行うつもりだ。呪文も本物をつかう。後はツァトゥグア次第だな。」


 綾野先生はツァトゥグアを騙すこと無く復活もさせない方法を見つけ出していた。単純にツァトゥグアの封印を解く振りをすればいいと考えていた岡本浩太は、ツァトゥグアら旧支配者たちの能力を過小評価していた自分が恥ずかしかった。仮にも神々と崇められている程の力の持ち主で遥か永劫の時を封印されているもの達なのだ。


 クトゥルーの時は直接その意識に触れたり言葉を交わす機会が無かったので、感覚的にはただの怪物としか捉えていなかったのだが、やはり旧神と呼ばれる神々たちと敗れたとは言え戦ったものたちだ。当然かなりの力を有している筈だった。そして、その中でもツァトゥグアは主神クラスなのだ。


 そして、ヴーアミタドレス山の洞窟に別働隊が辿り着いた。綾野たちはツァトゥグアが開いた空間なので直ぐに着いたのだが、別働隊はその規模を通す空間を再構築されていたので少し時間がかかっていた。

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