第21話スピードラーニングにもほどがあるぜ。
言語に関しての問題をエイルに相談してみたところ、
「慣れたら読めるようになるわよ」と身も蓋もない極論を言われてしまった。
そんな容易くあんな縮緬雑魚みたいな文字が読めるかぁ! と思ったが、どうにも召喚者は皆、時間の経過とともにこちらの文字が自然に母国の言葉として頭の中で音声再生されるようになるのだとか。
何だそれは。そんな馬鹿なことがあるのか。スピードラーニングにもほどがあるぜ。
俄かに信じ難くオカルトチックな話だが、異世界に呼び寄せられた時点で十分現実的じゃないのでそこを疑うのは今さらだろう。
メカニズムは判明していないそうだが、これまで意思疎通ができない召喚者が現れたことはないので言語関係についてはゲートが召喚者に何らかの作用を働かせているのではないかとエイルは言っていた。
実際に雨野も最初から言葉は通じていたし、文字もしばらく滞在しているうちにスラスラと読めるようになったという。
ならオレもいずれ書物庫にあった意味不明な本が読めるようになるのだろうか。
そうなれば帰る手段が探しやすいので大助かりだが、それは同時にこちらの世界に染まってしまったような気がして、できるならそうなる前に帰りたいとオレは思った。
訓練場での一件から数日。
オレは地下の水源施設に足を運んでいた。
何でもそこは城内の生活用水が全て賄われている施設らしい。
門番がいる巨大な鉄の門を通り、岩で覆われたドームのような形状の地下洞に踏み入る。
内部は明るく、地下であるにも関わらず視界をはっきりさせる光と軽く汗ばむほどの温暖な空気で満ちていた。
岩天井のところどころから射し込んでいる輝きがこの気温と光度を保っているのだろうか。
「すごいだろう。あの柱の内部に水を循環し、清潔にするシステムが組み込まれて作動しているのだ」
「はあ……」
同行してきた騎士隊長のアンナの誇らしげな説明に適当な相槌を打つ。なぜ彼女が自慢げに語るのかは謎だった。
言われた通り、水で満たされた地下の中央には柱があり、それは天井にまで高く繋がっている。循環ということは下水と同じようなものだろうか。
アンナが言うには地下から湧き出てここで溜まった水をあの柱が吸い上げ、浄化した後で上にある各設備に行き渡るようにしているらしい。
まんま水道管だな……。
詳しい工程や仕組みは違うのかもしれないが、機能面では代替を果たしている。
中世並みの文明レベルなのかと思えば意外なところで近代的だったりして、この世界の文化は非常に歪だ。
これも異世界から人を呼び寄せていることの恩恵なのだろうか。
「うーん。久しぶりに来たわねぇ。今日は精一杯羽を伸ばそうかしら」
「いやいや、あんたはしょっちゅうバカンスとか言って来てるじゃない」
一緒に来たのはアンナだけではない。
ヴェスタにエイル。雨野、ルナ、さらにはロキといった王宮の面々が揃っていた。
「なあ、この世界には魔法とかはあるのか?」
そびえ立つ柱を眺めながらエイルに訊ねる。
「魔法? そんな非現実的なものあるわけないじゃない。小説の読み過ぎよ」
「ゲートとか、オレからしたら十分魔法と一緒だけどな……」
けど、こんなにファンタジーっぽい世界観なのにねーのか。
こちらの世界におけるありえないものの基準が今ひとつ掴めない。
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