女子と相撲勝負! 田々野凡人VS三月兎ひなた
「それでは、はじめるぞい」
じーさんはじーさんで、いつの間にか行司スタイルになって、土俵に上がっている。まぁ、俺が優勝なんて、ありえないしな。さくっと負けよう。
「にしぃ~、ただの~ぼん~~とぉ~」
節をつけて呼び出される。作法もなにも知らないが、とにかく土俵へ上がる。
「ひがあしぃい~、さんがつうさぁ~ぎぃ~ひなたぁあ~」
「は、はいっ」
ひなたちゃんが礼をしてから、土俵に上がる。
テレビとか見てると、そのあとも色々と作法があったよな……? だが、いちいち覚えていない。
ひなたちゃんの見よう見まねで、土俵に手をついたり、もとの西側へ戻ったりを繰り返す。西側には、まつりが控えていた。
「ほら、塩」
いつの間に準備されていたのか、塩の入った枡を渡される。……ああ、確か、これを手にとって、撒くんだよな。
テレビでやっていたのを思い出しながら、とりあえず手を振り上げて、塩をまく。一方で、ひなたちゃんも同じく塩をまいた。
「時間いっぱいですわ♪」
土俵正面に座ったかすみさんが、じーさんに伝える。
「ふむ。では、お互い、全力でぶつかりあうがよい」
俺とひなたちゃんは、お互い、手をつく。これで、はっけよい――か。
ひなたちゃんは、いつになく真剣な表情だ。土俵を見ているあずささん、まつり、かすみさんの表情も真剣そのもの。……こうなるとは、手を抜くなんてできない。相撲なんてよくわからないが、頑張ろう。
「では、見合って、見合って……」
俺とひなたちゃんは土俵に手をつく、そして――お互いの呼吸を合わせて、激突した。
「――っ!?」
華奢なひなたちゃんに対して遠慮していたが、ひなたちゃんは俺に正面から抱きつくと、ぐいぐいと押し込んでくる。やっぱり、ひなたちゃんは小柄だといっても、すごい馬力だ。さすがは、限界村民。
しかし、俺も体重があるおかげで、どうにか踏みとどまることができる。といっても、平均体重なんだけどな!
「ほら、まわしとりなさいよ! まわし!」
すぐ後ろからまつりの声が聞こえてくる。……そうか、まわしをとらないと、投げとかできないもんな。
幸い、体格差があるので、とろうと思えば、いつでもまわしをとることができる。
「うーん、うーん……」
なんとか俺を押し出そうと頑張るひなたちゃんの攻めをこらえながら、右手を伸ばして、まわしをとる……つもりだった。
……ふにょ。
「え?」
「きゃふうんっ!」
って、目測を誤って、まわしじゃなくて、ひなたちゃんのお尻を掴んでしまった! 慌てて、手を離す。しかし、ひなたちゃんは女の子座りで、その場にペタンと尻餅をついてしまっていた。
「うむ。田々野凡人の勝ち~!」
じーさんが、軍配を俺のほうに向ける。
「決まり手は……揉み落とし♪ でしょうか♪ ……あ、ちなみに女相撲のときはどこを触ろうと無問題ですわ♪」
かすみさんから、のんきな声が上がる。……いや、ちょっと待て、これは不幸な事故であって俺はそんなつもりじゃ……!
「ご、ごめん、ひなたちゃん! これは、その、わざとじゃなくて! マジでごめん!」
不可抗力とはいえ、女の子の臀部に触るだなんて、俺はとんでもない変態野郎だ。たとえ相撲でも、許されるわきゃないだろう。
「い、いえっ……その……だ、大丈夫……です……はぅ」
しかし、ひなたちゃんの顔は真っ赤だ。そして、俺のことを潤んだ瞳で見てくる。
「ご、ごめん、本当にごめん……!」
「い、いえ……その……凡人さんって、意外と大胆なんですね……ひなた、ドキッとしちゃいました」
「い、いや……その、だから、そんなつもりは……まわしの位置がわからなくてさ……」
「ひ、ひなた、いつでも準備オッケーですからっ」
そう言い残して、ひなたちゃんは顔を赤くしたまま、こちらをチラチラ見ながら、土俵下へ降りていった。
……完全に誤解されてる!
ともあれ、俺も土俵を下りる。
そこには、出番を待つまつりがいた。そして、一言。
「スケベ」
「ち、ちがう! ちがううううう!」
俺はひなたちゃんのように顔を真っ赤にして、頭を抑える。
「そ、そもそも、お前がまわしを取れとか言ったから、こんなことになったんだろーがぁああっ! って、そもそも、男と女で相撲って時点でおかしいんじゃああっ!」
ああ、これで俺の株は大暴落だ……。
「次にあたしが勝ったら、メチャクチャにしてやるから」
まつりはそう言うと、土俵に上がる。そう。早くも次の戦いが始まるのだ。相手は、あずささん。どう見ても、決勝にするべきカードだろう。
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