廃校で女の子たちと学園生活開始! 始まる新たな苦難(一時間目は保健体育)

「それでは、凡人さん、まつり、いってらっしゃい♪」

「うぃい……いってきま~す」

「それじゃ……いってきます」


 こうして見送られて学校に行くというのも新鮮な気分だった。


 我が家には、見送ってくれる人間なんていなかったからな。それに、女の子と一緒に家を出るというのも、得がたい経験だ。姉や妹がいれば、こういう気持ちを毎日のように味わえたのだろうか。羨ましい。


 そして、まつりは相変わらずメイド服姿だった。けっこうお気に入りの姿みたいだ。確かに、似合ってはいる。


 ともかくも、俺とまつりは、その廃校へ向かって歩きはじめる。


 窓から眺めたときも思ったが、周りの山々の緑が、目に優しい。

 まるで自然に抱かれているような、そんな安息を感じる。


 そして、山に囲まれたわずかばかりの土地に、民家と畑が点在している。標高が高いので冷涼な気候だが、蝉が何匹か鳴いていた。


「のどかだな……」


 なんてったって、ほとんど人がいない。車も通らない。


「田舎だかんね……まぁ、だから、人がいなくなっちゃったんだけど」

「そういえば、廃校ってどこにあるんだ?」

「んっと、ちょっと山登ったところ。まぁ、すぐよ」


 そうして、歩くこと五分ほど。俺とまつりは廃校へ辿り着いた。


「ずいぶん古そうだな」

「大正時代に建てられたらしい」


 ハイカラな洋風建築といった風情で、重要文化財のような校舎。

 三階建てで、横幅がけっこう、広い。正面には屋根つきの玄関がある。ちゃんと手入れされているのか、古くはあるが、汚れていない。


「村の規模のわりには、ずいぶん大きいな」

「大昔は、炭鉱あったからね。もう、五十年以上前に閉山したけど」


 その当時は、さぞかし多くの子供たちがこの学校に通っていたのだろう。それに、村ももっと賑やかだったんだろうな。いまの寂れ具合じゃ、想像できないけど。


「さ、入ろ」

「おう」


 俺は、まつりに続いて、廃校の中へ入った。


 当然、外も中も完全な木造作りなので、壁も廊下も天井も木の色だ。都内の学校のコンクリートの灰色に慣れていた身からすると、これも新鮮な気分だった。

 そして、まつりと俺は1の3の教室に入った。


「おはようございます」

「あっ、お、おはよーございますっ」


 そこには、すでにあずささんとひなたちゃんが着席していた。あずささんは巫女服姿。ひなたちゃんは私服。ピンク色の洋服に、下は紺色の短いスカートだ。


 教室内は、黒板、教壇の他は、四つの机が向かい合わせになって置いてある。小学生時代の、給食を食べるときと同じような並びだ。とても懐かしい気持ちになる。


「んじゃ、あんたの席はそこね」


 二人に挨拶を返したところで、まつりから、廊下側の、黒板から遠いほうの席を指し示される。右隣にまつり、正面にひなたちゃん、斜めにあずささんといった位置だ。俺は、指示とおりにその席に座った。


 小学校の頃にはなんとも思わなかったが、こうして女の子と向かい合って座るのって、恥ずかしいものがあるな。年齢によるものだろうか。


「はわっ……なんかドキドキしますねっ」


 俺と目が合ったひなたちゃんが、顔を赤らめて、もじもじしはじめる。うん、やっぱりひなたちゃんはかわいいなぁ。この容姿から問題発言をアグレッシブにしまくるのが信じられないほどに。


「あー、こほん……。それでは、ホームルームをはじめます。まつりさん、号令お願いします」


 あずささんがこちらを一睨みしたあと、まつりに促す。すると、


「うぇーい。……起立!」


 まつりがいつもよりもさらに気合の入った声で号令をかける。それに合わせて、みんな立ち上がる。慌てて、俺も起立した。


「気をつけー! 礼っ! 着席!」


 意外とそういうことをしっかりやるんだな……と思いつつ、俺も皆に倣って、礼をして、着席する。


「えー、それでは、出欠をとります。一本木まつり」

「うぇ~い」

「ふざけてると、欠席扱いしますよ?」

「あー、わかったわよ……はい!」


「よろしい。三月兎ひなた」

「はいっ」


 年長のあずささんが学級委員兼教師役みたいなものだろうか。女の子たちの出欠確認を行っていく。そして、


「田々野凡人」

「えっ」


 俺の名前が呼ばれて、ついきょどってしまった。すると、あずささんが俺の顔をじっと見てくる。


「返事は?」

「……はい」


「よろしい。そして、二枚貝あずさは、ご覧のとおり、出席しています。全員集合&転入生一名の四人ですね」


 もしかしなくても、その転入生は俺のことだろう……。なんだか、わけのわからん展開だが……。


 まぁ、ここに来て、わけのわかる展開なんて一つとしてなかった。あきらめよう。


「それでは……自己紹介は昨日したも同然ですから、さっそく授業をはじめましょう」


 授業と言われても、もちろん勉強道具なんて持ってきてないわけだが。


「それでは、最初の授業は保健体育です」


 うん……嫌な予感が……思いっきり、してきた……。


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