プロローグ 転移
電車は減速していき、そして完全に停止した。そのタイミングでドアが開く。
川蝉は電車から降りて駅のホームに立った。
トランスポーター――駅の名前らしきものが看板にどうどうと掲げられている。
どうやらここが終点らしい。とは言え駅は立川とここの二つしかなかったが。
そしてホームの終わりにまた下りのエスカレーターがあった。どうやらそこ以外に道はなさそうなので、それに足を踏み入れる。
また長いエスカレーターだった。
オレンジ色の照明が等間隔で景色を彩っている。
そしてようやく到着点が見えた。
蛍光色のグリーンに発光する不可思議な床が見える。長いエスカレーターを降りると眼前にあった透明の自動ドアが開いた。
中に入るとそこもまた異様な光景だった。
仄かに光るグリーンの床、壁、天井。正面には壁一面、大きなモニターに現在時刻が表示されている。
床は真ん中に十字のラインが入っており、四つの区画ができていた。
これがトランスポーター部屋なのだろう。部屋にはすでに
「キミで最後のようだな」
その中で一人の女性が川蝉に話しかけてきた。
大人っぽい女性で、長い髪を栗色に染めている。それに立ち振る舞いがなんだか宝塚にでもいそうな男前なのが印象的だった。
「私は京葉奈々だ。ちょっと時間がないからこっちにすぐ来てくれないか」
京葉に言われるがまま部屋の端に川蝉は案内される。
そこには高校生くらいのニットを被った青年と、そして驚いた顔をした女子がいた。
「あ、さっきの!」
更衣室ではち合わせた七瀬と言う女子だった。
都合がよかったので川蝉はジャケットのポケットから、彼女の忘れたタブレットを取り出す。
「これ落としていったんじゃないか?」
「あっ……どうもっす」
七瀬は気まずそうにそれを受け取った。
それを見届けた京葉が口を開く。
「ようやく全員が集まったな。キミら三人は今日が初めての新人、だから私がリーダーとなって引率することになった。つまり我々四人はグループと言うことだ」
川蝉は順に七瀬、ニット帽を被った青年と京葉を見渡す。ぱっと見で問題のありそうな感じでないのは幸いだった。
不意に隣にいたニット帽の青年が話しかけてくる。
「俺は日吉ってんだ」
「川蝉透、よろしく」
「おう、よろしくな」
日吉はニカっと笑みを浮かべてそう言った。
少なくとも人当たりは良さそうな感じである。
「あの川蝉さん、私は七瀬です。先程はいろいろすみませんでしたっす」
申し訳なさそうに七瀬は謝罪と自己紹介をしてきた。
「いや別に気にしてないから」
「それならありがたいっす」
そんな会話をしていたら部屋の照明がグリーンからレッドに変わった。
急激な色合いの変化に部屋全体がざわつく。
「そろそろ始まる。三人とも私の近くにいてくれ」
言われた通り、三人とも京葉の側に近寄った。
川蝉は奥のモニターに目をやる。先程まで時刻を示していたそれは壊れたように時間を進めて始めた。
京葉のグループ以外も四隅の方に集まっていた。
ただ一人だけ腕を組んで全員と離れた位置で佇んでいる女子がいた。凛とした表情で一匹狼のような少女が川蝉には不思議と印象に残った。
ざわついた中、日吉がおずおずと手を上げる。
「あの~、始まるって何がですかね?」
「転送だ」
慣れたように京葉は事務的に答えた。
「ダンジョンへ強制的に飛ばされる。覚悟はいいな? そんなこと言っても遅いか」
「もう一つ聞きたいことが――」
急に足下を失ったかのような浮遊感がきた。内蔵が重力に逆らって浮くような奇妙な感覚がする。
何もない光の中。
そうかと思えば次の瞬間、川蝉は地に足が付いていた。
見渡せば立っている場所は洞窟だった。
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