女子の体操着とブルマーを穿く荒行を敢行!

「えー、それでは二時間目。体育の時間です」

「休み時間は? って、保健体育の次が体育ってどんな時間割り!?」


「うるさい転校生ですね。通知表に『もっと落ち着いて生活を送りましょう』って書きますよ? もちろん、明朗快活の欄は◎です」


「うぐぐっ……なんか地味に心にダメージを受けるぞ、それは……だめな子みたいじゃないかっ……」


「さ。さっさと着替えてください。五分後に校庭に集合です」

「待て、俺に着替えなんて……」

「はい、まつりさんに貸してもらってください」


 またまつりか……。


「って、男子同士でジャージを貸すとかならわかるが、男女で体操着の貸し借りができるかっ!」

「え? 別にいいよ?」

「……『は? なに言ってんの? そんなの当たり前でしょ?』みたいな顔で、言うなぁああ……!」


 やばい。やっぱり、こいつらに俺の世界の常識が通用しない。むしろ、この村では俺が異端。俺が非常識になっている! 恐るべしっ、限界集落!


「そ、そもそも、予備なんて持ってきてるのか……? いや、それ以前の問題だと思うのだが……」

「確かロッカーに……あー、あったあった。ほらっ」


 まつりは教室の後ろのロッカーをゴソゴソと漁ると、意外と綺麗に折りたたまれた真っ白な体操服と……紺色のブルマーを俺に手渡してきた。


 はは……。綺麗なブルマーだろ? それ、穿けっていうんだぜ? 俺に。


「……ちょっと待て。いいから待て。とにかく待て。俺が女子の体操着とブルマーを穿いて、世界の誰が喜ぶっていうんだ。むしろ、喜ぶ人がいたらいたらで怖い」


 ここが人生の正念場とばかりに、抵抗を試みる。このまま流されるままに変態になってしまうわけにはいかない!


「時間がないんですから、さっさと着替えてください」

「なんなら、わたしが着て来てるの、着る? 生温かいけど」

「ひなたのじゃ、はみ出しちゃいますよね……?」


 三者三様に迫ってくる女のたち。相変わらず、恐ろしい連中だ……。

 そもそも、はみ出すって……なにが……。ナニ? ああ、ノーコメント。わかった。もういい。この話はよそう……。


「ほら、さっさと着替えないと強制執行しますよ」

「もうっ、あたしのブルマが穿けないっていうの!?」

「ち、力ずくってのも興奮します……」


 やばい、エスカレートしている。このままでは、身の危険を感じるっ!


 し……しかたない。しかたないんだ。俺は、ナニも好き好んで女子の体操着とブルマーを穿くわけじゃない。そうだ。俺はノーマルだ。普通の人なんだ!


 俺は心の中で葛藤しながらも、言いわけを完了した。

 ……そう。覚悟を決めたのだ。

 この、女子の体操着とブルマーを穿く覚悟を!


「じゃ、じゃあ……どこか更衣室で」

「そんなのあるわけないじゃないですか」

「そうよ。教室でちゃっちゃっと着替えるのが常識でしょ!」

「ちらっと見えるのがいいんです……ど、どきどき……」


 このケダモノどもめ……。

 しかし、このまま無駄な抵抗をしていたら、本当に無理やり脱がされかねない。


「わ、わかった……じゃ、じゃあ……こっち見るなよ?」


 俺はまつりから体操着とブルマーを受け取ると、そそくさと教室の後ろに移動する。


 あらためて、俺は体操着とブルマーを見てみた。

 ……うん、まごうことなき女子の体操着とブルマーだ!


(こ……これを、マジで俺が……穿く!)


 そう思うと、なぜか胸が熱くなってくる。なんだ、この未知の感覚は。俺とブルマーが共鳴しているとでもいうのか!?


「ほらぁ、休み時間終わっちゃうでしょ!? ちゃっちゃと着替えなさいよ!」

「意気地のない男ですね。それでもチ○コついてるんですか?」

「ぬ、脱がすの手伝いましょうか?」


 俺がブルマーと共鳴している間にも、女子たちから容赦ない言葉が投げつけられる。


(くっ……やるしかないのか。いや、穿くしかないのか!)


 俺は鼻から大きく息を吸って、口から大きく息を吐く。断っておくが、体操着とブルマーの匂いを嗅いだわけでは断じてない。


「……ふぅ。おーけー、わかった。……穿く。断固として穿く」


 まずは、着ている服を脱がねばならない。俺は、ズボンに手をかけて、ズルズルと下ろしていく。つまり、トランクス一丁になるわけだ。


「…………」


 女の子たちは、急に無言になる。ってか、思いっきり視線を感じる。まぁ、背を向けているので、実際に確認できていないわけだが。


(と、とにかくこんな苦行はさっさと終わらせねば……)


 まずは、ブルマーを両手にとって広げる。そして、足の下に持っていき……跨ぐようにして、まずは右足を通す。続いて、左足をも通す。


(こ、これが……ブルマーの肌触り……)


 踵、脹脛、膝の裏、太もも――と。通過していくブルマーの感触に、総毛立つような思いだった。


 そして、ついに俺はブルマーの装着を完了する。


(ふおぉおおぉおぉおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおお……!)


 股間にジャストフィットするブルマー生地。


(いかん。これは、未知なる世界への扉が開かれてしまいそうだ……!?)


「ど、どう……あたしのブルマー?」


 なぜかまつりは顔を赤くしながら、訊ねてくる。


 たぶん、ブルマーの装着感を訊ねられた男は、古今稀な存在だろう。だが、ギネス記録に「世界ではじめて女子のブルマーを穿いた感想を訊ねられた男」とか記録されたら、もうお婿にいけないっ。


「……ああ。ジャストフィットだ。ちょっと、きついかもだが」

「そ、そりゃあ……女子と男子で体の構造がちがうからしょうがないじゃない」


 まぁ、そりゃそうだ。どこの構造がちがうかとかは俺は突っ込まない。これ以上墓穴を掘りたくない。


 続いて、Tシャツを脱いで、『2―1一本木』とプリントされた体操着を着ることにする。


(う、ううっ……?)


 ああ、体操着からまつりのいい匂いが。シャンプーの香りだらふか?

 ちょっと気を抜いてしまえば、クンクンと匂いを嗅いでしまいそうだ。

 ちくしょうっ、なんで女の子って、こんないい匂いがするんだ……!


(はぁはぁ……お、落ち着け。俺は、ナニ一つとしてやましいことをしていない。ただ、これから体育の授業を受けるために、服を着替えているだけだっ!)


 精神を統一して、雑念を振り払う。そして、なるべくまつりの匂いを意識しないようにして、ひと思いに体操着を着てしまう。


「……ふぅ。か……完了だ」


 ついに、俺はやり遂げた。

 女子の体操着とブルマーを穿くという荒行をやり遂げたのだ!


「まったく、時間かけるんだから」

「早いのも問題ですが、遅いのも嫌われますよ?」


 なんの話だ。ともかく、俺が心で激闘を繰り広げて着替えをしている間に、あずささんもひなたちゃんも着替え終わったようだ。見事な体操着&ブルマー姿になっている。


 都市部ではハーフパンツが主流となって、ブルマーは絶滅したも同然だが、限界村はちゃんと伝統を守っているようだ。素晴らしい。


 ……一瞬、脳裏にひなたちゃんのじーさんがブイサインをしている姿が浮かんだ。

 まぁ、それはいい。とにかく、着替えたからには、やることはひとつ。


「それじゃあ、校庭に移動しますか」

「うぇーい」

「ひなた、体育大好きですっ」


 体育館とかないもんな。やっぱり、野外か……。まぁ、周りに住宅はないし、俺の恥ずかしい姿を村民に見られる危険はないからいいか……。そもそも過疎だし。

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