競争率0だからハーレム確定!

 ともあれ。ようやく俺は露天風呂に浸かることができた。


 乳白色の温泉。匂いは……ふつうは硫黄とかそんな感じの匂いがする気がするのだが、なんというかミルクっぽいというか、乳くさいというか……まぁ、深く考えまい。


 三人は、俺を取り囲むようにそれぞれ湯の中に体を下ろしている。脅威の白濁率なので、裸体は見事に隠されている。だが、それがいい。それで、いい。もうこれ以上俺のピュアな童貞心をもてあそんで欲しくない。


「いい湯だな」


 温度は四十二度ぐらいか。この村へ来るまでは、えらい長旅だった。それなのに、いきなり神社で監禁されて縛られて性的な意味で迫られまくったのだから、俺の心身の疲労は極地に達していた。


「温泉、気に入った?」


 目の前のまつりから訊かれる。


「ああ、毎日温泉に入れるって素晴らしいな」


 最近では都内でもスーパー銭湯風の温泉入浴施設はあるが、田舎で入る温泉は格別だ。視界に広がる山々の緑、耳の鼓膜に心地よい渓流のせせらぎ、鳥の鳴き声。まさに別天地といっていい。


 うん……そうだ。これこそが、俺の求めてやまなかった田舎だ。都会のように、あくせくと早足で動きまわる人はいない。人身事故で電車が止まることもない。喧騒とは無縁。殺伐とした日常からの解放。どこまでも長閑で、ここだけ時間が止まったように昔からの生活が続いているかのよう。その悠久の天地の間で暮らしを営めるということは、それだけで最高のぜいたくではなかろうか。


「うん。やっぱり、限界村っていいところだな。なんというか、雰囲気がのんびりしていて、解放感がある。都会とは大ちがいだ」

「そうなんですか? ひなた、村からほとんど出たことがないので、都会の暮らしが想像できません」


「……都会はあくせくしてて、つかれるところだ。常に人間がそこらへんに溢れているからな。こんなふうにのんびりできない。まぁ、ひなたちゃんのようなかわいい子がいたら、男が群がってきて放っとかないよ。俺とは比べものにならないほどのイケメンがいっぱいいるし」


 この村では若い男は俺だけなので、競争率は0。競争が成立しない。もし三人が俺と同じ都会に住んでいたら、俺のことなんて見向きもしなかったろう。


「で、でも……わたしは、凡人さんがいいですっ」

「えっ、なぜに」


 まだ会ったばかりだというのに、そこまで俺を好きである理由がわからない。顔もよくないし、性格もご覧のとおりの煮え切らない奴だ。


 勉強や運動だって、得意じゃない。でも、ひなたちゃんは、俺のことを真っ直ぐに見つめて、こう言った。


「運命を感じますっ」

「う、運命……」

「なんでしょう、凡人さんを一目見たときに、体にビビビッと電流が走ったというか……凡人さんと、きっとサッカーチームを作る気がしたんですっ!」


 やっぱり、ひなたちゃんは電波が入っていた。そこが、かわいいといったら、そうなのかもしれないが。

 そして、続いてあずささんが口を開く。


「……ちなみにわたしは、おみくじできめましたが」

「お……おみくじ?」


 そんなもので決めていいのか?


「……いま、心の中でおみくじの信頼性を疑いましたね?」

「え、い、いや、その……」


 どうもあずささんにはこちらの心を見透かされてしまう。読心術でも心得てるのか、この巫女さんはっ。


「我が子種神社のおみくじの的中率はかなりのものです。千年以上ある伝統を舐めないでください」


 こと神社になると、ずいぶんと強硬になるあずささんだった。なんか、こだわりがありすぎて、怖いというか。


「えっ、みんな一応、コイツを好きになる理由ってあったの?」


 そして、なぜかまつりがうろたえていた。って、なんの理由もなく俺と子作りしようとしてたんかい!


「村の風習だしなー、ぐらいにしか思ってなかった!」


 ある意味で、すごい素直なのだろうか……。


 なんにしろ、この三人は都会で暮らしたら、とんでもないことになりそうな気がしないでもない。都会には悪い男も多いからな……。まぁ、冴えない非モテ男の俺に言われたくはないだろうが。


「そろそろのぼせてきたし、上がろうか……」


 標高が高いこともありいくらか涼しいのだが、直射日光を浴びながら温泉というのは長時間は無理だ。


「やっぱり男の子って、お風呂短いんだね?」

「ひなた、あと六時間ぐらいは粘れそうですっ」

「しかたないですね。それでは客人を立てて、これぐらいで勘弁してあげましょう」


 三者三様の反応を示しつつ、風呂から上がる。特に、タオルで隠す気配がないので、俺は三人の裸体を見ないようにしながら、脱衣所へ戻った。


 ……もちろん、心の奥底で見たいとは思っている俺もいることはいる。

 しかし、なによりも俺は童貞であり紳士なのだ。非モテ人生を歩むうちに身に着けた美学とでも言えるだろうか。我ながら、難儀な性格だ。

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