ハイパー柔軟体操&ストレッチタイム

 そうして、俺たちは校庭にやってきた。


「きーんこーんかーんこーん……。それでは、体育の授業をはじめます」


 再びあずささんの鐘の声とともに、授業が開始される。


「まずは、柔軟体操からはじめます」

「ちょ、ちょっと待て。ふつう、準備体操とかからじゃないのか?」


 いきなり柔軟体操とか聞いたことない。体にいきなり負担かけすぎだろっ。


「うちの教育カリキュラムに文句をつけないでください。えー、それでは、ひなたさん、凡人さんと一緒に柔軟してください」

「わ、わたしですかっ。わ、わかりましたっ。ひなた、凡人さんと、いっぱいいっぱい柔軟体操しますっ……!」


 ひなたちゃんは顔を赤くしながら、俺の隣にやってくる。そして、


「えへへっ……お願いしますっ」


 とろけるような笑顔で、こちらを見てくるのだ。


(くっ……新たな罠か。っていうか、ひなたちゃんの体操着&ブルマー姿は似合いすぎている!)


 なぜか、頭に赤いハチマキまでしてるし。かなりツボだ。


「むー。あたしが凡人と一緒に柔軟したかったのにー」

「あなたは、民宿でも凡人さんと一緒じゃないですか。ほら、わたしと柔軟です」

「うぇーい」


 あずささんの横に、まつりが並ぶ。俺たちと向かい合う形だ。


「それじゃ、はじめます。まずは、凡人さんは足を伸ばして座ってください。そして、後ろからひなたさんが押してください」

「んっ……こ、こうか?」


 あれだよな? 上半身を倒すやつ。体、硬いほうだから、苦手なんだが……。とにかく、足を伸ばして、両手を前に出す。


「……それじゃ、失礼しますね」

「えっ」


 ひなたちゃんが、俺の背中に抱きついてくる。そして、


「えいっ、えいっ……あれ? ほとんど曲がらないです?」

「くっ……うぅ……む、無理だ……」


 運動不足な俺は、ほとんど身体が前に倒れなかった。


「もう、だらしないなー。体なまりすぎなんじゃない?」


 見れば、目の前のまつりは、ぴったりと体を前に倒しながら、こちらに向かって声を出している。体、軟らかすぎだろう。


「それじゃ、次は足を開いて、左足、右足の順で、体を倒してください。足に顔がつくまで。ほら、早く」

「うう……」


 言われるままに、俺は脚を開く。ってか、ブルマーで股開くのなんか恥ずかしい!


「えいっ」

「おふぅっ!」


 再びひなたちゃんに抱きつかれながら、強制的に体を前に倒される。


(ぐ……ぐるじぃ……)


 背中にひなたちゃんの体がいっぱい当たっているのだが、そんなことを感じている場合じゃなかった。


「はい、それでは、立ってください。そして、お互いのペアで肩を組んでください」

「はぁはぁ……?」


 運動に疎い俺は、その意味するところがわからない。


「こうですっ、こうっ」


 俺はひなたちゃんに説明されるまま、両手を伸ばしてひなたちゃんの肩に手をおく。そして、ひなたちゃんも同じように俺の肩に両手を置いてくる。


「それで、下を向いて、ギシギシッて腕を伸ばすんです」

「こ、こうか……」


 言われたとおりやってみると、ちょっとしたストレッチという感じで気持ちいい。


「次は、背中合わせになって、腕を絡ませますっ。それで、背中で相手を持ち上げるんですっ」

「って、ひなたちゃん、無理しなくていいよ」


 さすがに、男である俺の体重を持ち上げるの大変だろう。そう思ったのだが。


「はい?」

「うおおおおおおおおおっ!?」


 ひなたちゃんは軽々と俺のことを背負っていた。視界に、空と太陽が広がる。

 ……五秒ほどして、ストンと俺の足は再び地面につく。


「ひ、ひなたちゃん、力持ちだな……」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいです……でも、限界村住民ですからっ……」


 やはり、田舎だと鍛えられるようだな……。俺もひなたちゃんを持ち上げてみる。


「おっとと……?」


 ひなたちゃんは軽いのに、鍛え方が足りない俺は、よろけてしまう。


「ひ、ひなた重かったですかっ……!?」


 ひなたちゃんが愕然とした顔で、俺のことを見てくる。


「いや、そんなことはまったくない! 俺の力不足だから!」

「ほんと、あんた、ひ弱だよね……」


 まつりがあずささんを軽々と背負いながら、俺のことを白けた目で見てくる。


「しょ、しょうがないだろ……運動苦手な都会人なんだから」


 だが、女の子より非力なのは、情けないのは確かだ。

 まぁ、限界村民は規格外だが……。

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