童貞の選択~新たなる道程~

 三人とのデートは終了し――時刻は十九時。

 いよいよ結果発表の時が訪れた。


 夕食はお疲れさん会を兼ねて和洋中揃った豪華なメニューだったが、俺も含めてみんなが緊張のあまり言葉数が少なかった。


「……凡人さん、いよいよ正妻発表のときです。……誰を選びましたか?」


 民宿草枕の食堂に俺、かすみさん、まつり、あずささん、ひなたちゃんが並ぶ。じーさんは発表の場にはいないのが恒例らしいので、いない。


 みんな、不安そうな面持ちで俺を見ていた。


 ひなたちゃんは泣きそうな顔で、あずささんは無表情だが……やはり不安は隠し切れていない。まつりは……どこか達観したような表情をしていた。


 俺は、三人の前に立つ。そして、決めていた答えを口にした。


「……まず始めに……俺は優勝賞品を辞退したいと思います」


 俺の言葉に、それぞれが驚いたような表情を浮かべる。


「それは……六十億円も、家も土地も、村長の権利もいらないということでしょうか?」


 傍らに立っていたかすみさんから真剣な表情で尋ねられる。


「はい」


 俺は力強く頷いた。


「ぼ、凡人さんっ……!」

「……つまり、この村にはいたくない、と……そういうことですか」


 ひなたちゃんが泣き出しそうな声で、あずささんは失望したような声でつぶやく。まつりは、俺のことをじっと見つめていた。そこからは、感情を読み取れない。ただ、俺のことを信頼してくれている――そんな気がした。


「最後まで聞いてくれ。俺は……その権利を放棄した上で、この限界村民になりたい! 与えられるだけじゃなく、みんなに与えられる人間になりたい! だから、一村民として、この村で働かせてくれ! そして、俺はみんなが好きだっ! 誰かひとりを選ぶなんてことはできない! 童貞が調子乗っていると思うかもしれないが……俺は、全員を幸せにしたい!」


 無茶だろうか。無茶苦茶だろうか。だが……俺の結論はこれしかなかった。


「うふふっ……♪ 凡人さんは女相撲大会に優勝したことで誰かひとりを本妻に選び残りを愛人にする権利を得ましたが……凡人さんは、その権利をあえて放棄することで、三人に順位をつけなかった……ということですね?」


 ……そうだ。俺は、まだ定まりきっていない感情の中で一番を選ぶことなんてできなかった。たとえ優勝賞品を辞退したことで家と土地と現金六十億円と村長の権利を得られなくてもかまわない。とりあえず誰かを正妻にするだなんて不誠実なことは絶対にできない。


「ぼ、凡人さんっ……! そこまでひなたたちのことを考えてくれたんですねっ……」


「……ふふっ。つまり、家と土地と金と村長になる権利よりも、自分の心と、わたしたちの心を優先した……ということですね。……一本取られました。童貞のくせに、なんでそんな格好いいんですか、あなたは」


「凡人……本当にいいの? 六十億円だよ……? 家も土地ももらえるのに……適当にわたしたちの中から一番を選べば、ほかのふたりも愛人にできるのに」


「いいんだ。俺は……みんなのことが好きだからな。嘘なんて言えない。それが、俺の……童貞の意地だ」


 俺の言葉にみんなの表情が驚きから笑顔――そして涙へと変わっていく。


「凡人さんっ……ひなた、ひなたっ……ますます凡人さんのことが好きになっちゃいました!」

「本当に、あなたって人は……女泣かせなんですからっ……!」

「凡人っ……本当にあんたは……最高の童貞だよっ!」


 三人は俺に抱きつきながら、涙を流していた。

 俺は……これから、三人を幸せにしないといけない。

 その道程(どうてい)は、きっと辛く厳しいものになるだろう。


 だが、俺は今日の選択を絶対に後悔しない。

 俺は死んでも彼女たちを幸せにすると固く心に誓った。


「うふふ……♪ 凡人さん、あなたは最高の選択をしたと思いますわ……♪」


 かすみさんは涙を滲ませながらも笑顔で、俺たちを見守ってくれていた。

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