舟盛り攻略と初体験(※●ロ注意)
「じゃ、いっただっきまーすっ!」
パン! と勢いよく手を合わせるまつり。よし、いまは色気より食い気だ!
俺も食事のときぐらいは、ゆっくりと楽しみたい。
「では、いただきます」
「どうぞ、召し上がれ♪」
俺も手を合わせて、食事をはじめる。
まずは、そうだな……。舟盛りの刺身を食べるか。まつりは、まぐろの刺身を一気に五つも箸で挟んで、自分のところに持っていっているが……。俺は、鯛を一ついただこう。
俺は鯛の刺身を軽くしょうゆにつけて、口に運ぶ。
コリコリした歯ごたえに、淡白でありながら深い味わい。しょうゆとの相性もいい。実に、美味だ。というか、こんなうまい刺身、いままでに食べたことがない!
「お口に合いますでしょうか?」
やや、心配そうな表情でかすみさん。
「すっごいおいしいです! びっくりしました」
こんな山の中なのに、おいしい刺身が出てくることがびっくりだ。
「よかったです♪ 親類が山を越えた向こうの漁港で働いているものですから、おいしいお魚をたくさんいただけるんです♪」
なるほど。合点がいった。こんなにおいしいのなら、膨大な量の刺身でも、全部食えるかもしれない。
「おかげで、わたしなんか山にいながら毎日魚責めにあってるんだから!」
ぷりぷり怒りながら、まつりは豪快に刺身を五切れほど口の中に放り込む。まぐろもブリも鯛も一緒くただ。見れば、鰻の蒲焼ももう三分の一ぐらい食べている。ずいぶん健啖だ。早食いにして大食い。よくこれで太らないものだ。
って、俺も食べないと。まだまだ舟盛りの刺身は大量にある。口を動かす前に、箸を動かさねば。
そうして俺は、舟盛りの刺身と、鰻の蒲焼と、とろろ芋と、ほかほかご飯となめこの味噌汁と格闘した。
そして、二時間ぐらい経ったろうか……。
「…………うぅ」
ようやく、舟盛りの中の刺身がなくなった。主に、まつりの活躍に負うところが大きかったが。俺も十分に食べた。おいしかったけど、やはり、きついものがある。
「もー、だらしないなー。男なんだから、もっと豪快に食べなさいよ! おかわりしまくりなさいよ!」
「いや、お前がすごすぎるだけだろう。大食い大会に出られるレベルだぞ? むしろ、チャンピオンを狙える」
あの刺身を平らげて、なおかつ、ごはんを三杯も食べやがったからな……。まつり、お前がナンバーワンだ。
「ぐるじい……」
俺の胃の中では、いま頃、まぐろとサーモンと鯛とブリと鰻となめこが、とろろ芋の海で仲良く泳いでいることだろう。……うぷっ。そんな想像したら、本当に気持ち悪くなってきた……。
「ちょ、ちょっと横になって休んでもいいですか……?」
もう立ってるのも辛い。できれば、ベルトを緩めてしまいたい。
「あらあら……♪ まつり、凡人さんを介抱してあげなさいな」
「介抱? ええーと……」
「と、とにかく横になれるところに……」
「了解。よっと……」
俺はまつりに支えられるようにしながら、食堂を出て、「まつりの部屋」というネームプレートがある部屋の前に連れてこられた。もしかしなくとも、まつりの部屋だろう。
しかし、いまは委細構ってる場合ではない。二階の客室まで移動するとしたら、階段を昇る振動でどうなるかわかったもんじゃない。
ガチャッとドアが開けられて、依然としてまつりに肩を貸されたまま部屋に入っていく。
女の子なのでピンクっぽい部屋を想像していたが、水色っぽい清潔さを感じさせるカラーの部屋だった。意外だ……。ドドメ色でも、驚かなかったのだが。
「ほら、ベッドに横になって」
「ああ、すまん……」
俺は、そのまままつりのベッドに寝かされる。
「うんと……ベルトとか緩めたほうがいいよね?」
「あ、ああ……」
って、待て。それはちょっと待て。女の子の部屋で、ベッドの上で、ベルトを緩める? それはいかんだろ。童貞紳士的に違反行為だろ。
「ちょ、待っ」
俺が制止する前に、まつりは俺の股間に手を伸ばして……いや、ズボンに手を伸ばして、ベルトを緩めはじめた。
「う、ううっ……?」
下腹部で、もぞもぞと動くまつりの両手。そして、この体勢で見るメイド服姿のまつりの顔や胸元は、(まな板とはいえ)扇情的である。谷間がないだけにブカブカで、下着が見えてしまいそうだ。
って、いかん……! こんなの紳士じゃない! 見てはいかん。まつりはいま、俺のことを介抱してくれているんだぞ?
カチャカチャ……。
その間にも、どこか艶かしい音がして、ベルトが緩められていく。まつりのほうを見ないように天井を向いたが、こう、音だけというのも妙にエロティックだ……。
こ、ここは我慢だ。……もし、ここで不肖の息子が起き上がってしまったら、最悪すぎる。俺の評価が紳士から変態に暴落だ。
俺は、戦っていた。素数を数え、羊を数え、歴代足利十五代将軍を思い出し、来月発売のラノベの新刊のラインナップを全て思い出すという難行を成し遂げて、ようや
くのことで、心を落ち着けた。
「どう? 楽になった?」
「おおうっ」
すぐ目と鼻の先に、まつりの顔が近づけられる。もう、ほんと息が吹きかかるぐらいだ。……お互い、魚くさいだろうけど。
しかし……こうして、目の前に女の子の顔があると、ドキドキするっていうレベルじゃない。やっぱり、こいつ……すごい美少女だ。
不意に、俺の心に思ってもいなかった願望が芽生える。
それは、――キスしたい。
いやっ、だって、こんな間近で、まつりの唇があったら、そう思うのは自然な感情だっ! だって、俺だって一応は健全な青少年男子だもん!
しかししかし、そんなことをするわけにはいかない。だって、そうだろ? 取り返しのつかないことになるぞ? 半殺しにされて、民宿から追い出されるかもしれないぞ?
だが。この村ではなにをやっても許されそうなのも確かだ。まつりだって、俺と子作りを願っていたし、付き合えとも言っていた。ならば、目の前の果実のように美しい唇に口づけたって、大丈夫なんじゃ……?
「ねぇ……」
まつりも同じことを思ったのか……。俺のことを、瞳を潤ませ、せつなげな表情で見つめてくる。
「まつり……」
「凡人……」
見詰めあう俺たち。
これは、いよいよ……俺のファーストキスタイムが来るのかっ!? そして、そのまま流れで童貞喪失タイムが――!
「吐きそう」
「は?」
まつりから出た言葉を、俺は理解できなかった。
……。え? はきそう? ナニを穿く? パンツか? え? 漢字ちがう?
「うぷっ」
ああっ……穿くじゃなくて、吐くね。なぁーんだ。そっかー。うん。え? いや、おい、待てっ!?
「魚(うお)おぉえええええええええええええええええええええええええええええ!」
「魚(ぎょ)ょええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
こうして、俺は女の子からゲロを顔面に浴びせられるという世界でも稀な初体験をしたのだった。こんな初体験したくなかった!
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