帰ってきた東京
九十九折の山道を、かすみさんの運転するワゴンが縫うように走っていく。崖下には、渓流のせせらぎ。途中には、ダムもあった。
そして、一時間が経過して、最初に降り立った小さな無人駅に到着した。
「それでは、これは切符と航空券です。」
「本当に、なにからなにまですみません……」
いくら限界村民が裕福だといっても、かなりの額なのだから、気が引ける。
「次に来るときも、電話を頂ければ、航空券をお送りいたしますわ♪」
「いえ、それは、自分の金で来ます。貯金ありますし……。それに、今度はお客さんじゃなくて、自分の意志で村民になるんですから」
「まあ♪ ちゃんと筋を通されるんですね♪」
「そ、そんなたいそうなもんじゃないですよ。ほんと……世話になりっぱなしで、申しわけないぐらいです。次に来たときは、もっと容赦なくこき使ってください」
「うふふ♪ それじゃ、そのときはお願いしますね♪」
と、そう言っている間に、向こうのトンネルから一両っきりの電車がやってきた。
「っとと、では。ありがとうございました。また、すぐに戻ってきますからっ」
「はい♪ お待ちしておりますわ♪ 道中、お気をつけて♪」
俺は急いで無人の改札を抜けて、停車した電車に乗った。中は、ガラガラだ。乗客数が俺を含めて三名しかいない。
車窓からは、かすみさんの姿が見えた。手を振るかすみさんに、軽く頭を下げる。やがて、電車が動き出して、すぐに次のトンネルに入ってしまった。
それからは、見知らぬ駅を過ぎて、メモっておいた乗換駅で下りて、また別の駅まで行って、そこからバスに乗り、空港に向かった。
離陸するときに、眼下に見えた緑深い山々の中に、どこが限界村だろうかと思った。しかし、高度が上がれば、地上も見えなくなってしまう。
二時間弱で羽田へ着き、あとはうんざりするほどの人の群れ。地元の最寄り駅につくまではラッシュを過ぎたとはいえ、多くの人間がすし詰めになっている。それでも、皆それを日常として、平然と電車と人ごみに揺られている。
俺も、ちょっと前までは、その中の一人だったのだが、限界村の空気の清涼さ、過疎っぷりに慣れてしまった身からは、うんざりするばかりだった。
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