青結晶の洞窟⑰

「困ったことって何だ?」


 道を進みながら川蝉は八雲に質問を投げかける。


「ボスはね、言ってしまえばダンジョンにとってのコアのような存在なの。魔法師メイジで言えば左のね」


 コアが壊れれば魔力を持った者は等しく死ぬ。それはダンジョンでも言えるわけだ。


 八雲は言葉を続ける。


「だからね、ボスは基本的にダンジョンの最奥にいるものなの。『ボスの間』とも私達の中では呼ばれているわ。それでここからが本題よ。私はもうこのダンジョンの一番奥まで行ったの」

「一番奥ってわかるのか?」

「ええ。ボスの間のあるフロアは大部屋が一つだけだから。問題はそこにいるはずのボスがいなかったのよ」


 いるはずの場所にいない。

 それは八雲にとってもかなりのイレギュラーだったらしい。


「つまり、別のフロアにいるということか?」

「前例は少ないけど、それしか考えられないわね」


 八雲は自分のタブレットを操作して、できそこないの迷路のような画面を出していた。


「たぶん貴方と私のまだ行っていない場所にいると思うの」

「それで俺がちょうどよかったのか」

「そう。ここのダンジョンは狭い方だけど、それでも隈無く探したくはないわね」


 虱潰しらみつぶしに探せば恐ろしく時間がかかることは川蝉にも予想はついていた。その間に移動されては適わないに決まっている。


「そういうことなら協力する。ただ戦闘には参加させて欲しい」

「いいわよ。私の目的もボスを倒すことだけど、貴方と違って別に自分で倒したいわけじゃないから。じゃあちょっと貴方のタブレットを出してくれない?」


 川蝉は言われた通りにポケットからそれを出した。


「ちょっと貸してくれるかしら」


 手を差し出す八雲に、川蝉は渡す。


 八雲の方は慣れた手付きで、それを操作し始めた。そして次は自身のものまで出して操作をする。


「ありがと」


 大した時間もかからずに終わったらしく、川蝉の手元にタブレットが帰ってきた。

 そこにはジグザグの黄色いラインが入った画面が表示されている。


「何をしたんだ?」

「マップよ。貴方が探索して得たマップの情報と私のそれを送り合ったの。これでこのフロアについての情報はかなり集まったわ」

「そんな機能があるのは知らなかった」

「今回は経験者が先導する予定だったから、教える前に死んでしまったのね。それにボスにたどり着くルートは一つじゃないから、適当に進んでいても案外たどり着くものよ」


 川蝉はタブレットの画面に視線を向ける。


 最奥に続く階段の表示を見つけた。言われてみれば、そこに行くルートはいくつもあり深く考えていなくても行けそうではある。


「あとはまだ行っていないルートを探せば、出会えるかもしれない」


 途絶えた道を目指して、二人は歩くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る