第39話 ドリルと魔法少女。
守達を追って来た魔法使いの一人が、迷彩スモッグが晴れて、姿を見せた王都を見て驚きの声を上げ、すぐに仲間を呼ぶと転送魔法で集まり始めていった。
「捜索隊の諸君、私はマーベラスだ。今から投降する為に外に出る」
魔法使いが全員集合するタイミングで、王都からの拡声器による宣言の後、入り口が開いて、マーベラスを先頭に守達が姿をみせた。
「この通り王都から出てきたぞ」
その呼び掛けに対して、魔法使い達は空中で停止したまま相談した後、三人が降下して正面に着地していった。
「すまない。面倒を掛けたね」
マーベラスが、三人に謝罪の言葉を掛ける。
「私は捜索隊の隊長バルト・スカーレットです」
真ん中の魔法使いが、一歩前に出て、立場と名前を言った。
「お前、バルトなのか? 隊長なんて出世したな~。新米だった頃に魔獣相手にちびってたの助けたこと覚えてるか~?」
懐かしそうに思い出話を振った。
「いつの話をしているのですか? まったく・・・」
バルトが、眉間に皺を寄せたシブい表情で言い返す中、後ろの部下達は体を震わせながら笑いを堪えていた。
「スカーレットってことはドロシーの親戚か?」
「兄だ。鋼守、君とは色々あったんだったな」
説明するバルトの表情が、シブさを増していく。
「兄貴なのか。ドロシー元気にしてる?」
ドロシーの近況を尋ねた。悪魔の世界に行った後、どうしているのか知らなかったからだ。
「自宅謹慎処分を受けて、邸の中で暇を持て余しているよ」
「そうか、無事で良かった」
無事だと分かって、胸を撫で下ろす。
「それでは改めまして投降していただけるのですね」
表情を引き締め直した上で、宣言の確認を取ってくる。
「彼を含めて投降するよ」
マーベラスが、返事をしながらカイサルを前に出す。
「カイサル・フローレンス? 灰になったと聞いてますが」
バルトと部下は、再生したカイサルを見て目を丸くしていた。
灰になった罪人が、五体満足の姿で現れれば、驚くのも無理はない。
「それも含めて証言するよ」
「分かりました。それでは投降の証として杖を渡していただきましょう」
バルトの要求に対して、ジョバンとクラウディアが持っている杖を差し出していく。
「マリル・アウグストゥス卿、あなたはマジンダムを」
「分かっているわ」
マリルが、玩具サイズに戻したマジンダムを差し出す。
「俺、カイサルに襲撃された時に杖は無くしてるんだけど」
マーベラスが、申し訳なさそうに杖の無い理由を説明した。
「無いのならそのままでけっこうです。次に拘束具を付けさせてもらいます」
部下が、手錠を持って近付いてくる。
「バルト、この子の前で拘束具は勘弁してもらえないだろうか?」
ジョバンが、メルルの肩に手を乗せながら拘束具の免除を頼んだ。
「いいでしょう。ただし拘留はさせていただきます。後ろにいるマリューさんとドワーフのお二方は下がってください」
指示通りにマリュー達が一歩下がった後、部下達は二つの玉が上下に繋がった道具を、守達の周囲四ヶ所に置いていった。
二人が戻り、バルトが杖を上げるのに合わせて、上部の玉が外れ、守達の頭よりも高く上がったところで、玉同士が光の線で結ばれ、間を薄赤い膜が覆っていった。
「これはなんだ?」
「魔法使い用の簡易拘束室でこの中では魔法は使えないの」
マリルが、疑問に答えた。
「バルト殿、大王の無事は保証できるのでおじゃるか?」
「それは議長がお決めになることですから私が答えることはできません」
「もし大王に何かあればただでは済まさないである」
「クダラ、バロッケン、よしなさい」
マリューが、臣下を諌めた。
「それでは我々はこれで失礼いたします。それとこの件はドワーフとの争いを臨むものではないことをご理解いただきたい」
バルトは、二人に戦意が無いことを伝えておじぎをした後、拘束室を牽引して、上空で待機している部下が開いたゲートに入っていった。
「女王、本当にうまくいくでおじゃりますかな?」
「マリル達を信じるしかないわ」
一堂を見送るマリューとクダラの会話だった。
ゲートを抜けた先は、魔法庁の真上で、異世界を移動する度に、どうして毎回建物の真上に出るのかと思った。
降ろされた場所は、これまたいつもの中央広場で、クラウドを含むお偉方に加え、御輿に乗った議長の姿もあった。
議長の姿を見たことで、拘束室に居る全員に緊張が走る。
「逃亡者全員を連行いたしました」
「ご苦労だったな。バルト隊長」
真ん中に立っているクラウドが、バルトに労いの言葉を掛ける。
「では、私はこれで失礼します」
バルトは、礼をして回れ右した後、部下を連れて、クラウド達の前から離れていく。
「バルト、ドロシーに元気だって伝えてくれ」
側を通るバルトに伝言を頼んだ。
「伝えておくよ」
バルトは、素っ気ない返事をして離れていった。
「拘束室から出そう」
クラウドが、杖を向けると幕と線が消え、玉同士が合わさって元の状態に戻ったところで、側に立っているホムンクルス達が回収していった。
「まず君達の罪状だが」
これまでと同じくバルトが進行役になって、仕切り始めた。
「その前に彼に証言させてください」
マリルが、話している途中で割り込んだ。
「彼とは?」
マリルが、振り返るタイミングでカイサルを前に出す。
「カイサル・フローレンスは灰になったはずでは?」
クラウド達が、一斉に声を上げたことで、広場がどよめきに包まれていく。
「天使様のご加護で生き返らせてもらったのさ」
「天使?」
議長が、小さな声を上げた。
その声を聞くなり、全身から世界樹の光を出し、マリルとカイサルの手を掴んで光で覆った直後、マーベラス達が灰になっていった。
「お父様~! お母様~!」
マリルが、悲痛な叫びを上げながら灰に駆け寄って行く。
「なんてことするんだ! こっちはまた何も言ってないぞ!」
「やっぱりか」
クラウドが、重い一言を放つ。
「やっぱりってどういうことだよ」
「君が悪魔の手先でカイサルを灰にしたのも君ということだ」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「議長のご推察だ」
「俺がやったって証拠があるのかよ?」
「君が居る状況で起こったのが何よりの証拠ではないか」
「そうかい、どうしても俺を犯人にしたいなら今すぐ無実を証明してやるよっ」
返事をしながら右拳を突き出し、議長に向かって光弾を放つ。
議長は、その場から動かず、光の膜を前面に張って光弾を防いだ。
「貴様、議長に向かってなんということを~!」
クラウドの声を震わせるほどに激昂を合図に、立ち上がった魔法使い達が、杖を向けてくる。
「議長が悪魔だって証明したんだよ」
軽い口調で、光弾を撃った理由を説明する。
「どういうことだね?」
「この力は普通の生き物に害は無いんだ」
言いながら目に付いた魔法使い達に向かって、光弾を当てていく。
「なんとも無いだろ?」
「本当だ」
「痛くも熱くもない」
光弾を当てられた魔法使い達が、不思議そうな顔で無害であることを証言していった。
「それなら防御した議長は・・・」
クラウド達が、戸惑いなから議長に視線向ける。
「バレちまっちゃあしょうがね~」
議長が、表情はそのままに乱暴な言葉を発した。
「ぎ、議長?」
突然の豹変にクラウド達は唖然となり、広場が妙な雰囲気に包まれていく。
「正体現したな」
「だが、その前に」
言い終えるなり、玩具サイズのマジンダムを右手に引き寄せた。
「お前、マジンダムをどうするつもりだ?!」
「こうするんだ」
返事をしながら右手を閉じる動作に合わせて、マジンダムを粉々に砕いた。
「うわああぁぁぁ~! 俺のマジンダムが~!」
守の悲痛な叫び声が、広場中に響き渡る。
「どうだ? こいつがなけりゃ何もできないだろ~?」
完全に勝ち誇った口調で、問い掛けてくる。
「・・・・」
返事をせず、崩れ落ちるように膝を付いた。
「お前ら出ろ」
その言葉の後、悪魔達が広場に集まってくる。
「お前達は捕らえた囚人達じゃないか」
「俺が出したんだ。文句あるか?」
議長の高圧な返事を前にして、クラウド達は萎縮してしまい、何もできなかった。
「じっくり痛ぶりながら殺してやるよ。やれ」
契約者達が、舌なめずりしながらゆっくりと近付いてくる。
「な~んてな」
顔を上げ、不敵な笑いを見せながら言い返す。
「ここまできて減らず口か~?」
「口だけじゃないぜ。マリル」
呼び掛けに頷い顔を上げたマリルが、詠唱して右手を天に向けた直後、空にゲートが開いて、四機のマジンダムが出てきた。
「どうなってんだ? マジンダムは破壊したはずだぞ」
「マジンダムは一機だけじゃないんだよ」
四機のマジンダムが、議長を見下ろすように空中で停止していく。
「どうせ偽物だ。攻撃して破壊しろ」
議長の命令を受け、契約者達が口や手から炎や雷を出していく。
四機は、突き出した左手から展開した防御魔法陣で攻撃を防いだ後、威嚇するように空に向かって炎、雷、風、雹を出していった。
「どうだ。これで偽物じゃないって分かっただろ」
「本物だろうがなんだろうが壊せばいいだけだ。攻撃を続けろ」
「それができればな」
全身から光を出して広場いっぱいに広げ、契約者達を一人残らず焼いていった。
「油断したな」
議長に言葉を掛ける横で、マリルが体を煙を上げて倒れている契約者達を転送魔法で、牢屋に飛ばしていく。
「やりやがったな~」
「これで終わりだと思うなよ。マリル!」
呼び掛けに合わせて、議長の前に転送してもらう。
「なに?」
「遅いぜ!」
議長が動くよりも早く、光らせた右手を腹に突き刺す。
「どうだ? 効いただろ~?」
腹から煙を出している議長に向かって、わざとらしく問い掛けてやる。
「くっそ~ここまでやられちゃあもう容赦しねえぞ~」
「マリル!」
「分かってるわよ!」
返事に合わせて、マントの下から出したマジンダムを巨大化させた。
「俺が壊したのはニセモノだったのか?」
「偽物じゃなくてレプリカだ」
言い終えるタイミングで、マジンダムのコックピットへ転送してもらう。
「みんな~引っ込んでろよ~!」
その言葉に従うようにクラウド達が、転送魔法で離れていく。
「久々にデカくなって」
「その必要はないぜ」
光を放つ右手で、巨大化する前の議長を鷲掴みにする。
「あんたにはもう用は無いからな」
「てめえ~汚ねえぞ!」
「悪魔が言うな」
言い返しながら右手を閉じて、議長を握り潰した。
「鋼守にアウグストゥス卿、これはいったいどういうことなんだ?」
マジンダムから降りた後、側に現れたクラウドが困惑した様子で、事情を聞いてきた。
「議長だった悪魔を倒したんだ」
「本物の議長はどこに居るんだ?」
「悪魔が議長という存在になって私達を支配してきたのです」
マリルが、単刀直入に説明する。
「我々は悪魔の手先だったというのかね?」
「結果的にはそうなりますね」
辛い真実を伝えるだけに声も重苦しい。
「では、やはりパプティマス卿達を殺したのも議長なのか?」
「そういうことなるけど死んじゃいないよ」
「どういうことだね?」
「こういうことさ。みんな降りてきていいぞ」
呼び掛けに合わせて、空中で停止していたマジンダム達が着地した後、コックピットが開いて、マーベラス達が降りてきた。
「君達は死んだはずでは?」
クラウドが、驚きながら尋ねる。
「灰にされたのは身代わりのクローンで、意識と記憶をプログラムしたチップを脳に入れて、それらしく振る舞わせていたのです」
マーベラスが、種明かしをした。
「クローン? チップ?」
「ホムンクルスの上位技術と思ってください」
「そ、そうか。それで何故マジンダムに乗っていたのかね?」
「議長が我々を抹殺してマジンダムを破壊したと油断させる作戦だったのです。議長がどうするかは見当が付きましたからね」
「マジンダムは玩具と魔法石が融合したもので同じものは作れないと聞いているが」
「形だけコピーした純水なロボットです。さすがにドワーフの技術でも四機までが限界でしたけど」
「まったくこの年になって巨大ロボットに乗るとは思わなかったな~」
ジョバンが、やれやれと肩を回す。
「私は楽しかったですよ」
「私も~」
クラウディアとマリューの女性陣は、初めての操縦を楽しめたらしい。
「うまくいったでござるな」
「けっこうスリルあったけどな」
「あたくしは楽しめてよ」
「丸々一体に憑依できて嬉しかったですよ」
パイロットに続いて、従僕達が姿を見せた。
「アウグステゥス卿の従僕は、マジンダムに憑依していたのか」
「親父さん以外は不慣れだからそのサポートと死を偽装する為に憑依させておいたんだ」
「そういうことだったのか。これで全ては解決したのか?」
「まだ終わりじゃない。これから議長の本体を叩きに行くからな」
「その本体がどこか居るのか」
「この下さ」
言いながら地面を指さす。
「地下だって」
「そういうこと。そうなんだろ。カイサル」
「間違いない。一度だけだが行ったことがあるから間違いない」
「地下にどうやって行くつもりだ? 地面を掘る魔道具はあるが」
「それに付いては解決済みだよ。じゃあ反撃される前に行くぞ。マリル」
「では、行ってまいります」
マリルが、二組の両親に出発を告げる。続柄を言わなかったのは、言い合いを避ける為だろう。
「気をつけてな」
「がんばりなさい」
「しっかりやるのだぞ」
「必ず帰ってくるのですよ」
送り出しの言葉を言った後、マリューとクラウディアが順番にまりるとはぐしていく。
「そうそうカイサルをフローラに会わせてくれないか。協力する見返りなんだ」
「分かった。善処しよう」
「良かったな。カイサル」
「ありがとうと言っておくよ」
返事をするカイサルは、これまで見たことのない嬉しそうな顔で微笑んでいた。
それからマジンダムの右手に乗り、コックピットに運ばれる間、マリルは両親達に手を振り続けた。
「それでは私も行きます」
二人の搭乗に合わせて、リュウガがマジンダムに憑依した。
「マリル、やってくれ」
「任せて」
マリルの詠唱に合わせて、マジンダムの右手を四機に向けると形が崩れ、作りかけの粘土のようになって一つに合わさり、円錐形で渦巻き状に凹凸のある巨大なドリルに変形した。
「初めての錬成魔法なのに大成功じゃないか」
「私、魔法に関しては天才だから」
出来て当然といった感じの返事だった。
それからドリルを引き寄せ、右手に装着すると広場に響くほどの轟音が鳴った。
「ドリルを装着した感じはどうだ?」
通信機を通して、マーベラスが状態を聞いてくる。
「大丈夫。異常は一切出てないよ。さすがはドワーフの技術だ」
その言葉を証明するように、ドリルの付いた右腕を軽く動かしてみせる。
「いい感じだな」
物凄く嬉しそうな声が聞こえてくる。動く姿に満足したのだろう。
「前々から思ってたんだけどお父様って守と同じ部類の人間なのかしら」
「なんで?」
「なんか、巨大ロボット好きみたいだし」
「リュウガと同じくいい同士になれそうだ。ほら、行くぞ」
「分かったわ」
それから転送魔法で移動した。
「ここか」
着いた場所は、建物が一切無く、草木一本生えていない真っ白な地面が、どこまでも続く平地だった。
「ほんとにここでいいのか?」
空には雲がゆっくり流れる青空がどこまでも広がっていて、これからやる事を考えると、あまりにも穏やかかつ静かで、場違いな気持ちになってしまう。
「ここには大昔の魔法戦争で白い焼け野はらになってから人も住んでないし、生き物は一匹も居ないから大穴を開けても大丈夫なの」
「そんじゃあ本物の議長とご対面と行きますか。リュウガ頼む」
「承知しました」
リュウガの返事に合わせて、マジンダムを黒く輝かせるなり、高速回転させたドリルを地面に突き刺し、猛烈な勢いで地中を掘り進んでいく。
かなり掘り進んでもマグマのような熱を探知しない反面、大きな空洞に近付いることを、表示してあるソナーが示した。
「もうすぐ着くぞ」
「分かったわ」
掘り終えると、地中とは思えない大きな空洞に出た。
「ここがカイサルが言ってた議長の居る場所か」
「守、あれ見て」
マリルに言われて正面に視線を向けると、下半身を木の根っこのように地面に巡らせた巨大な悪魔が見えた。
マジンダムの数倍の大きさ、つり上がった目、豚っ鼻、耳まで裂けた口を合わせた醜悪な顔に加え、頭から突き出した二本の角が、ゴイール以上の存在であることを示していた。
「お前が議長の本体だな」
「よくも長い間私達を騙してくれたわね!」
「騙す~? 俺は力を失いたくないっていうお前のご先祖様のお願いを叶えてやっただけだぜ」
全く悪びれない返事だった。
「何がお願いを叶えただけだよ。それをネタにいいように働かせてるくせに」
「絶大な力を与えてやる代償さ。お前の世界じゃギブアンドテイクって言うんだろ」
人間世界の用語を持ち出しながら言い返してくる。
「それも今日で終わりよ」
「終らせられればな」
議長が、両手を上げて構えた。
「そう来なくっちゃな~」
「俺が怖くないのか?」
「あんたなんか全然恐くなんかないわよ」
マリルが、強い口調で言い返す。
「お前はどうなんだ? 人間」
「俺は恐いどころかわくわくしてるぜ~」
「わくわく~だと、何言ってんだ?」
「こんなデカくて凶悪な敵と戦えるなんて巨大ロボット好きには堪らない展開だからな」
虚勢ではなく、本心から言っているのだ。
「まったくおかしな奴だよ。お前は」
「お褒めいただきどうも」
「誉めてないと思うんだけど」
マリルから冷静に突っ込まれてしまう。
「こういう場合はいいんだよ」
「死ね」
議長が、大きく開いた口から青黒い炎を吐き出してきた。
マジンダムをハイスピードフォームにして、炎をかわしながら議長の背後に回り込む。
「エレメントシュート!」
議長の巨大な背中に向かって、エレメントキャノンを撃つ。
「当させると思うか~?」
背中から出てきた顔が吐き出す炎によって、キャノンの光波はあっさり押されてしまった。
「ちぃ」
エレメントキャノンを放棄して離れた直後、炎に飲み込まれたキャノンが、跡形も無く焼失していく。
「くっそ~エレメントキャノンが~」
「そんなことより次の攻撃でしょ!」
「そんな暇与えるかよ」
その後、全身から顔を出して、空洞中に炎を吐き散らしていった。
「このままじゃ攻撃できない。外に出るぞ」
「仕方ないわね」
掘った穴を通って外へ向かう。
「逃がすか」
議長は、背中に漆黒の翼を生やすと地面から離れ、穴を突き崩しながら追いかけてきた。
「あの巨体であんなにスピードが出せるのかよ!」
「悪魔なんだから規格外に決まってるでしょ」
「捕まえてやるぜ」
議長が、右手を伸ばしてきたが、ハイスピードフォームになって上昇することで、掴まれるギリギリのタイミングで外に出ることができた。
「なんだ。これは?」
議長は、外に出るなり、驚きの声を上げた。
空には、魔法使いとドワーフの大艦隊に加え、獅子と電竜と鷲の大群が、埋め尽くしていたからだ。
「お前を倒す為に集めたんだよ。俺の世界で言うサプライズってやつだ」
「私達魔法使いの意地を見せてやろう」
「ドワーフの技術力を思い知らしてやるよ」
「拙者の一族の猛者をかき集めたでござる」
「わいの一族も強いで」
「あたくしも精鋭を揃えたわよ~」
「雑魚が集まっただけじゃねえか」
「みんなやれ~!」
守の掛け声に合わせて、一斉攻撃が開始され、議長に向かってビーム、炎、電、風などが降り注がれていった。
「そんなもんが効くかよ」
議長が、言い返しながら口から発射した光波は、青空を突き抜け、上空の雲を跡形も無く吹き飛ばした。
「だったら、これはどうだ?」
光刃を形成したグレートブレートを振りかぶった姿勢で突撃し、刃の届く範囲に到達するなり、おもいっきり降り下ろしたが、議長の左手で受け止められてしいまった。
「これも効かなかったな」
「それでいいのさ。なんせ、時間稼ぎだからな」
言い返す背後に展開した魔法陣から空中都市が、猛烈な勢いで降下してきた。
「なに?」
「じゃあな」
マジンダムをハイスピードフォームで離れさせ、空中都市を議長に激突させるタイミングで、全員が転送魔法で離脱した後、爆心地に向かって何重にも防御魔法陣を展開することで、大爆発による被害を最小限に止めた。
「みんな何も言うなよ」
こういう時の禁句をいわせないように、全員に釘を刺す。
「見た目は派手だが効かねえぞ」
煙をかきわけて姿を見せた議長の額が開いて、漆黒の光波を発射してきた。
「させるか!」
全開にした光で防御しようとしたが、全く効果は無く、マジンダムは手足をもがれ、表面装甲を全て剥がされた状態で、落下して地面に激突した。
「これで終わりだ」
議長が、餌にありつく獣のように、ゆっくりと迫ってくるのだった。
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