限界村ラーメン

 俺はひなたちゃんと一緒に民宿草枕に戻ってきた。


 学校から民宿までの間、俺はひなたちゃんと手をつないだ。ボールは俺が左手で小脇に抱えた。


「おかえりなさい、凡人さん、ひなたちゃん♪ ……いいデートになったみたいですねっ♪」


 かすみさんは手をつないでいる俺たちを見てニコニコしながら迎えてくれた。


 ひなたちゃんの涙の跡には気づいているはずだが、あえてそれには触れない優しさがそこには感じられた。


「……はいっ、ひなた、凡人さんとデートできてよかったですっ! 今日のことは一生の思い出ですっ!」


 ひなたちゃんは涙をにじませながら、俺の手をギュッと握った。


「俺も、ひなたちゃんとデートできてよかった。ありがとう」


 俺もひなたちゃんの手を優しく握り返した。


 誰が一番とかそういうのではなくて、ひなたちゃんの支えになってあげたいと心から思った。


 そんな俺たちを見て、かすみさんはさっきの笑顔とはまた違う穏やかな笑顔になる。


「……凡人さん、いい顔になりましたね。あなたならこの村を任せられますわ」

「ひなたもっ、凡人さんにおじいちゃんのあとをついで村長になってもらいたいですっ!」

「えっ、あっ……」


 ……ほんと、一週間前には思いもしない展開になっていた。恋愛方面もそうだし、自分の将来についてもだ。


「ふふ……まずはお昼にしましょう。ひなたちゃんも食べていってくださいね♪」

「ありがとうございますっ!」


 俺とひなたちゃんはかすみさんとともに民宿の中に入っていった。


※ ※ ※ 


 リビングに向かう途中でいいにおいがしてくる。


 キッチンのほうを見てみると、まつりとあずささんが料理をしているところだった。食べる担当のまつりが料理をしているのも驚きだし、いつも巫女服のあずささんがエプロンを着ているのも目をひく。


「あ、凡人! おかえりー!」

「おかえりなさいでいいのでしょうか、わたしもお邪魔している身ですが」


 ふたりはどうやら、ラーメンを作っているようだ。


「うふふっ……♪ まつりの料理の腕は壊滅的ですが、あずささんに手伝っていただいてますから、大丈夫だと思います♪」

「あ、ひなたも手伝いますっ」


「それじゃ、ひなたちゃんお箸とか飲み物出しておいて!」

「俺も手伝う!」


 さすがにいつまでもお客扱いというわけにはいかない。

 とはいっても、もうほとんど完成だったらしく、ほとんど手伝うことはなかった。


 ラーメンは、かすみさんの分もいれて五人分。味はしょうゆ。ネギに、半分に切ったゆで卵に、メンマに、チャーシュー。盛りつけも綺麗で、とてもおいしそうだ。


「うふふ……♪ 上手にできましたね♪」

「はわっ……すごくおいしそうですっ♪」

「うむ、すごいうまそうだな」


 賞賛する俺たちに、まつりは「へへっ♪」と照れくさそうに笑う。


「たまにはラーメンぐらい作らないとねっ!」

「謎のアレンジを加えようとするまつりさんを全力で阻止しましたので、味も保証いたします」

「……えー、納豆入れたらおいしくなると思ったんだけどなー」


 ……あずささん超グッジョブだった。

 ともかくも俺たちはテーブルについて、ラーメンをいただく。


「っ! ……うまいな!」


 シンプルだからこそ、失敗したらすぐにわかるしょうゆラーメン。

 めんの茹で加減もスープの味も絶妙だ。そして、具も素晴らしい。


 とろけるようにやわらかいチャーシューにシャキシャキのネギ、メンマも肉厚。普通に店を出せそうなレベルだった。


「すごくおいしいですっ♪」

「本当によい出来ですね♪」


 俺たちの反応を見てから、まつりとあずささんもラーメンを食べ始める。


「うんっ、おいしいっ!」


「我ながら良い出来です。ちなみにこのラーメン、全部限界村産です。野菜と小麦は畑から、肉は、かつて限界村で飼育してたイノブタが脱走してイノシシと繁殖し、野生化したものです。養鶏も小規模ですが村でやってる人がいますし、醤油は自家製です」


 オール限界村産というのもすごいな……まぁ、大昔の村は自給自足が普通だったのかもしれないが。 これ、限界村名物として売り出せるんじゃないだろうか。


 ともかくも、俺たちはお昼のラーメンタイムを堪能した。


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