ハイパー保健体育の教科書朗読タイム(CV:三月兎ひなた)

「それでは、教科書の19ページを開いてください」

「あの……俺、教科書持ってないんですが……」

「しかたないですね。まつりさん、見せてあげてください」


「うぇーい。ほら、凡人」

「お、おう……」


 そして、見せられたのは、やっぱりというか、なんというか……「おんなのこのからだ」と「おとこのこのからだ」(図解、詳細な解説付き)だった。


「ちょっと待て。これ、小学校五年生あたりじゃないのか、指導要領的に考えて」

「授業中の私語は厳禁ですよ?」

「うぐっ……」


 あずささんから再び睨まれる。


「こほん。それでは、ひなたさん、19ページを音読してください」

「は、はいっ!」


 指名されたひなたちゃんは立ち上がって、目の前で教科書を読みはじめた。


「ええと……だんせいのせーしは、せいそうでつくられます。じょせいのらんしは、らんそうでつくられます。しゃせーされたらっきーなせーしが、じゅせーして、うまくちゃくしょーすると、こどもができますっ! ヤったね!」


 ひどい教科書だった。


 ……教科書を無言でめくって巻末を見てみると、著者は三月兎千広となっていた。って、ひなたちゃんのじーさんじゃねーか! しかも、著者履歴見ると、やっぱり東京帝国大学卒業(首席)とか書かれてる! 脳の無駄づかいだっ! 


「あっ、図解見てるんだから、ひっくり返さないでよ!」

「ああ、わかった……。俺は読まなくても大丈夫だから、返すわ」


 むしろ、こんなの読んでいると頭が毒されそうだ。


「保健体育の教科書の中身が全て頭に入っているとは、とんでもない男ですね」


 あずささんから言われなき誹謗中傷を受けつつも、俺はその授業を耐え続けた。


 ひなたちゃんの舌ったらずな発音で「しゃせー」だの、「せーえき」だの「じいこうい」だの言われると、ぐっと来るものがあるのは認めざるをえなかったが……。


 しかし、単語だけ聞けばアレだが、一応書いてあることは卑猥ではない。あくまでも、授業内容は保健体育を逸脱していなかった。間違いなく、健全図書なのだ……。


「……それでは、授業を終わります。きーん、こーん、かーん、こーん。それでは、まつりさん、号令を」

「うい。きりーつ、きをつけー! れいっ!」


 あずささんのチャイムの口真似に続いて、まつりの号令が続く。これで、ようやく一時間目の授業が終わったわけだ。……長く、長く、辛い時間だった。


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