第二章『童貞、エクストリームシモネタ授業を耐え忍ぶ』

地獄絵図の惨劇から一夜。そして、学校へ!?

「女の子怖い…………」


 惨劇から一夜。


 俺は、目覚めると、昨夜のことを思い出して体を震わせて、呟いていた。まさか、会った初日にこんな酷い目に遭うなんて……。


 昨日はあれから、俺ももらいゲロしてしまって、阿鼻叫喚の地獄絵図になった。


 もう思い出したくもない。かすみさんのおかげで、着替えからなにから色々と世話してもらったが……。


 ……ハッ! 俺、全裸になったあと、かすみさんに風呂に入れられてたような……? ううっ、しかし、そのあとがよく思い出せない……。


 とにかく。気がつけば、こうして二階の客室用ベッドに、新品のパジャマを着て、眠っていたのだ。


 なぜ、俺が二階にいるのがわかったかというと……窓からの眺めだ。


 遠く、近く、重なるように視界に映じる山々。その鮮やかな緑を見ていると、少しは昨夜の惨劇の記憶も軽減される気がする。


 俺はベッドから降りると、窓を開けることにした。


「……うん。いい空気だ」


 都会ではついぞ感じられない、清涼な大気。なんというか、酸素が濃い気がする。積極的に何回も深呼吸したくなるぐらいだ。


「すぅう……はぁ…………」


 ああ、やっぱり田舎はいいな……。これこそが、俺の求めていた清らかな田舎だ。


「さて、ここでいつまでも深呼吸していてもしょうがないしな……そろそろ一階へ下りるか……」


 俺はパジャマ姿のまま、部屋を出ることにした。


「んっ?」


 昨日は気がつかなかったが、部屋のドアには「凡人さんの部屋」と書かれたネームプレートがあった。プレートの横にはデフォルメされた猫の顔があった。


 これでは民宿に泊まっているというよりも、まるでここに引っ越してきたかのようだ。でも、それは悪くない気分だった。


 この村に呼ばれた理由がアレとはいえ、歓迎されて悪い気持ちはしない。とにかく、昨日のことは水に流そう。吐瀉物なだけに!


 階段を下りて、一階へ。右へ行けば玄関。左へ行けば、まつりの部屋、かすみさんの部屋、食堂、台所、ソファとテレビのある居間、お風呂場がある。なお、居間と食堂、台所は隣接している。


 あー、でも……。どんな顔してまつりと話せばいいんだろうな。あと、かすみさんとも……。そんなことを思い悩みながら、とりあえず居間へ向かう。


「あら、凡人さん、おはようございます♪」


 居間に入ると、向こうの台所からかすみさんに声を掛けられる。エプロン姿だ。昨日とまったく変わらない笑顔を浮かべている。


「おはようございます……昨日は、すみません……」


 最初にゲロを吐いたのはまつりでも、俺だってそのあと思いっきり吐いちゃったんだからな。最悪な客だろう。


「いえいえ、こちらこそ無理に食べさせてしまって申しわけありません……つい、張りきってしまいまして」


 しゅんとするかすみさん。うん。かわいい。この人が三十五歳だなんて、やっぱり、とても信じられない。


「うぅ……おはよう……」


 そのとき、俺の背後から、二日酔いのオヤジみたいに呻きながら、まつりが居間に入ってきた。猫のキャラクターのパジャマ姿だ。


「ああ、おはよう……」


 お互い、ゲロにまみれた同士挨拶をする。特殊な体験を共有してしまったせいで、お互い気まずい。


「ほら、まつり? しゃんとしなさい♪」

「うぇ~い……」


 さすがのまつりも、だいぶ調子が悪そうだ。


 でも、いつも元気な奴が、しおらしくしていると、かわいく思えるものである。でも、昨夜のアレでかなりぶち壊しになった感があるが。


「ほら、朝ごはん食べて、早く準備しないと遅れるわよ♪」


 準備? なにか行くところでもあるのか? そもそも、俺はこの村での滞在中、なにをすればいいんだ?


「ああ、そうだった……学校行かないと!」


 学校? まつりも俺と同じくらいの年齢だから、それは不思議じゃないが……。夏休みなんじゃないのか?


「ほら、まつり。説明してあげなさいな♪」


 頭にはてなマークを浮かべる俺を見て、かすみさんがまつりを促す。


「あー、うん……えっとね、限界村の周囲百キロ以内には高校がなくてさ。でも、村長が国にかけあって、特別にこの村で勉強することで高卒資格が取れるようにしてくれてるの。それであたしとあずささんとひなたちゃんは自主的に勉強してるんだ! でも、一人じゃわからないところとか出てくるでしょ? だから、廃校になった限界小学校兼中学校に週に五日ぐらい集まって、勉強会を開いてるの!」


 なるほど……。そういうことか。毎日遊びほうけているだけなのかと思ったが、意外と勉強熱心なところもあるんだな。というか、国にかけあってそんな特例を引き出せる村長は何者なんだ……実はすごい権力者なのか?


「……というわけで、あんたも今日は学校ね」

「お、おう……」


 まさか、ここに来て、学校に行く羽目になるとは思わなかったが。でも、宿に残っていても暇だろうしな。


「それとも、凡人さん、わたしと民宿で楽しいことをしますか? うふふ……♪ 昨日のお風呂のように……♪」


 そう言って、かすみさんは意味ありげに微笑む。って、ええっ!? 俺、昨日、お風呂でナニされたんだ!?


「ちょ、おかーさん、なにしたのよ!? 凡人はわたし達の獲物なんだからね!」


 だから、獲物言うな! って、本当に俺、ナニされたんだ……!?


「冗談ですわ♪ ただ、あなたの吐瀉物で汚れてしまった体を、洗って差し上げただけですわ♪」


 なにぃ。やっぱり、俺、かすみさんに体洗われてたのかっ。恥ずかしい。もう凡人、お婿にいけない……。


「ううっ……昨日は、しかたないじゃない。おかーさんが、舟盛りなんて作るから!」

「やっぱり、女体盛りのほうがよかったかしら……?」


 やっぱり、この人はズレている……。ある意味、まつりよりもすさまじい。


「ま、まぁ……俺は、昨日のことは気にしてませんから」


 ショッキングではあったが……。


 ってか、この話はもうやめだ、やめっ! わざわざ惨劇やアレなシーンを思い出すことはない。そんなことをして誰が悦ぶというんだっ! 女の子のゲロで悦ぶって、あまりにも上級者すぎだろ!


 その後、軽く朝食を食べて(昨日の今日なので食欲なんてあるはずがない)、俺とまつりは着替えて、民宿を出ることにする。


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