ハイパー女子と組体操タイム
「それでは、次は組体操です」
ストレッチから地面に着地したあずささんが、またしても衝撃的なことを告げてくる。
「え」
(組体操って、あの……ふつう、男がやるアレか? ピラミッドとか、タワーとか……)
「安心してください。非力な凡人さんのことを考えて、カリキュラムを変更します。それじゃあ、まずは補助倒立。凡人さんは、ひなたが倒立するのを手で支えればいいだけです」
補助倒立……。正式名称は覚えてないが、それっぽいものは、遠い昔、小学校の運動会の組体操でやったかもしれない。
「え、えっと……それじゃ、ひなたの足、押さえてくださいねっ。ちゃんとですよっ?」
ひなたちゃんが、両手を上に伸ばしながら、タイミングをはかる。
「お、おうっ……わかった」
俺もひなたちゃんの前に位置を取って、ひなたちゃんが倒立するのを待つ。
「えいっ」
そして、ひなたちゃんが勢いよく地面に両手をつく。すると、当然、両足が天を向くわけだ。それを俺は両手で押さえる。
(ううっ……ひなたちゃんのふくらはぎ、やわらけぇ……!)
しかし、これは組体操だ。健全なる体育の授業だ。雑念は振り払わねばならない。
「次は、サボテンです」
サボテン……?
「ええと、ひなたが上に乗りますから、凡人さんはこう、ガニ股でひなたの両脚を太ももの上に乗せてください。そして、手でひなたの腰を持ってください」
ああ……そう言えば、そんなのもあったな。思い出した。
「そ、それじゃ、ひなたちゃんいくよ」
「は、はいっ。よろしくおねがいしますっ」
ガニ股に開いた俺の両足――太ももの部分に、左足、右足の順序で、ひなたちゃんが乗っかってくる。そして、俺はひなたちゃんの腰に両手を回して落ちないようにロックする。
(うおお……ひなたちゃんのお腹、やわらけぇ)
「きゃっ、きゃはははっ……くすぐったいですよぉ」
「えっ」
ひなたちゃんはバランスを崩して、地面に着地する。
「あんた、ばかじゃないの? お腹じゃなくて、腰。脇腹触ったら、くすぐったいに決まってるじゃない」
「本当に組体操について無知ですね」
いや、お前達が組体操に精通しすぎなだけな気がするが!
「わ、わかった……。そうか、腰だな、腰」
俺は改めて、ひなたちゃんのブルマーをじっと見つめる。
…………。やっぱり、ブルマーは刺激が強い。こりゃ、廃止されるわけだ。
そんなことを思いつつも、再び俺はひなたちゃんとサボテンに挑戦する。
「それじゃ、お願いします」
「おうっ」
ガニマタ、左足、右足、腰……!
「こ、これでどうだ……?」
俺の太ももにひなたちゃんが両足を乗せ、両手でひなたちゃんの腰を持つ。そして、ひなたちゃんが空中で両手を伸ばす。
「五秒カウントします」
「えっ」
「ほら、耐えなさいよ。ひなたちゃん落したら、承知しないかんね!」
俺は、両脚をブルブル震えさせながら、ひなたちゃんの全体重を支える。腕も、ひなたちゃんを落さないように、必死で伸ばす。
「四……、三……、二……、一……、はい、いいです。手を離してください」
あずささんの言葉とともに、俺はゆっくりと手を離す。すると、ひなたちゃんはジャンプして、地面に着地する。
「えへへ、成功ですっ」
振り返ったひなたちゃんは、満面の笑みだった。
たかがサボテン、されどサボテン。それだけなのに、俺の頬も自然と緩んだ。やり遂げた感がある。
「まぁ、あんたにしてはがんばったんじゃない? 足プルプル震えてたけど」
「それじゃあ次は……。ひなたは休んでてください。わたしとまつりが組体操のなんたるかを凡人さんに教えますから。それでは、凡人さん、こちらへ」
「えっ?」
なにをするつもりだろうか……。しかし、俺には彼女たちに従うほかない。俺は囚人のような気持ちで、あずささんとまつりの前にやってくる
「それでは、まつりさんは前を。わたしが後ろをやります」
(ま、前から後ろから? 俺、ナニをやられるんだ!?)
期待に胸を……ではなく、不安に胸を押しつぶされながら、俺は二人に挟まれる形になる。
「んじゃ、あんたはわたしの肩に両手を置いて?」
俺の前でしゃがんだまつりが、俺のほうを振り返って指示してくる。手……? 手を置く……?
俺は言われたとおりに、両手をまつりの肩に置く。
「次は、両脚を一本ずつ、わたしの肩に置いてください」
後ろから、あずささんに指示される。ああ……これって、なんだっけ。組体操にあったは、確かに……。
「それじゃ、あたしたちが立ち上がってから、手を伸ばして正面を向くこと。いいわね?」
「了解」
「行きますよ」
二人は、俺を乗せたまま難なく立ち上がる。まったく、俺の体重など意に介してない。目の前には、限界村の長閑な風景が広がる。遠くの山もよく見える。かなり高い。ってか、怖えぇ!
「ほら、手を伸ばして、正面を見る」
「両足、持ち上げますよ?」
「お、おうっ……!」
俺が両手を伸ばして前を向くと、足のほうも持ち上げられる。ますます視界が高くなって、びびる。
「五、四、三……」
俺の視界の下では、ひなたちゃんがカウントする。その表情は、真剣だ。
「……二、一、はい。おっけーですっ!」
(よしっ……!)
俺は心の中でガッツポーズした。
「油断は禁物ですよ。まず、両手を戻してください。そのあと、両足を元に戻し、しゃがみます」
「りょ、了解っ」
俺は言われたとおりに、突っ張っていた両手を戻す。すると、あずささんも持ち上げていた俺の両足を再び担ぐ形になる。そのあとは、二人揃って、しゃがんでいく。
「……で、左から降りる、と」
左足、右足、左手、右手、と順番に離して、これで終了だ。
「ん。オッケー」
「まぁ、こんなものでしょう」
「三人とも、格好良かったですっ」
まぁ……無事に済んでよかった。まさか限界村に来て、組体操をやることになるとは思いもしなかったが……。
「えー。それでは、体育の授業は終わりです。鐘は省略。次は……そうですね。特別授業です。着替えないでいいので、今度は特別教室に行ってください」
「特別授業?」
これまた、嫌な予感しかしないのだが……。
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