第39話こいつ、ここでもノーダメージとか最強かよ。
「現在、陛下の遠征に帯同している隊を除けば王城にいる騎士の所属は二つのみ。私の隊かアンナ・エンヘドゥの隊だけです。しかし本日の正午からアンナの隊の騎士はほとんどが近隣の索敵に向かっている……ことになっています」
アキレスが目を細めて端的に表向きの事実を述べる。
「だが、ここにはいないはずのやつらが所属を偽って王族を襲ってきたと」
オレは呼応するように続きの事実を口に出す。徐々に全貌が掴めてきたな……。
公式の記録上、アンナの隊は調査に出向いていて城にはおらず、残っていたのはアキレスの隊だけ。
さらに反乱した兵士はアキレスの隊の鎧を着ていた。それを使用人たちが証言すれば誰が主犯とされるのかは明白だ。
調査隊にのこのこついて行ったアキレスは始末するか証言ができないようにある程度の期間匿っておけば現状証拠だけで話は進み、アキレスは弁明する暇もないまま欠席裁判で反逆者扱いされて城には戻れなくなる。
王国側の最大戦力であるアキレスを現界教の内通者に仕立て上げて排除する。
王城の軍事力を大幅ダウンさせたうえ、王族に甚大な被害をもたらすことができる一石二鳥の作戦。単純だが、ハマれば確実に詰めさせることのできる意地の悪い策略。
失敗に終わったのは相手方が剣聖の腕前と悪運の強さを見くびっていたということか。
「私は先程、背後から一斉射撃をされたと言いましたね? あれも共に調査隊を組んでいた味方の騎士、アンナの隊の騎士にされたんですよ」
その騎士たちがどうなったのか訊ねるのは野暮なことなのだろうなぁ……。ただでは済んでいないことだけは容易に想像がつくけれど。
「現界教の間者がアンナの隊の騎士に成りすましてたとかはないの?」
「部下の顔くらい覚えておりますよ。例え、よその隊であってもね。どれも数年前から騎士団に所属していた者たちです」
「…………」
エイルはアキレスの証言を否定する要素を探そうとしているのか逡巡する。まあこいつは相当キナ臭いやつだからな。
信じられるようになるまで検証を重ねるのは悪いことではない。
……当の本人がどう思うかは別として。
「逆に訊きますが、エイル様はご自分の国に仕える騎士がどの部隊に所属しているかご存知ないのですか?」
「むぐっ……」
早速、仕返しとばかりに意地の悪い質問をしてくるアキレス。
いくら王族だからといって、あまり関わりのない平騎士まで把握していろというのは無理な話だ。
そもそも自分の直接じゃない部下まで完全に覚えてるアキレスがすごいんじゃないか?
オレなんてクラスメートの顔すらまともに覚えてなかったぞ。
「それじゃあ、やっぱりアンナがこの反乱を……?」
がっくりと肩を落とし、エイルはそう言った。
「なあなあ、それじゃあ本当のアキレスの隊の騎士はどこ行ったんだ?」
一応の結論が出たところで、それまで頭を抱え込みながら必死に会話についてくることだけに専念していたルナが素朴な疑問を言った。
確かに彼らが騒動の中に出てきたらそもそもの前提が成り立たなくなる。本物が出てくれば、アキレスの隊を騙って暴れている連中は何者だという話になるからな。
「さしずめ酒に薬でも盛られて眠らされてどこかに監禁されているんじゃないかしら。彼の部下たちが警備中に飲酒するのは公然の秘密だし。酒樽に混ぜておけばもれなく全員夢の中でしょ」
ヴェスタがさらっと嫌味を混ぜた推察をした。
だが、アキレスは否定もせず謎の大物感ある笑みを浮かべるだけだった。
こいつ、ここでもノーダメージとか最強かよ。
……しかし改めて聞いても酷い騎士隊だな。
エイルがなかなか信用しなかったのも納得である。
「ねえ、それじゃあロキは? ロキはどこにいるの?」
ぎゅっと胸元を握りしめ、エイルは従弟の安否を問う。
そういやアンナが保護しているかもという望みにかけていたが、そのアンナが第一容疑者となってしまった現状ではロキの安全は保障されていないも同然だ。
事実を知らないロキが無警戒に近づいて取り返しのつかない結果になってしまうこともありえる。
「おや、ロキ様はいらっしゃらないと? この時間帯なら、ひょっとしたら……」
ちらりとオレに流し目を送ってアキレスは思案顔を見せる。
「ジゲン殿。私が渡した手紙はお読みになられましたか?」
「手紙? あ、やべっ……」
字が読めないからと放置してそのままになっていた。
何か忘れてると思ったのはこれだったか。
オレは慌ててポケットからくしゃくしゃになった封筒を取り出す。
「その手紙、実はロキ様から託されたものでしてね……」
「貸しなさい!」
アキレスがみなまで言う前にエイルは手紙をオレの手から無理やりひったくった。
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