ハイパー脱衣タイム!~大英博物館と春画とコミケ~
まず最初にやってきたのは、村外れにある温泉だった。神社からは徒歩五分ほど。
渓流沿いの大露天風呂といった風情で、湯気が朦々と上がっている。旅行誌の巻頭カラーを飾れそうなほどに雰囲気がある。
「ここが村の共同浴場。ほとんどの村民が毎晩来てる。まぁ、村民人口は十人ちょっとしかいないけどね!」
メイド姿のまつりがガイドをしてくれる。そこで、俺は最初から気になっていたことを質問することにした。
「疑問に思ってたんだが、なんでメイド服着てるんだ?」
田舎でメイド服ってのも、なかなか浮いている。まぁ、人がいないから、奇異の目で見られることはないだろうが。
「ん……そ、それは…………。……そのほうが、喜ばれるかなって思って」
明朗快活な性格が一転、急に顔を赤くして、しおらしくなってしまう。くっ、ギャップ萌えといおうか……。こういうのに俺、弱いんだよな。くそう。
「……へ、変だったかな?」
不安そうにこちらをうかがうまつりを見て、不覚にもときめいてきてしまう。狙ってやってるんじゃないだろうな?
「……に、似合ってると思うぞ」
そう俺が答えると、まつりの表情が、ぱあっと明るくなる。
「ほ、ホント!?」
「う、うむ……、か、かわいい……と思う」
「……そ、そう? えへへ……照れるなぁ」
くすぐったそうな表情になるまつり。うん、やっぱり女の子の笑顔って素晴らしい。しかし――
「……なにわたしたちの目の前で堂々といちゃついてるんですか?」
巫女姿のあずささんからジト目で見つめられ……いや、睨みつけられる。
「ううっ……このままではサッカーチーム設立の夢がっ……」
そして、ひなたちゃんは涙目で、恨めしそうに俺のことを見てくる。
「い、いや、その……。うん。二人もかわいいよ。ひなたちゃんは守ってあげたくなるかわいさだし、あずささんの巫女服姿、まさに和風美人って感じで、ぐっとくる」
女の子三人の機嫌を同時に取るなんて人生はじめてだ。実はハーレムって、苦労が多いんじゃなかろうか?
「ほ、本当ですかっ、なら、早くサッカーチームをっ!」
「わたしが美しいのは当たり前じゃないですか」
やっぱりこの二人は手ごわい。単純なまつりより、よほど厄介だ。特に、すぐに性的な方面に持っていくのはなんとかして欲しい。
「ちょっと、二人の相手してないで、あたしを見なさいよ!」
そして、まつりりはまつりりでヤキモチを焼いて、俺に突っかかってくる。ああ、ハーレムって、なんて面倒くさいんだ!
「待て待てっ。俺は一人しかいないんだぞ。いっぺんに三人を相手できるかっての!」
「甲斐性なしですね」
「複数で……ですか?」
……くそう。ツンデレメイド服に、毒舌巫女に、危険発言ロリを相手に、凡人たる俺はこの先いろいろな意味で体がもつのだろうか。ちょっとは自重する心も持ってほしい。
「……うんと、せっかく温泉に来たんだし、ひとっ風呂、浴びてく? いま、誰もいないみたいだし」
そんなことをさらりと提案してくるまつり。
……くっ、散策開始七分にして、また俺の貞操の危機か!
いや、でも……まあ、風呂入るだけだもんな。そうだ。問題ない。ノープロブレムだ。大丈夫だ、たぶん。いや、すごいヒシヒシといやな予感はしてるんだが。
「……じゃ、せっかくだし入るか」
思考停止しつつも、なにかを期待している俺がいることは、認めざるをえない。だって、俺も男の子だもん!
「なんだかんだいって、満更でもないじゃないですか」
くうっ、あずささんの言葉を否定できない。
「ぬるぬるしたいんですか?」
だから、ひなたちゃんは、こう、もっと見た目相応の発言と発想をしてください、お願いします……。
「で、脱衣所だけど。せっかくだから、あんたも女子のほうで着替えなさいよ」
なにがせっかくなのかわからないのですが……。
「きょ……拒否権は?」
「そんものあるわけないじゃないですか」
くそっ、俺の人権はどこへ行ってしまったんだ。
で、でも……得がたい経験ではある。女子の脱衣所で一緒に服を脱ぐ経験なんてしたことのある人間は、そうそういないだろう。
そうして、俺は木小屋のような脱衣所に一緒に入った。そこはふだんからきちんと掃除されているのか、清潔感が漂っている。
「それじゃー、脱ぐかあっ!」
そう言って、まつりがメイド服のスカートに手をかける。一切、躊躇がない。
「お、おおううっ!」
紳士である俺は反射的に、目を逸らす。
「ひなたの……見ます?」
振り向いた先では、ひなたちゃんが下着姿になっていた。胸がぺったんこなので、ブラジャーはしていない。
「ノ、ノォオオオ!」
ゾンビに襲われる外人のような絶叫をして、俺は首の可動域いっぱいに顔を背けた。
「なに騒いでるんですか?」
そして、顔を背けた先には一糸纏わぬあずささんがいた。
「く、うううううっ!?」
俺は天井を向いた。……股間が、ではない。顔を、だ!
だがしかし、天井には触手ものの春画が描いてあった。
……あれだ。ネットとかでもたまに話題になる、葛飾北斎の描いた、タコが触手で女の人に、ゑろゐことをしている絵だ。
くそっ、どこまでシモネタ大好きなんだこの村は!
……でもまぁ、春画は大英博物館で特別展を企画されたり、ゴッホやモネなどの印象派画家に影響を与えたりと、けっこう世界に大きな影響を与えたりしている。なお、大英博物館で催された「大春画展」(2013年10月~2014年1月開催)では9万人近い人が訪れ、入場者の6割近くが女性だったという。つまり、女性もけっこうシモネタが好きなのだ。そういうわけで、世界に誇ろう日本の春画。
おそらく現代のコミケに江戸時代の春画魂は引き継がれている。HENTAIからTENSAI的な芸術は生まれるのだ。性欲あなどりがたし。アメリカの歴史ある雑誌『ライフ』の企画「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」で、日本人として唯一選ばれたのは葛飾北斎である。その偉人が、春画を描いていたという事実をどうか忘れないでほしい。
……。脱線した。
ともかく、衣擦れ……というか、メイド服とか下着とかを脱ぐ音を聞きながら、俺はただひたすらに、ゑろゐ絵を見上げ続けた。ああ、これがジャポニズムか!
「……脱がないんですか?」
「ひぅうううう!?」
唐突に、あずささんに耳元で囁かれて、情けない声を上げしまった。
「ほら、ちゃっちゃと脱ぎなさいよ!」
そして、まつりが怒声を発しながら、俺のシャツに手をかける。
「下は、ひなたが脱がしますね?」
「ひ、ひぃぃいいいいいいっ!?」
されるがまま、美少女三人に服を脱がされるという恐怖体験を味わう。
絹のようにスベスベした手で、体のあちこちをまさぐられて、もてあそばれる。 そんなはじめての鮮烈な感覚に……徐々に凡子は、恐怖とはちがう、甘い疼きを認めざるをえないのだった……。
「う、ううっ……も、もうっ……お婿にいけない……」
穢されてしまった清純ヒロインのような台詞を口にしつつ、俺は木製の脱衣ロッカーにしなだれかかった。
「まったく、てこずらせるんだから!」
「はふぅ……凡人さん、女の子みたいな声を出して……かわいかったです♪」
「口では嫌がってても、体のほうは正直ですね」
……鬼畜や。あんたら、ぐうの音もでないぐらい鬼畜や。
きっと、姉妹が五人いるクラスメイトの妹尾くん(仮)が女性恐怖症になってしまったのは、こんなことがあったからや。女の子怖い。女の子えげつない。
「まったく、だらしないなー! 男だったら、ここであたしたちを押し倒すぐらいしなさいよ!」
「だ……だって、俺、草食系だもの」
「で、でも……凡人さんのは、とてもたくましかったですよ?」
だから危険発言を惜しげもなく口にするのは本当にやめよう、ひなたちゃん!
「……まったく、草食系が聞いて呆れますね。なんなら、もう一度、体のほうに聞いてみましょうか?」
「か、勘弁してください……」
かろうじて、口を開く。俺の心の中には、彼女たちへの明確な恐怖感が植えつけられてしまった。
しかし、これはほんの序の口だ。だって、俺まだ服を脱いだばかりだ。まだ浴場にすら達していない。もちろん、別の意味でも達してない。
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