まないた!~驚異の舟盛! 驚愕の女体盛り?~
やがて、味噌汁のいい匂いがしてきた。どこかホッとする家庭の香り。俺にとっては、馴染みがない匂いのはずなのだが、なぜかホッとするから不思議だ。味噌は、日本の心の故郷なのか。
「それでは、あと少しでできあがりますから、まつりとテレビでも見ていてください」
「いえ、なにか手伝わせてください」
ただでさえ交通費も宿泊費も無料なのだから、なにか労働をしないと申しわけない。
「……それでは、お箸をお願いいたします♪」
ザ・使えない人間専用の仕事「箸を並べる」。だが、まぁ、なにもしないよりはマシだろう。俺はかすみさんから箸を受け取ると、テーブルの上に並べ……って、待て。誰がどの箸だ。
「あー、茶色がおかーさんで、青いのがわたしで、ピンクがあんたの」
俺がピンクかよ……。どういう選択だ。
まぁいい。俺は芸術的な配置で箸をしっかりと並べる。
見ろっ! この机から遠すぎず近すぎず、絶妙の位置に並べられた箸を!
ひとり悦に入りながらも、俺は手持ち無沙汰に食事の準備ができるのを待つ。
「うー、お腹すいた」
まつりは机に突っ伏して、ぐったりしている。メイド服姿なのに、だらしない。
やがて、かすみさんの料理が終わったようだ。
「お待たせいたしました♪ ほら、まつり。お料理並べるの手伝って♪」
「ふえぇ~い」
「俺も手伝います……って!」
台所に行って、俺は絶句した。
人間が一人ぐらい乗れそうなほどの木造の舟に、刺身が所狭しと並べられている。あとは、お櫃に入ったご飯と、味噌汁。とろろ芋、鰻……。
「うわっ……今夜の料理は舟盛りかぁ……」
まつりもちょっと引き気味だ。
「うふふ♪ ちょっと張りきりすぎてしまいました♪」
軽く三十人前以上ありそうだが……。まさかこれ、三人で食べるのか……?
「あら、もしかして凡人さん、お刺身はお嫌いですか?」
「いえ、むしろ好きなほうです……ただ、ちょっと量が多いですね……」
これから大食い選手権でもやるつもりだろうか。
「うふふ♪ それでは途中で飽きてきたら趣向を変えて、まつりの体で女体盛りにでもいたしましょうか?」
「ぶっ! ちょ、ちょっと、おかーさん!」
「あなたの胸はまな板だから、丁度いいんじゃないかしら♪」
「なっ!? も、もうっ! 人が気にしていることをー!」
確かにまつりは貧乳だ……。メイド服の上からでもわかる。って、やっぱりかすみさんも相当アレだ。シモネタ大好き人間だ。
「うふふ♪ それとも、凡人さん……わたしの体のほうがいいですか?」
流し目で、俺のほうを見てくるかすみさん。そのセクシーさに、俺は思わず女体盛り(かすみさんバージョン)を想像してしまう。
『……うふふ♪ どうですか? おいしく召し上がれますか?』
まつりとちがって、起伏のある体。そこに並べられる新鮮な刺身の数々。
……うん。確かに、まな板に刺身を並べるよりは、遥かに魅力的だ。
「ちょっと、なに見てんのよ!」
ついつい、まつりのまな板と見比べてしまっていた……。ほんと、まな板だな。
「ううっ、みんなして、まな板まな板って……。ちょっとは膨らんでるんだから!ちゃんと見てみなさいよ!」
「って、待て待て! 脱ぐな!」
メイド服を脱ごうとするまつりを押し留める。
「うふふ♪ まつり、凡人さんに揉んでもらったらどうかしら? きっと、すぐに大きくなるわ♪」
だああ! だから、なんでこの村の住民はシモネタ大好きなんだ! 実の娘に、そんなこと話すか普通! もうすっかり俺の顔は真っ赤だ。というか、まつりの顔も。
「ううっ……そっかぁ……。揉んでもらえば、大きくなるのかぁ……」
まつりから不穏な呟きが聞こえてきているが、無視する。
まさか、そうかそうかよしよしわかった揉んでやろう! とか言うわけない。そんな気軽に、婦女子の胸を揉めるか!
「うふふ♪ それではお食事にしましょうか。ほら、まつり。舟の向こうを持って」
「う、うんっ!」
「あっ、俺も持ちますよ!」
まずは、三人がかりで舟盛りをテーブルに乗せる。あとは、ご飯の入ったお櫃に、なめこの入っている味噌汁に、鰻の蒲焼に、大量のとろろ芋……。
ご飯を盛ると、かすみさんは俺に向かってにっこりと微笑んだ。
「しっかりと精力をつけてくださいね♪」
……あえて俺は気がつかないふりをしていたのだが……やっぱりそれが目的か、このメニュー。
「足りなかったら、特産のすっぽんまむしドリンクもありますわ♪」
「いえ、十分です……」
ほんと、この人もかなりアレだ。普通、自分の娘に悪い虫がつかないようにするのが母親の役目だと思うのだが、率先して、焚きつけようとするとは……。
そんなに、限界村の人口減少問題は切実なのだろうか。いや、もうこれは、そういう問題じゃないんじゃなかろうか。もうこれは、この村人の根源的な気質だろう。
俺も心してかからないと、本当に童貞を喪失してしまいそうな気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます