女同士の真剣勝負! 白熱女相撲! 一本木まつりVS二枚貝あずさ

「ふふ、長年のライバル関係に終止符を打つときが来たわね! あたしが勝って、凡人を婿にする!」


「ふっ、寝言は寝てから言ってください。去年までとちがって、今年のわたしは気合が違います。なんてったって、子種神社を次代に継ぐための子種がかかっていますから……」


 土俵上で、睨みあうまつりとあずささん……。俺をめぐって、争う状態になるとは……。だめっ、やめて、俺のために争わないで!……という冗談はさておき。


 いやもう、本当に冗談じゃなくなってきたぞ、これは……。やっぱり、俺は誰かと結婚せねばならんのか。


 土俵で睨みあったまつりが、西側に戻ってくる。俺は樽から力水を柄杓で汲んで、まつりに渡す。


「……あんたのこと、絶対、あたしの婿にするから」

「……っ!」


 真剣な声でまつりにそう言われて、俺は胸がキュンとなった。


 だが、しかし……。そんなふうに思われるほど俺自身に魅力があるだなんて、到底思えんのだが……。


 まつりは水を飲むと、塩を手にとって、豪快にまく。一方で、あずささんもひなたちゃんから受け取った水を飲んで、塩をまく。お互い土俵中央にやってきては、何度か手をついて睨み合い、元の位置に戻る。


 そして、ついに――。


「時間いっぱいです♪」


 かすみさんが、相変わらずなにを考えているのかわからない笑顔で、行司役のじーさんに伝える。


「ふむ。それでは、はじめるかの。見合って、見合って……」


 軍配の東西で、腰を落としたまつりとあずささんが睨みあう。

 そして、一瞬後、両者の手が離れて、激突する――!


 女の子同士とは思えない、激しいぶつかり。そして、両者一歩も譲らぬまま、お互いのまわしをとる。お互いの体をがっちり受け止めて、攻防は止まる。


「くっ、……ううっ」

「ふっ、……ふふっ」


 力を入れて苦しそうな表情のまつりと、どこか楽しそうな表情のあずささん。

 いったい、これからどうなるのか、相撲の素人である俺にはわからない。


「う、りゃあああああっ!」


 まつりが、気合の声をあげながら、じりじりとあずささんを後退させる。しかし、それを待っていたのだろう。


「は、あああっ!」


 前に出るまつりの力を利用して、あずささんは投げを打とうとする。


「っ!? くううっ!」


 それを寸前で察知したまつりは、前に出る動きを止めて、こらえる。


 まつりの体が一瞬、ふわっと浮いたが、どうにか着地。そこを、今度はあずささんが押し返してくる。


「……う、うううううっ!」


 押し返されて、土俵上を足が滑っていく。

 しかし、まつりは土俵際で踏みとどまる。


「は、わわっ……激戦です」

「大相撲ですわね♪」


 パチパチとひなたちゃんとかすみさんから拍手が上がる。


 俺はというと、二人の動きから目が離せなかった。真剣勝負がこんなにも、心を奪うとは……。しかも、二人は、俺を巡って、戦っている。そう思うと、一瞬たりとも目を瞑ることもできない。


「う、おりゃああああああっ!」


 今度は、まつりは両回しを持って、あずささんを持ち上げる。信じがたいことに、あずささんの足は地面から十センチぐらい浮いていた。そうか……これなら、押す力を利用しての投げが打てない。まつりも、考えている。でも、


「っ! くっ!」


 あずささんは体を暴れさせて、まつりに負荷をかける。土俵中央あたりまで吊り出されたところで、再びあずささんの足が土俵に着く。そして、再び、お互い組み合ったまま、動きが止まる。


 お互い、全力を出しているのだろう。はー、はーと、すっかり、荒い息をしている。


(これが、大一番ってやつか……)


 俺は身を乗り出して、二人の勝負の行方を見守っていた。自然と、両手を力強く握り締めていた。


 だが、俺は……いったい、どっちを応援しているのだろう。誰に勝って欲しいのか。誰に、勝って俺と結婚してほしいのか……やはり、それはわからない。


「や、ああああああっ!」


 まつりが両回しをがっちり掴んで、再び吊りだしにかかる。対するあずささんは、


「ふ、うううううううっ!」


 同じく、まつりの上手を持って、吊りだしにかかる。その動きで、お互いの体がシーソーのように上下する。


 そして、まつりが着地したところを見計らって、外から足をかけてくるあずささん。それをかわしながら、まつりは投げを打つ。だが、あずささんもさるもの。体勢を崩されながらも、捨て身の投げを打ってきた。


「……は?」


 目の前に、まつりとあずささんの体が飛び込んでくる。


 身を乗り出して観戦していただけに、横に逃げるのは不可能だ。後ろに倒れても、俺の上にまつりたちが倒れ込んでくるわけで……。


「……うわああああああああっ!?」


 次の瞬間、俺は自分がどうなったかわからなかった。ただ、意外と痛みはなかった。


「んんっ、いったぁ……」

「ううっ、同体、ですか……」


 俺の視界は塞がっていた。柔らかいものと、平べったいものによって……。いや、ちょっと蕾のように硬い部分もあ……る?


「って、なにあんた、あたしたちの胸に顔を埋めてるのよ!」

「……どさくさに紛れて、とんだ変態野郎ですね」

「って、ちょっと待てぇええええ!」


 俺は二人の胸から脱出して、抗議の声を上げる。


「不可抗力だ! ……ってか、片方はまな板だろうが!」

「なっ、だから、まな板言うなって、言ってんでしょーっ!」


 平手ならぬ張り手がまつりから放たれて、顔面に見舞われる。


「ぐはっ……ぼ、暴力反対っ」


「まったく、わたしとまつりさんの真剣勝負の邪魔をしないでください、ムッツリ変態おっぱい大好き星人下衆野郎田々野助平さん」


「言葉の暴力も反対……」


 まつりとあずささんは、立ち上がって、土俵に戻る。再戦する気だ。


「……ふむ。しかし、勝負はついておるぞ?」


 じーさんが、土俵際の足跡を見ていた。


「えっ、どっちかの足が先に出ていたの!?」

「くっ……まさか」

「待つのじゃ。念のため、ビデオ判定をしようかいの」


 そう言って、じーさんは切株の上に置いてあったビデオカメラを操作しはじめる。って、いつの間にそんなもの仕掛けてやがった。あとで楽しむ気かっ。


「おほっ……間違って、女だらけの水泳大会の上に録画してしまっておった……」


 じーさん……。あんた、やっぱり、スケベジジイじゃねーか……。


「……ええと、ほれ。いまの場面じゃ」


 まつりとあずささん、そして、外野の俺たちも問題の映像を見てみる。確かに投げの瞬間、あずささんの足が先に土俵外に出ていた。その後は、よく見るとまつりの体のほうが先に地面(というか俺の体)についている。


「……よって、まつりの勝ちじゃ」


「うふふ……まさに、胸の差の戦いでした♪ 胸の遠心力によって、わずかにあずささんのほうが身体が流れて、足が先に出てしまいましたね……♪」

「あ、危なかったぁ……ふ、複雑な心境だけど」

「くっ……胸で勝って、勝負に負けるとは……」


 安堵の表情を浮かべるまつりと、悔しそうに呻くあずささん。本当に、勝負は紙一重だったわけだ。


 ……これで、決勝は俺とまつりか……。一瞬で倒されそうだけど。

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