第40話  悪魔VS魔法少女。

 「お前の悪運もここまでだな」

 醜い顔をさらに酷く見せる嘲笑を浮かべた議長が、真っ黒な右手をゆっくり伸ばしながら嫌味な言葉を吐いてくる。

 「まさか悪魔から悪運なんて言葉を聞けるとは思わなかったけど大事なこと忘れてるぜ」

 焦ることなく余裕たっぷりの口調で言い返す。

 「そいつはなんだ?」

 「穴か出て大暴れしたことだ」

 「まさか俺の世界に行った時みたいにまた天使に助けてもらおうと思ってんのか~?」

 「仰る通りですよ。議長」

 マリルが、敬語を交えながら芝居がかった声で言い返す。

 「その割りには何も起きねえな~」

 ワザとらしく上下左右を見回してみせた。

 「ちょっと守! どうなってるの?!」

 振り返ったマリルに大声で、怒鳴られてしまう。

 「おかしいな~。これでいけると思ったんだけど」

 「残念だったな。天使が来ないなら力を解放するか~」

 両手を伸ばした議長の体から漆黒の雲が溢れ出て、青空を覆い始めていった。

 「あの雲は・・・まさかっ」

 漆黒の雲を見た瞬間、悪魔の世界で感じた不快感が蘇ってきた。

 「こいつはな、俺の世界と同じ物質で出来てるんだよ」

 「この世界を悪魔の世界にするつもり?!」

 「そうだ。この力を使わせてくれた礼にお前達はじっくり痛め付けてやるよ」

 勝利を確信した議長が、右腕を振り上げた直後、間を遮るように強烈な光が降り注いできた。

 

 「ここはどこだ?」

 そこは世界を移動する際に見る光の空間だったが、今は粒状の光に覆われているだけで流れは無かった。また暖かな感覚に包まれているせいか、さっきまで危機的状況に身を置いていたにもかかわらず、とても穏やかな気持ちになれる場所でもあった。

 「ここに居るのは俺だけか」

 光の世界に生身を晒している上に、マリルの姿はどこにも見当たらなかった。

 「一人ってことを除けば想定通りだな」

 「それはどういう意味ですか?」

 空間全体から聞こえる声で問い掛けられたが、悪魔の声とは反対の優しさを感じられるものだった。

 「天使の出現条件だよ。悪魔に追い込まれないと助けてくれないんだろ」

 「その通りです。よく分かりましたね」

 「前に助けてもらった時とマリューさんから聞いた話を元に考えた結果さ。それでも九割は賭けだったから来てくれて本当に助かったよ」

 「そういうことでしたか。言った通り私は悪魔が世界に干渉しなければ力を行使することはしません」

 「その割りには人間が魔法いになるのを止めなかったよな」

 「あれは彼等が自ら望んだ選択だからです。その世界に住む者の選択を妨げることはしないと決めているのです。それが悪に通じるものだとしても。ですからあなたの世界が最悪の結末を迎えることになっても止めはしません」

 「手厳しいね。それじゃあ、今回は助けてくれるんだよな」

 「助けますが、これが最後になります」

 「どういうことだ?」

 「今戦っている悪魔が他の世界に居る最後の一匹ですから」

 「悪魔と戦う理由が無くなるわけだ」

 「そういうことです」

 「そうだ。礼を言うのを忘れてた。悪魔の世界に行った時に助けてくれてありがとう。けどゴイールの時には助けてくれなかったか」

 「ゴイールの時はあなたなら勝てる思ったからで、悪魔の世界に行った時は別の可能性があると思い、禁忌を破って介入したのです」

 「別の可能性って?」

 「魔法使いを悪魔から解放することです」

 「悪魔からの解放か」

 「そうです。昔話をしましょう。世界は混沌から始まり、やがで光と闇に別れ、光から生まれたのが私達で、闇から悪魔が生まれた後に妖精や精霊に人間などが生まれていきました。その生まれた者達を支配しようとした悪魔と戦い、どうにか勝利しましたが、その結果として世界はバラハラになってしまいました。それから悪魔を一つの世界に押し込めた後、他の世界に干渉できないように全員の体を砕いて世界の隙間を光で満たしたのです」

 「世界を移動する度に見る光の空間は天使の欠片だったのか」

 「はい。それによって世界は平和になると思いましたが、人間の世界に隠れていた悪魔と一部の人間が取引をしてしまったのです」

 「初めの頃に持ってた魔法を永続してくれるように頼んだんだっけ」

 カイサルから聞いた話を思い出す。

 「そうです。世代を経るごとに万能の力が失われることを恐れ、悪魔の使いである魔法使いになってしまったのです」

 「それを選択と放置してここまで来たわけか。けど、なんで今更解放させようとするんだ? 人間の選択なんだから放置すればいいだろ」

 「悪魔の使いを他の世界に残したくからです」

 「そういう理由か。いいだろ。魔法使いのことは俺がなんとかするから今は力を貸してくれ」

 「分かりました。それではあなたに天使の祝福を」

 光の一部が人の形を作って、額にキスをしてきた。


 「ここはマジンダムの中か?」

 気付けば、マジンダムのコックピットに居た。

 「今どうなってる?!」

 身を乗り出して、マリルに現状を尋ねる。

 「大ピンチのまま」

 画面越しの議長を指さしてしてくる。

 「時間は全く経ってないわけか」

 「そうよ。何があったの?」 

 「天使に会ってきた」

 「本当に?! ちゃんと話はできた?」

 「バッチリだ。後は今のマジンダムで戦かえるかどうかだな」

 「私が元に戻してあげる」

 マジンダムの胸の上にマリューが現れた。

 「マリューさん?」

 「お母様?」

 「奥さま?」

 「マリュー・アウグストゥスだと~?」

 四者が、驚きの声を上げた。目の前に予想外の人物が現れれば、当然の反応だろう。

 「こんなこともあろうかと来る機会をずっと窺っていたの。守君、私が力を貸して上げるわ」

 現れた理由を説明した後、マジンダムに右手を乗せると全身が輝き、その光に包まれることで、機体はあっと言う間に元通りになった。

 「エレメントキャノンのパーツまで付いてる。時を戻す魔法を使ったんですね」

 「お母様、そんなに力を使って大丈夫なのですか?」

 「このくらい平気よ。さあ、思う存分戦いなさい」

 髪の毛に少しばかり白髪の混じっているマリューは、白い歯が見えるくらいに微笑んだ後、転送魔法で離れた。

 「ここまでお膳立てしてもらったからには負けるわけにはいないな」

 「絶対に勝つわよ! ホオガ! ライガ! フウガ!」

 「承知!」

 マリルの呼び声に応えて、三人の従僕達がマジンダムに憑依していく。

 「全員、揃ったな。いっくぞ~!」

 全身に力を込め、体中から出した金色の光で機体を包み、マジンダムを黄金に染め上げていった。 

 「その光は、まさか・・・」

 議長が、初めて怯んだ様子を見せた。

 「天使様から授けてもらった力だよ。グレートマジンダムゴールドモードだ!」

 「またロボットの種類名?」

 「そういうこと」

 「何がゴールドモードだ。消し飛ばしてやる」

 議長は、口から炎を吐き出してきた。

 「アースシールド!」

 左手に召喚した盾で、炎を完全ガードした。

 「俺の炎が効かないだと~?」

 「効かないだけじゃないぜ。シールドリバース!」

 盾を前面に出して、炎を倍以上の太さにして跳ね返す。

 「自分の炎にやられてたまるかよ」

 議長は、左手を前に出して炎を防いだ。

 「今度はこっちから行くぜ! バーニングナックル!」

 両手にナックルを装着して、議長に正面から向かって行く。

 「炎が効かないなら直接ぶっ壊してやる!」

 議長が、突き出す右パンチに応えるように、右拳を打ち出す。

 二つの拳がぶつかり大気を震わすほどの轟音が鳴り響く中、議長の右手は風船が破裂するように弾け飛んでいった。

 「俺の右手が~!」

 「右手だけで済むと思うなよ~!」

 「今までやられた分たっぷり返してあげるわ!」

 地面を蹴って飛び上がり、議長の真っ黒な顔に右パンチをぶち当て、仰け反らせた上に頬を削って煙を引き出させた。

 「よくも俺の顔を~」

 「まだまだこれからだぜ! サンダーランサー! ガイアハンマー! ブレストブーメラン! ファイヤーボンバー! ストレートサンダー!」

 ナックルをしまった後、他の武器や魔法を使って、反撃する暇を与えずに攻撃しまくっていく。

 「この~! ちょこまか動くんじゃねえ!」

 議長は、全身から手を出して、マジンダムを捕まえようとしてきたが、トマホークの高速斬りで全て破壊していった。

 「これならどうだ?」

 両腕を上げ、暗雲から真っ赤な隕石を大量に降らせてきた。

 「それがなんだっていうの。グレートアロー! ゴールドシューティングスター!」

 翼を変形させた弓矢を両手に持ち、上空に黄金の矢を放った直後、天から大量の金の矢が降り注いで暗雲を散らし、隕石を一つ残らず破壊していった。

 「・・・・やってくれるじゃねえか」

 全身に金の矢を浴びて、煙を上げる議長は、半分ほどの大きさに縮まっていた。

 「そろそろとどめといこうか」

 アローを翼に戻した後、議長を両手で掴んで、一直線に放り上げた。

 「エレメントキャノンだ!」

 「分かったわ!」

 両手に持ったエレメントキャノンを真上に向け、銃口から放つ極太の金色の光波で、議長を見えなくなるまで打ち上げた後、上昇して追いかけた。

 

 「ここは宇宙か」

 マジンダムと議長は、魔法の世界から出て、星があまねく宇宙に居るのだった。

 「俺とマジンダムもついに宇宙デビューか~」

 宇宙に出たことへの嬉しさを声に出す。

 「私も宇宙に出たのは初めてって何呑気なこと言わせんの?! それとどうしてマジンダムは宇宙に出ても平気なわけ? 魔法使いでさえ空気を吸えるように魔法を使うって教えられたのに」

 「宇宙でも戦えるマルチ仕様だから」

 「やっぱり巨大ロボットは理解できないわ」

 やれやれと頭を振って見せる。

 「おい、お前ら~俺を無視してんじゃねえぞ~!」

 議長が、無視されたことへの怒りをぶちまけてくる。

 「悪魔が何か言ってるみたいだけど」

 「宇宙だと声聞こえないんだよな~」

 画面越しから見る議長は、口を大きく開け閉めしているだけだった。

 「それじゃあ終わりにしようぜ」

 「何で倒すの? エレメントキャノン? グレートブレード?」

 「いいや、ドリルだ」

 「ドリル~? あれは地面を掘る機械でしょ」

 「本来はそうだけど武器としても使えるんだよ。とにかく転送してくれ」

 「分かったわ」

 目の前に転送されたドリルを右手に接続し、回転させながら掲げる姿勢を取った。

 回転するドリルは、金の粒子を振り撒き、マジンダムを黄金のベールで覆っていった。

 「いくぜ~!」

 ドリルを前面に突き出して、議長に突撃して行く。

 「鉄で出来た木偶人形なんぞにやられてたまるか~!」

 議長が、苦し紛れに全身から出す光波を、ドリルで弾き返していく。

 「私達魔法使いと」

 「巨大ロボットの力を」

 「思い知れ~!」

 二人のハモリと気合いの込められたドリルは、議長の真っ黒な腹を猛烈な勢いで貫き、上半身と下半身を分断させた。

 「こ、この俺が負けるのか~?!」

 「そうだよ。だから潔く往生しな」

 「これから魔法使いは悪魔から離れて生きていくわ」

 マリルが言い終えた時には、議長は金色の粒となって消えていた。

 「私達勝ったのよね」

 「大勝利だよ。なんたってグレートマジンダムは」

 「最強無敵だから!」

 再度声がハモった後、機体の向きを変えて魔法の世界に入り、いつもの中央広場に着陸した。

 そこにはマーベラス、ジョバン、マリューにクラウディアの他にメルルやクダラにバロッケンの姿もあった。

 黄金の光を消して片膝を付いたマジンダムが、右手に乗せた二人を地上に降ろす。

 「マリル、よくやった」

 「マリル、頑張ったな」

 「マリル、頑張ったわね」

 「マリル、大役お疲れ様でした」

 「マリル姉様、御無事でなによりです」

 マリルに駆け寄ってきたアウグステゥスとパプティマスの両家が、賞賛の言葉を掛けていく。

 「守様、見事でしたよ」

 「守殿、さすがでござる」

 「まもはんは漢の中の漢やで~」

 「まもちゃん、惚れ直しちゃったわ~」

 「見事な働きでありましたぞ」

 「さすがは我等が信頼を置いた男だけのことはあるでおじゃりますな~」

 守に寄ってきたのは、従僕とバロッケンとクダラだった。

 「俺には男だけか~い!」

 思わず不満が洩れてしまう。

 「大丈夫、私達も居るから」

 そう言って近付いてくるは、ドロシーとシグナスだった。

 「二人供どうしてここに居るんだ?」

 「あなたが悪魔に勝ったというので女王の命を受けて祝福しに来たのです」

 「なるほど、シグナスの事情は分かったとしてドロシーは謹慎中だろ。外に出て良かったのか?」

 「こんなめでたい日に邸になんて居られるもんですか。バルトお兄様が止めようとするから眠らせて駆け付けてきたのよ」

 「そういうことか。まあ何にせよまた二人に会えて嬉しいよ」

 「本当に悪魔を倒すなんて大したものね~」

 「正に英雄ですね」

 二人から称賛の言葉を贈られていく。

 「最強無敵のマジンダムがあれば悪魔なんてどうってことないぜ~」

 女性陣に誉められたことで、思わず鼻高な言葉が出てしまう。

 「随分と楽しそうね~守~」

 いつの間にか側に来ていたマリルが、重たい声で問い掛けてくる。

 「二人から祝福の言葉をいただていただけだぞ」

 あまりの剣幕振りに、妙な言い回しで事情を話してしまう。

 「まあ、いいわ。ありがとう。あなたのお陰でみんなとこの世界を守ることができたわ」

 表情を緩め、改まった態度で礼を言ってきた。

 「俺じゃないよ。マジンダムの性能のお陰だ。それでこれからどうするんだ? 悪魔だったとはいえ一番の偉いさんが居なくなったけど」

 「最高議長が居なくなったから根本から立て直しだな。しばらくはクラウド議長に代理を務めてもらうよ」

 「わしはもう疲れたからこれを機に引退して余生送らせてもらうわ」

 いきなりの引退宣言に魔法使い達が、一斉にどよめいた。

 「とにかく再建に励むさ。議長が逃した契約者達も捕まえなければならないし」

 「そういう問題もあったな。俺達が捕まえた連中も逃げたんだろうな」

 「私は残っていますけどね」

 ブックマスターが、当たり前かつ親しげに話しかけてくる。

 「なんで、お前がここに居る?!」

 守の言葉に合わせて、全員が身構えていく。

 「封印が解けて自由になったからに決まってるじゃないですか」

 「逃げる気ないのかよ?」

 「私は人に元々使われる身ですからね。誰に使われるでもなくどこかへ行こうとは思いません」

 「アキハバラに居た時には好き勝手やっていたじゃないか」

 「あれは自意識に目覚めたばかりだったのでつい暴走してしまったのです。今は守君達を通して色々なことを学びましたので可能であればまた誰かのお役に立ちたいと思っています」

 「それなら私に仕えるといいわ。ちょうど従僕を捜していたところだし」

 マリューが、受け入れを申し出た。

 「ありがとうございます。それでなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

 「”マリュー様”でお願い」

 クラウディアをチラ見しながらの返事だった。

 「親父さん達はどうするんだ?」

 マーベラスに話題を振った。

 「まずはケバブに新しい空中都市を造ってやることだな。ただ人間のクローン生成っていうタブーをやったから王様失格だろうけど」

 「いいえ、あなたはこれからも我等の大王でございます」

 クダラとバロッケンが、姿勢を正して忠誠の言葉を口にする。

 「ありがとう」

 「そっちもどうにかなるみたいだな」

 両家が安堵の表情を見せていった。


 「全部終わったようですね」

 「どうして、私を助けたの?」

 「その質問はあの人に言ってください」

 カイサルが、近くに立っている父親を顎で指し示す。

 「お父様、いえ、そんな資格もう無いわね」

 「父と呼んでくれて構わんよ。わしらはこれから"家族"として出直すのだから」

 「よろしいのですか?」

 「もう決めたことだからな。カイサルもいいだろ?」

 父親の言葉に対して、フローラとカイサルは顔を見合わせた後、笑いながら頷いてみせた。

 「これからどうしましょうか?」

 「都市を出て外の世界を歩き回ってみようじゃないか。私達に相応しい場所が見つかるかもしれん」

 「それでしたらお父様の杖を取り戻さないと」

 「杖はいらない。わしらは魔法というものに縛られ過ぎていたんだ。これからは魔法無しでもやっていける道を捜そう」

 「わかりました。お父様」

 フローラは、少し恥ずかしそうに父と呼んだ。

 「行きましょう。フローラ姉上様」

 カイサルは、嬉しそうにフローラを姉と呼んだ。

 それから三人は、満面の微笑みを浮かべながら並んで歩き出した。


 「そうだ。マリル、この際だから魔法連邦の最高議長になれよ。今なら悪魔を倒した功績で支持率高いから絶体なれるって。最高議長就任の最年少記録更新しちゃえよ」

 「ば、バカ言わないで、そこまでいけるわけないでしょ」

 「いいんじゃないか。マリルが最高議長になってくれれば、魔法使いとのやりとりもしやすいし。そうそう寝泊まりだけはこっちでしてね。仕事以外の時間は家族で過ごしたいし」

 マーベラスが、軽い調子で将来に付いて提案してくる。

 「何を勝手に決めているんだ。最高議長ともなれば魔法使いのトップなのだから寝泊まりはここですべきだろ。まあ週一くらいは通わせてやるよ」

 「そうですわ。マリルは私の料理が一番口に合うのですから」

 「私の料理が一番に決まっているでしょ」

 「姉様が、そのような高位な着かれるのでしたら、私は秘書官になります」

 アウグステゥス夫婦とパプティマス一家は、マリルを巡って言い争いを始めた。

 「あんたらほんとにマリルが大好きなんだな」

 守が、呆れながら言うと、全員が顔を赤らめながら黙った。

 「さてと、全部片付いたことだし、俺は帰るか」

 おもいっきり背伸びをしながら言った。

 「ねえ、守、これから色々大変だし良かったらだけど」

 「これ以上は付き合えないよ」

 「守」

 「この世界での俺とマジンダムの役目は終わったんだ。後はマリル達でやるべきだよ」

 「そうだけど」

 少し悲しそうな表情を見せる。

 「そんな顔するな。困ったことがあったらいつでも呼んでくれ。必ず助けに行くから」

 「うん」

 マリルは、ここ最近で最高の笑顔を見せてくれた。

 その後、マーベラスとジョバンを代表に魔法使いとドワーフの間で正式に和睦が結ばれ、それを祝しての盛大な祝賀会が開催された。

 その翌日、守は転送ゲートを使って帰ることになった。

 マリル達を付き添いにして、ゲートに入る際には、両家以外にも多くの魔法使いやドワーフが見送りに集まった。

 ゲートを発動させると、魔法連邦に来た時と同じ要領で屋敷に戻ってきた。


 「ホオガ様!」

 転送室から出た直後、かぐやが名前を呼びながらホオガにおもいっきり抱き付いてきた。

 「おいおい、皆の前で恥ずかしいぞ~」

 「この九日、会えなかったことを思えばなんてことありません」

 「まあ、後はよろしくやってくれ」

 一行は、ホオガを残して玄関へ行った。

 「またね。守」

 「またな」

 何も無い日のように挨拶して別れた。

 屋敷を出て、坂を下ったところで引き返して扉を開けてみたが、すでに無人だった。

 「だよな」

 それから屋敷を出たところで、スマホが鳴って番号を見ると柊からの着信で、出た途端、今日まで電話に出なかったことへの文句をたっぷり聞かされた。

 言い訳をしている最中、空が人間の瞼のように開き、大きな瞳が守を見詰めていた。

 とても愛しそうに。

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