驚愕の優勝賞品~土地と現金~
「開始時間は十時。最初はひなたちゃんからですわ♪ 十二時から一時間お昼休憩を挟み、十三時からはあずささん。十五時から三十分休憩があって、十五時三十分からまつりの順番になります♪」
一日で三件のデートをこなすってどんなリア充だ……むしろリア充の範囲を超越している。まさか人生十七年非モテ街道を驀進していた俺にこんな日が来るとは思いもしなかった。事実は小説より奇なりというか、もう事実は小説よりもメチャクチャすぎた。
しかし、ハーレムというのはマジで俺のような小市民にはしんどい。……いや、ぜいたくな悩みだとは思うんだけど、小心者の俺としてはやっぱりプレッシャーとか責任を感じる。だって、結婚って一生の問題だろ!? そう簡単に選べるわけない。離婚とかすぐにするわけにもいかないんだし。でもまぁ、昔の日本は十五歳とかで嫁に行ってたわけで、それは大変だったろうなと思う。
……とそこで。俺の心の中のメガネ委員長が声をかけてきた。
『おはよう、凡人くん! こんな貞操観念が惑星の彼方にぶっとんだ頭のおかしい連中の誘惑には絶対に負けないでねっ! あなたは新世界の童貞君主! 真の童帝王になるべき選ばれし童貞の中の英雄! この世界を変革する絶対無敵の童貞勇者なのだから!』
……なんか俺の童貞のスケールがとてつもなくでかくなっているんだが……。ついでにいま流行りの異世界ファンタジーっぽい。最近読んだ本の影響とかかな?
『そ、そ、そんなわけないじゃない! べ、別にWEB小説に読むのに最近はまってるからじゃないんだからね!』
ううむ、やはり怪しい……というか、よりメガネ委員長の実在が説得力を帯びてくる。まぁでも、この問題は置いておこう。いまは、今日のことを考えねば。
まぁだけど……童貞を守る守備力に関してはカンストしている俺にとってはあらゆる攻撃を抑える自信がある。魔王の攻撃もダメージ1になるレベル。
あれだけまつりとひなたちゃんとあずささんから(かすみさんからもか)積極攻勢をかけられて落ちないからな。乙女ゲーの攻略キャラだったら苦情続出、公式掲示板は荒らされ、制作者が脅迫状を送りつけられるレベルだ。……まぁ、そもそも本来俺なんかに攻略するような価値なんてないと思うのだがなぁ……。
そんなアホみたいなことを考えていると――。
ピンポーン! とインターホンが鳴らされた。
「あら? まだ開始には早いのですが……なんでしょうか?」
かすみさんは頬に手をあて首を傾げながら、玄関に向かう。いちいち仕草がかわいくて萌えてしまうから困る。
「あれっ? もうひなたちゃん来ちゃったのかな?」
まつりも廊下のほうに顔を出して玄関のほうを見る。俺もつられてまつりのうしろから玄関のほうを見た。
「はい、いまあけますわ」
かすみさんがドアを開く。そこから現れたのは――!
……熊だった。
「ひぃぃいいぃいいい!? 熊来襲ーーっ!? は、早く死んだふりしなきゃ!」
まつりが飛び跳ねるように驚き、そのまま倒れこんで死んだふりをする。
「いや、待て、まつり。あれは……」
「あらっ、村長さん♪」
かすみさんはまったく動じておらず、熊の正体を見抜いていた。さすがだ。
……というかまつりも学習しろ。リアクション芸人かお前は。
熊は自分の顔をグリグリと両手で動かして、スポンと引き抜く。
もちろん中の人はひなたちゃんのじーさん――三月兎千広だった(あくまで俺はちーちゃんとは呼ばない。全国のちーちゃんと呼ばれる女の子たちに申しわけないからだ)。
ちなみに……今まであえて触れなかったのだが、三月兎……三月の兎とは発情期真っ最中で狂わんばかりに跳ねまわっている兎のことである。どんな苗字だ。
「いやぁ、相変わらず美人じゃし可愛いしセクシーじゃのう、かすみちゃんは! かすみちゃんを見てると若返るようじゃわい、ありがたやありがたや~!」
ひなたちゃんのじーさんはかすみさんを前にして、両手をあ合わせ拝みはじめる。
「……うふふ……ありがとうございますわ♪ ……それで、御用は?」
なんとなく俺に対する『うふふ♪』とは違う気がする。ひなたちゃんのじーさんに対しては社交辞令的というか……。まぁ、あんな色ボケじじいがいたら警戒するわな。死んだばーさん一筋とか言ってはいたが……。
「うむ、そうじゃ、なんの用事で来たんじゃったかのう……? はて?」
……おいおい大丈夫か、ひなたちゃんのじーさん……。
「……おおっ、そうじゃ! 田々野凡人くんに用があったんじゃったわいっ!」
……なに? お、俺に用事だと……?
「ん? なんで凡人に用なの?」
死んだふりから復活したまつりが首をかしげる。
「いや、俺も皆目見当がつかんぞ」
「どのような御用ですか?」
かすみさんが尋ねる。
「うむ、凡人くんは昨日見事に相撲大会で優勝したじゃろう? 優勝賞品の目録を持ってきたのじゃ」
「あら、そうでしたか……では、凡人さんをお呼びしますね♪」
かすみさんはひなたちゃんのじーさんに背を向けると、こちらに戻ってきた。
「うふふっ♪ 凡人さん、昨日の優勝賞品の目録だそうです。村長さんから受け取ってください♪」
「は、はい……」
昨日は決勝でまつりとキスしてからあずささんとひなたちゃんが土俵に乱入してしっちゃかめっちゃかになってしまったんだよな。その影響で表彰式的なものは完全に忘れ去られていた。そう言えば大会のはじまる前に、『豪華な賞品が盛りだくさんじゃぞい♪』とか言ってたっけな、ひなたちゃんのじーさん。
俺は玄関のほうまで歩いていって、ひなたちゃんのじーさんの前に立った。
「おお、凡人くん。昨日の勝利は見事じゃったぞ!」
「ど、どうも……」
「それでじゃな、豪華な優勝賞品の目録を持ってきたのじゃ。実物は物理的に持ってこられるものではないからのう」
……いったい、なにが賞品なんだろうか? 米百キロとか松阪牛一頭分とかか?相撲大会の景品と言われてもそんなものしか想像できない。あとは、ちゃんこ鍋一年分とか。
「それでは賞品を読み上げるぞいっ!……ごほんっ」
ひなたちゃんのじーさんは一度咳払いをすると懐から封筒を取りだし、中から高級そうな和紙を取り出す。
そして両手で紙を広げ、目録を読み上げ始めた。
「まずは土地と家じゃ! もちろん新築でこれから好きなように建ててよいぞっ! 当然、費用は村が持つ! で、土地の広さは東京ドーム一個分じゃ!」
「なぁぁっ!?」
相撲大会の優勝賞品が土地と家ってなんじゃそりゃ! いくら田舎で土地が安いっていっても無茶苦茶すぎる!
「次に現金六十億円じゃ!」
「はっ?」
……ちょっと荒唐無稽すぎてついていけない。これ、冗談だろ?
「最後に! 村長になる権利じゃ! ……ぐふふ、どうじゃどうじゃ? 豪華な賞品じゃろう?」
「い、いや豪華というかなんというか……冗談ですよね?」
百兆歩譲って、過疎化によって空き家になった家とか土地を贈呈ならわからないでもない。若者の移住促進のためにそれぐらいやる自治体があっても驚かない。
しかし、新築の家に東京ドーム一個分の土地に現金六十億円に村長になる権利? あまりにもぶっとびすぎている。
「いやいや、冗談ではないぞ。それだけあの女相撲大会で優勝することは至難の業。これだけの価値のあることじゃわい。記録にある限り、あの女相撲大会で優勝したのは凡人くんが初めてなのじゃ。キャリーオーバーで六十億円まで賞金が膨らんでおったのじゃ」
「い、いやいやいやいや……」
「凡人すごいじゃない! まさかそんなにとんでもない賞品だなんて思わなかった!」
「うふふ♪ これで凡人さんも限界村の住人になり新村長誕生ですね♪ これで村も安泰ですわ♪」
いやいやいやいやいや……。もうこれ、どう反応すべきかわからない。もうこれはある意味チートだろ……。異世界かここは。まぁもうある意味異世界みたいな村だけど、ここ。
「これでわしも肩の荷がおりるわい。凡人くん、これからは限界村のために励むのじゃぞ?」
「い、いや、そもそも年齢的に首長になれないと思うんですが……」
「ここは特別な村じゃからの。法律には縛られぬのじゃ。歴代首相にもちゃんと了解はとっておるしのう」
れ、歴代首相って……マジでこのじいさん何者なんだ……。
「わしも支援するから気軽に村長をやってくれればよいぞい? 基本的に暇じゃからのう」
もうなんか頭がおかしくなりそうだ。やっぱり俺、夢でも見てるのかな……。
「あ、凡人さん……、そろそろお時間です。ひなたちゃんが来ますわ♪
「おお、ひなたも凡人くんとのデートは楽しみにしておったぞ。それじゃ、わしはちょっと山に行ってくるかのう。ほら、目録は確かに渡したぞ」
「えっ、あっ、ちょ」
俺に目録の紙を渡すと、ひなたちゃんのじーさんはクマの頭をかぶり、そのまま外に出ていってしまった。
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