第23話いや、別に水着が作りたかったとかそういう意味じゃなくて。



 透き通った水の色。砂の地面に寄せては返す波。


 そんな波音を聞きながらオレは腕を組んで仁王立ちで佇んでいた。


「……まるで海だな」


 塩水ではないので湖に近いかもしれないけれど。


「ねえ、海ってしょっぱい水溜りのことなんでしょ?」


 いつの間にか着替えを済ませてオレの横にいたエイルが、ひょっこりと見上げるように顔を覗かせながら声をかけてきた。


 瑞々しい白い肌、ほっそりとした曲線を描く美しいくびれやすらっとした手足。


 それらを恥じらうことなく惜し気もなく晒し、エイルは水色の快活な印象のビキニに身を包んでそこにいた。


「…………」


 腰には水着と同系色のパレオを巻いているが肌色面積多めな姿に変わりはなく、それにも関わらず距離を感じさせない近さにいるエイルにオレの視線は思わず釘付けとなってしまう。


「ん、どしたの」


 エイルは上目づかいで無邪気な微笑みを見せてオレの沈黙に首を傾げている。


「な、何も言わずに接近してくんなよな」


 動揺を押し殺すように憮然とした物言いでオレは咳払いをして誤魔化す。


「は……?」


 言われたことの意味がわからないようで、エイルは逡巡。やがて反射的に何かを察したのか、


「そんな言われるほど近づいてないし! 変態!」


 顔を真っ赤にして怒り出すのだった。


「ひょっとして、こっちには海がないのか?」


 キャンキャン騒ぎ立てるエイルの様を見て、逆に冷静になることができたオレは手を振り回すエイルの頭を押さえ込みながら訊ねた。


「あることはあるけどね。私たちはこの王宮近辺しか知らないから直接みたことはないのよ」


 答えたのは発情した動物のように唸り声を上げているエイルではなく、優雅な佇まいで雨野に腰掛けているヴェスタだった。


 いつの間に座ったんだ……。そしていつの間に座られたんだ、雨野よ。


 こいつらのことが段々と恐ろしくなってきた。


 扇子を片手に持って扇いでいるヴェスタはシックな黒いフリルのついた水着を纏っていた。


 豊満な胸部に比べてきゅっとくびれた腹部。下半身も太すぎない程度にボリュームがあり、本当に同年代なのか疑いたくなる艶やかなフェロモンを醸していた。


「知ってるぞー! 海って青い色をしてるんだろ! そうなんだろ!?」


 ルナも騒がしく会話に入り込んでくる。


 こちらはなんと紺色のスクール水着を身に着けていた。こんな水着まであるのか……とオレは呆れ半分で驚嘆する。


 それは彼女の平坦な体型にフィットしていて、その手の趣向を好むマニアックな方々に高評を博しそうな形貌だった。


 ちなみに、これらの現代デザインの水着は全て雨野が製作したのだとルナが言った。


 それまでは貫頭衣のような服を上から被っていたんだとか。つまり雨野が文化の発展に一役買ったということだ。


 ホント、器用で便利な能力を持った男だな。


 ……オレもそんな利便性のあるスキルが欲しかった。いや、別に水着が作りたかったとかそういう意味じゃなくて。


「最初は下着みたいで恥ずかしかったけど、これが異世界じゃ普通なんでしょ? 昔から話ではそういうものがあるって知ってて気になってたのよね。再現する方法がなかったからこっちでは実物がなかったけど」


 エイルが水着のズレを直し、ポージングを取りながら言う。なんだ、その謎ポーズ。


「しかし、いきなりよく受け入れられたな」


「だって、下着じゃないから恥ずかしがるものじゃないんでしょ?」


「……そうだが」


 疑いない瞳で当たり前のように言われると、訊いたこっちが邪な人間性をしている気がしてくる。


「異文化を柔軟に受け入れる姿勢を持っていないと王族は務まらないわよ」


「そんなもんかね」


 ま、柔軟な思考を持っているのは大事なことだ。

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