新たなる童貞の危機~バブみと色気のリーサルウェポン~

「ただいまー!」

「お、おじゃまします……」


 元気よく中に入るまつりに続いて、俺も中に入ろうとする。しかし、クルッとまつりは俺のほうを振り向いてくる。


「おじゃまします、じゃ、よそよそしいでしょ? ただいま、にしなさいよ」

「ええっ、そんなもんか……?」

「そうよ。だって、これから五日間、あんたの帰る家は……ここなんだから!」


 そう言って、まつりは顔を赤くして、そっぽを向いてしまう。

 改めて、そう言われると……なんともいえない気分になる。


 女の子と一緒の家に帰ることに、なんとなく気恥ずかしさを感じてしまう。民宿だから、客がここに帰ってくるのは当然のことなんだろうけど。


「じゃあ……ただいま」

「うん。それでよし」


 まったく、これじゃあまつりが俺の教育係みたいじゃないか……。まぁ、なんだかんだで悪い気はしないけど。


「あら、凡人さん、まつり、おかえりなさい」


 俺たちの声を聞きつけたのか、エプロン姿のまつりの母親が出てくる。最寄の駅から限界村に来るときに車を運転していた人だ。


 けっこう若く見えるので姉かとも思ったのだが、車内でまつりが「おかーさん」と呼んでいたので、母親だと判明した。名前は確か、「一本木かすみですわ」と紹介された気がする。ちなみに、黒髪ロングがすごく似合ってて胸が大きい。


「凡人さん、おつかれでしょう? お風呂になさいますか? それとも、お食事にしますか?」


 先ほど、温泉には入ったからな……。まさか、まつりも含めた三人の女の子と一緒に入ったとか言ったら、どうなるんだろ。問答無用で叩きだされる? いやでも、かすみさんもこの村の住人なのだから、そこのところはわかっているのかもしれないが……。


「さっきみんなで温泉入ってきたから。先にご飯食べよーよ」


 まつりはまったく躊躇することなく、温泉のことをしゃべっていた。……さて、かすみさんの反応は――。


「あらあら、もうそこまで? うふふ、まつりも積極的ね♪」


 やっぱり、この人も限界村住民だった! 常識人が誰もいない。孤軍奮闘か俺は!


「でも、すごいガード固いっていうか……三人がかりでも落とせなかった……」


 だから落とす言うな。俺は乙女ゲーの攻略対象じゃない。


「あらあら、凡人さん……もしかして、女の子はお嫌いですか?」


 いや、なんてことを訊いてくるんですか、かすみさん。そんなおっとりした優しいお母さんタイプなのに、いきなりそんなことを訊かないでくださいっ。


「え、いや……その……」


 思わず、俺は口ごもってしまう。女の子が嫌い=BL大好きと思われても困る。

 俺はまだ妹尾くんにそこまでの気はない。


「それとも……若い子が苦手なら……まずはわたしがお相手しようかしら?」


 そう言って、かすみさんは俺のことを熱っぽくみてくる。い……、いかんっ。なんだこの色気は。俺に年上趣味はないはずだが、こんな綺麗な人に、誘惑されたら!


「って、おかーさん! わたしたちの獲物をとらないでよっ」


 もはや攻略対象ですらなかった。肉食動物に食われる草食動物か俺は。


「うふふ♪ ともあれ、凡人さん。この村での生活、楽しんでくださいね♪」

「は、はい……」


 確か三十五歳だって話だったが、やっぱり二十代前半にしか見えないよな……。完全にまつりの姉で通用する。そんなことを思いながらも、俺は美人そのもののかすみさんに頷いていた。


「もうっ、なに顔赤くしてんのよ!」

「いてててっ」


 まつりから脇腹をつねられた。こんな形でヤキモチを焼かれるとは。これじゃあ、民宿にいる状態でも、気苦労が絶えない。


「それじゃあ、ご飯にいたしましょう♪」


 かすみさんに続いて、俺とまつりも廊下を進んでいく。


 民宿は二階建てで、一階には食堂とお風呂と、一本木家の居住空間。二階が客室で、全四室だ。

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